サムライ少女を助けた中年冒険者のおっさん、やがて決意する

踊りまんぼう

文字の大きさ
25 / 25

第25話 体調不良のスミレ

しおりを挟む
第25話 体調不良のスミレ


「それじゃ……帰るか」
「……はい、なのですよ」

 コンセイの言葉にルルルナも頷いた。
 コンセイはひさしぶりの手伝いということで過去の作業を思い出しながらの仕事で疲れ、ルルルナは、初めての作業の緊張で疲れ、ということで仲良く二人とも疲労困憊の状態であった。
 傍から見ても疲れているなと、すぐに解るような足取り。

「うう、デストロイちゃんがこんなにも重く感じる日が来るなんて……」

 幾ら効率のいい身体強化とはいっても……成長もしているだろうが、回復魔法も使って疲労も蓄積している現状だとそんな感想も仕方ないとコンセイは思った。
 基本的に身体強化でモーニングスターを振り回しているだけに、魔力を消費した帰りだとそれは自然な感想だと思うのだが、同時に彼女が限界まで回復魔法や戦いをしてこなかったのかもしれないと推察する。

「まあ、慣れてくれば、ここまでしんどくなることはないと思う……ぞ」
「それは慣れるまでは、大変といっていると同じなのですよ……」

 コンセイの励ましに、さらに疲労が上乗せされたようにがっくりと肩を落とすルルルナ。

「……けれど、ヒーラーの重要性も少しは解った気がするのですよ」

 そんな中、ルルルナがぽつりとそう溢す。
 自分より実力が上の冒険者らしき者の治療も携わっただけに、ただモーニングスターを振り回して魔物たちを圧倒できると思い込んでいた勘違いが正されていた。

「そうか……」
「でも、でも、ルルルナはですとろーいもしたいのですよ」

 しょげた調子でもしっかりと主張してくるルルルナ。
 重くて辛いながらも、デストロイちゃんをうっとりした目で見ているあたり、根性入っているというかこだわっているな、というのが伝わってくる。

「ああ、解ってる」

 彼女の言葉に苦笑いを浮かべるコンセイ。
 ヒーラーの重要性が解ったといいつつも、なお自分で武器を振り回したいという彼女。
 何かしら意固地になるようなこと……恨みや復讐、トラウマなどがあるのだろうと思うが、深くは訊ねずにただ頷いてみせた。

 二人肩を並べて治療院から出て行く。
 ちょうど、スミレも切り上げてきたようでギルドの受付で換金している姿を見かける。

「お、ちょうどスミレの帰ってきたことだから、明日の予定についても……」

「ああ、コンセイ殿か……」

 手を挙げてスミレに合図を送りながらやってくるコンセイとルルルナ。それに気付いてスミレが二人に顔を向ける。
 依頼に苦戦したのか、彼女もまた少々疲れた感じだった。

「これが今日の報奨金です」
「……かたじけないでござる」

 ギルドの受付嬢には、にっこりと笑顔を見せて報奨金を受け取るスミレ。
 換金分を受け取ってから、身体ごと二人に向けるが、彼女の表情が少し暗い印象を受ける。

「あー、明日はルルルナも伴って南の森へと向かおうと思ったんだが……」

 ですとろーいしたいというルルルナの希望も叶えようとそんな提案するコンセイ。
 スミレの表情が気になるが、どうだろうと訊ねる。

「そのことでござるが……コンセイ殿、大変申し訳ないのでござるが」

 視線を外しお腹を抱えるようにして言い難そうな態度を見せるスミレ。

「どうした?」
「その……少々、体調のほうが」

 恥ずかしそうな表情と身体を庇うようなしぐさに、コンセイはスミレの言わんとするところを察する。
 女性ならではの不調ということだろう。

「そうか、だったら二、三日は休みにしようか。それならルルルナ、明日はスミレに着いていてくれないか。体調も悪いようだし」

 女性の問題となると、同じ女性がついておいた方が何かといいだろう。
 ルルルナに話を振ると、彼女は理解したようで頷いてくれた。

「……かたじけないでござる」

 詳しく聞かれないで二、三日とコンセイが口にしたことで、言わんとするところが伝わったようだとスミレは胸を撫で下ろす。

「解ったのですよ。しっかりとルルルナがお世話するのですよ」
「それがしでしたら、おそらくは明日一日休めば大丈夫だと思うのでござるが……」

「無理はすることはない。体調を整えてもらうほうが大事だ」

 コンセイの言葉にスミレが顔を曇らせる。

「それならば、なおのことそれがしが……いえ、その……」

 気まずそうに視線を逸らすスミレに、コンセイはちくりと胸を痛めつつも、優しく諭す。
 思ったほど今日の依頼で稼げていないのが後ろめたいのだろう。

「……明日は依頼をこなすつもりはないから心配しないでしっかりと休んでくれ」
「……承知したでござるコンセイ殿」

「ルルルナも傍に居るので頼ってくださいなのですよ」

 視線を合わさない二人にルルルナが強引に割り込むようにする。

「じゃあ、明日は休みで決定だから、スミレもゆっくり身体を休めるんだぞ。ルルルナも無理はしないでいいからな」

「はいなのですよ」
「解ったでござる」

 そうして三人は宿へと向かった。
 ルルルナは今まで世話になっていた宿を引き払って、コンセイとスミレの泊まっている宿へと宿泊先を変えたので、三人とも同じ方向へ向かう。

「…………」

 体調が思わしくないのか、スミレの足取りはいつもより重い。

 コンセイは、気付いているもののルルルナにフォローを任せて、スミレの足取りに合わせる様に自分の歩く速度を少しだけ落とすくらいしか出来なかった。

「じゃあ、ゆっくり休むんだぞ」

 宿の部屋前で別れる。
 スミレの苦しそうな様子に何が出来るわけでもないのだが、明日の予定が空いたからと酒場に繰り出すような気分でもないことは確かだ。

 コンセイは、夕食を取ったあとぼんやりと明日の予定について考えをめぐらすのだった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...