俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた

ましろ

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「愚息がそこまで拗らせているとは知らず、本当に申し訳ない!」
「まあ、ご存知なかったのですね? では、仕方がありませんわ。陛下とて、すべてを知るなど無理というもの」
「では!」
「はい。では、今、すべてを知った上でお尋ねいたします。私は今日、なんのために招かれたのでしょうか?」

 うふふっ、と微笑みながら、王子との結婚の話だなんて口にしたらぶっ殺すと言わんばかりに圧を掛けている。

「ナディージュ、格好いい……好きだ……」

 だがここに、空気を読まない、たがが外れて愛がダダ漏れの男がいた。

「……陛下?」
「すまん! ナディージュ嬢、バスチアンと結婚してもらえないだろうか!」

 ここで陛下が息を吹き返してしまったようだ。

「……私に人身御供になれと?」
「いやいやいやいやいやいや! この通り、バスチアンは君への愛を今後は隠すことなく、今までの失礼な態度を改め、愛を注いでいくことだろう!」
「それで?」
「も、もちろん、今からの王子妃教育が大変なのも分かるが、君は優秀だ。いきなり、式の前にすべてを終わらせろなどと言う気はない。無理のない速度で進めてもらえば!」

 陛下が必死。なんならこの数分で老け込んだ気すらする。

「なぜでしょうか。王子妃などまったく望んでいないのに、私ばかりが努力しなくてはいけないのですね?」
「え」
「私を物心つく頃からいびり倒してきた悪魔の横で微笑みながら、影では死に物狂いで学び、恋をこじらせた迷惑男に生涯、奉仕し続けろと。
それに対して殿下はただごめん、好きだと言えただけで望むものを手に入れられるのですか。へぇ? 王族ってすごいのですね」
「え? あの、ナディージュ嬢?」
「それで? もし、三年以内に子どもができなければ、『すまない、国のためなのだ』と側妃という名の愛人を容認させられるのでしょう? ああ、もしかするとそれよりも前に、バイヤール国の姫君が嫁いでくるやもしれませんね。そうすると、側妃になるのは私の方かしら」

 バイヤール国とは海洋条約を結ぶ途中。もしかして、殿下との婚姻をもって二国を結ぶ的な話か?
 ギギギッ、と護衛たちの首が殿下の方に向けられた。

「違う! それはちゃんと断った!」
「なぜですか。結婚したらいいのに。揉め事がひとつ消えますよ?」
「俺の夢と希望も消えるじゃないか!」
「だって、王族ですもの。結婚なんて国のためにするものでしょう?」
「……正論は人を傷つけるんだぞ」
「11年、私も傷つきましたが」
「本当に申し訳ございませんでした! でも、好きだ!」
「私は好きではありません」

 どうする、このままでは並行線だよ殿下。だってどう聞いていてもナディージュ嬢の言っていることのほうが筋が通っているんだ。もう諦めるべきなのでは?

「……私に王族の義務があると言うなら、君にだって貴族としての義務があるじゃないか。もう、行き遅れなんだから、ここはありがたく結婚するべきだろう」

 なぜそんなことを言っちゃうの⁉ 殿下は何がしたいの、結婚したいんじゃなかったのか。どうしてそこで喧嘩を売るんですか!



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