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「……あの……ください、とは」
「そのままの意味です。どちらかと言うと、お婿に下さい的な?」
「えっ?!いつの間にそんな話に!」
「これからです。頑張って口説こうと思ってるけど、先に外堀を埋めていこうかなと思って」
楽しいくらいにエスカランテ様が動揺している。
「それに我が家くらいの場所に収まってくれた方が皆さん安心でしょう?」
「それは……」
オルティス家の得意魔法は生体魔法。
ひたすら医療に特化した、でも、その長年の功績で王家からの保護があり、それでいて政治とは無縁の我が家なら、追い出された王子が謀反を起こす心配もない。
だってオルティス家のライフワークは人救い。絶対に戦なんてするはずがない。
「アルフォンソ様はずっと呪いの王子だとゴミ屑に言われてきたから、ご自分のことを周りを傷付け狂わす存在だと思っています。
だから我が家に来て欲しいんです。彼は人を救える人だと知ってほしい。
だから、お願いです。あの人を私にください」
エスカランテ様が無言でお茶を飲む。
「っ、はぁ~~っ」
すんごく大きなため息をつかれた。
「……最近の女性は凄いですね……まさかの逆プロポーズに本人が寝込んでいる隙に外堀を埋めていくなんて」
あら?そう言われると悪女みたいだわ。
「幸せを諦める癖がついてる人を振り向かせる為にはこれくらい積極的にならないと。それに、絶対に嫌がられない自信がありますので」
「なるほど?それは教えてもらえるのかな」
「本人に伝えた後ならお教え致しますよ」
そう。オフェリア様が最後に教えてくれた。
ゴミ屑と共に逝ってしまった彼女の、母としての愛情だと信じている。
「それにしてもなぜ私に許可を?」
「だって、エスカランテ様はアルフォンソ様のお父様の様な存在ですもの。当たり前でしょう?」
「は……そんな……まさか」
「アルフォンソ様が本当に信頼している人は、友であるリカルド様と、父親の様なエスカランテ様だけですよ」
「……父親って……私が12の時の子になってしまう。そこはせめて兄でしょう……」
そう呟いてエスカランテ様は静かに涙を零した。
「私は恵まれているな……」
「これからは国王としての重責が待っていますけどね」
「……現実を見せるな……いや、いい。10年……ラファエルが無事辺境伯を継げば、次の王はリカルドになるだろう」
「え?あれ?エスカランテ様、ご子息がいらっしゃいますよね?」
「ああ。フェルナンはイメルダより2つ上の17歳だ。アレには予定通りエスカランテ公爵を継いでもらう。そして次期王はリカルドだ。これはフェルナンも納得している。というよりホッとしているな。英雄と王位争いなど御免だと言っていたよ」
「それ……リカルド様は……」
「君を見習って外堀を埋めていくよ」
やだ、エスカランテ様から腹黒オーラが出てる。いい人だけでは国王なんて出来ないですよね!
でも、リカルド様が王様か。きっと最初は嫌がりながらもご自分の意志で引き受けるだろう。
あの方は貴族の義務を、苦痛としてでは無く、しっかりと自分なりに噛み砕き飲み込んで、やりがいと喜びを見出だせる人だと思うから。
「これからのお二人の治世を楽しみにしておりますね、エスカランテ様」
「ベルナルドだ」
「え?」
「私はもうすぐエスカランテではなくなる。ベルナルド・エルディアになるからね。義理の弟であるアルフォンソ様の妻予定の女性に陛下とは呼ばれたくない」
「では……」
「どうかアルフォンソ様を幸せにしてやって下さい」
「ありがとうございます!」
よかった。それに、エスカランテ様……ううん、ベルナルド様もアルフォンソ様を家族の様に大切に思ってくれていた。それが分かったことが嬉しい。
アルフォンソ様はそろそろ目覚めたかしら。
伝えたい事がたくさんあるわ。
アルフォンソ様の部屋にはまだ兄様がいた。
「指の方はどう?」
「なかなか難しいな。これは家に戻ってからかな。ここでは資料が足りない」
「仕方がないわ。そんなに簡単なはずないものね。
ところで。アルフォンソ様はどうして私と目を合わせないのかしら」
不自然な程に顔を背けているのはなぜ?
「じゃあ、俺は行くな」
「ミゲル?!」
いや、だから。どうして捨てられた子犬の様な瞳で兄様に縋るのよ。
「逃げても無駄だ。頑張れ」
兄様はとてもいい笑顔でアルフォンソ様にエールを送るとさっさと部屋から出て行った。
「……逃げるってどういうことですか?」
「……」
どうしたの?こんなアルフォンソ様は初めて。
……あ
「まさか……恥ずかしいの?」
「~~っ、言わなくてもいいじゃないか!」
やっと振り向いた顔は可哀想な程に赤くなっていた。
「あんな、子供みたいに泣いて……っ」
どうしよう。この可愛い生き物は何?
アルフォンソ様の素はこんな感じなの?
「私はとても嬉しかったですよ?」
「……ありえない……」
「私は格好良い王子様より、ありのままのアルフォンソ様を見せてくれた方が嬉しいわ」
「……君は趣味が悪いな」
本当に可愛い。最初は腹黒王子だと思ったのに。王子じゃなきゃハゲにしたいとすら思った人。
でも、知れば知るほど。優しくて、誠実で、人の為に自分を顧みずに王子として生きる少し悲しい人だった。
そして──
「大好きよ、アルフォンソ様」
こんなにも愛おしい人。
「そのままの意味です。どちらかと言うと、お婿に下さい的な?」
「えっ?!いつの間にそんな話に!」
「これからです。頑張って口説こうと思ってるけど、先に外堀を埋めていこうかなと思って」
楽しいくらいにエスカランテ様が動揺している。
「それに我が家くらいの場所に収まってくれた方が皆さん安心でしょう?」
「それは……」
オルティス家の得意魔法は生体魔法。
ひたすら医療に特化した、でも、その長年の功績で王家からの保護があり、それでいて政治とは無縁の我が家なら、追い出された王子が謀反を起こす心配もない。
だってオルティス家のライフワークは人救い。絶対に戦なんてするはずがない。
「アルフォンソ様はずっと呪いの王子だとゴミ屑に言われてきたから、ご自分のことを周りを傷付け狂わす存在だと思っています。
だから我が家に来て欲しいんです。彼は人を救える人だと知ってほしい。
だから、お願いです。あの人を私にください」
エスカランテ様が無言でお茶を飲む。
「っ、はぁ~~っ」
すんごく大きなため息をつかれた。
「……最近の女性は凄いですね……まさかの逆プロポーズに本人が寝込んでいる隙に外堀を埋めていくなんて」
あら?そう言われると悪女みたいだわ。
「幸せを諦める癖がついてる人を振り向かせる為にはこれくらい積極的にならないと。それに、絶対に嫌がられない自信がありますので」
「なるほど?それは教えてもらえるのかな」
「本人に伝えた後ならお教え致しますよ」
そう。オフェリア様が最後に教えてくれた。
ゴミ屑と共に逝ってしまった彼女の、母としての愛情だと信じている。
「それにしてもなぜ私に許可を?」
「だって、エスカランテ様はアルフォンソ様のお父様の様な存在ですもの。当たり前でしょう?」
「は……そんな……まさか」
「アルフォンソ様が本当に信頼している人は、友であるリカルド様と、父親の様なエスカランテ様だけですよ」
「……父親って……私が12の時の子になってしまう。そこはせめて兄でしょう……」
そう呟いてエスカランテ様は静かに涙を零した。
「私は恵まれているな……」
「これからは国王としての重責が待っていますけどね」
「……現実を見せるな……いや、いい。10年……ラファエルが無事辺境伯を継げば、次の王はリカルドになるだろう」
「え?あれ?エスカランテ様、ご子息がいらっしゃいますよね?」
「ああ。フェルナンはイメルダより2つ上の17歳だ。アレには予定通りエスカランテ公爵を継いでもらう。そして次期王はリカルドだ。これはフェルナンも納得している。というよりホッとしているな。英雄と王位争いなど御免だと言っていたよ」
「それ……リカルド様は……」
「君を見習って外堀を埋めていくよ」
やだ、エスカランテ様から腹黒オーラが出てる。いい人だけでは国王なんて出来ないですよね!
でも、リカルド様が王様か。きっと最初は嫌がりながらもご自分の意志で引き受けるだろう。
あの方は貴族の義務を、苦痛としてでは無く、しっかりと自分なりに噛み砕き飲み込んで、やりがいと喜びを見出だせる人だと思うから。
「これからのお二人の治世を楽しみにしておりますね、エスカランテ様」
「ベルナルドだ」
「え?」
「私はもうすぐエスカランテではなくなる。ベルナルド・エルディアになるからね。義理の弟であるアルフォンソ様の妻予定の女性に陛下とは呼ばれたくない」
「では……」
「どうかアルフォンソ様を幸せにしてやって下さい」
「ありがとうございます!」
よかった。それに、エスカランテ様……ううん、ベルナルド様もアルフォンソ様を家族の様に大切に思ってくれていた。それが分かったことが嬉しい。
アルフォンソ様はそろそろ目覚めたかしら。
伝えたい事がたくさんあるわ。
アルフォンソ様の部屋にはまだ兄様がいた。
「指の方はどう?」
「なかなか難しいな。これは家に戻ってからかな。ここでは資料が足りない」
「仕方がないわ。そんなに簡単なはずないものね。
ところで。アルフォンソ様はどうして私と目を合わせないのかしら」
不自然な程に顔を背けているのはなぜ?
「じゃあ、俺は行くな」
「ミゲル?!」
いや、だから。どうして捨てられた子犬の様な瞳で兄様に縋るのよ。
「逃げても無駄だ。頑張れ」
兄様はとてもいい笑顔でアルフォンソ様にエールを送るとさっさと部屋から出て行った。
「……逃げるってどういうことですか?」
「……」
どうしたの?こんなアルフォンソ様は初めて。
……あ
「まさか……恥ずかしいの?」
「~~っ、言わなくてもいいじゃないか!」
やっと振り向いた顔は可哀想な程に赤くなっていた。
「あんな、子供みたいに泣いて……っ」
どうしよう。この可愛い生き物は何?
アルフォンソ様の素はこんな感じなの?
「私はとても嬉しかったですよ?」
「……ありえない……」
「私は格好良い王子様より、ありのままのアルフォンソ様を見せてくれた方が嬉しいわ」
「……君は趣味が悪いな」
本当に可愛い。最初は腹黒王子だと思ったのに。王子じゃなきゃハゲにしたいとすら思った人。
でも、知れば知るほど。優しくて、誠実で、人の為に自分を顧みずに王子として生きる少し悲しい人だった。
そして──
「大好きよ、アルフォンソ様」
こんなにも愛おしい人。
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