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14.あなたの愛とわたしの愛
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「シェリー、ごめん!俺は…、」
入って来るなり挨拶も無く一方的に話し出そうとするベニーを見て切なくなる。どれだけ周りが見えていないのか。
「ごきげんよう、ベンジャミン・イングラム侯爵令息。先触れも無しに突然訪問するのは如何なものかしら」
よく見なさい。この場には両家当主が揃っているのよ?
私の言葉にようやく二人だけの場ではないと気付いたようだ。
「あっ…、ハミルトン伯爵。突然の訪問をお許し下さい」
「君は些か視野が狭くなっているようだね。そろそろ君も成人だろう。もう少し周りに配慮するべきだな」
「……申し訳ございません」
いつもは優しいお父様だけど、さすがにお許しにはならないわね。
「どうぞお掛けになって。お話をしましょう」
落ち着いて。冷静に。
「私達は立会人として残らせてもらうよ。大切な娘と二人きりにするほど君を信用していない。いいね?」
「……はい。承知致しました」
お父様、お気持ちは嬉しいのですがあまり刺激しないでいただけると……いえ、違うわね。この考え方自体がおかしいのだわ。
私はいつからこんなにもベニーに気を遣ってしまっていたのかしら。
「……ベニー。率直に言うわ。私はもう貴方とは一緒にいられない。婚約は破棄されるの」
「シェリー!嫌だっ、俺は別れたくないっ!!」
そう言うかなとは思っていた。でも。
「……それなら、なぜあんなにも大勢の前で私を傷付ける事が出来たの?」
「あっ…、違うんだ、俺は……、」
「貴方がどういうつもりで言ったのかは知らない。でも、貴方の発言のせいで、私は身持ちの悪い女だと世間に知れ渡ったのよ」
「そんな……、俺はただ、お前を奪われたくなくてっ」
「……私はそんなにも信用出来ない?誰にでも靡くふしだらな女だと、そう言うのね?」
「違うっ!」
「違わない。貴方の言動はいつも私をそういう女にしているのよ。自分の父親を誘惑して、旧友に会えば懐かしさに手を出し、自分の同級生さえ誘惑する娼婦の様な女だって。──ああ、阿婆擦れと言うのよね?」
なぜ貴方が傷付くの?それを言ったのは貴方で、貶められたのは私の方なのに。
「だって!シェリーは綺麗だっ!!顔だけじゃないっ、そんな魅力的な体に、なのに中身は優しくて賢くて可愛らしくてっ!
そんな……誰もが欲しがる様な魅力的な女性で!
俺みたいな成人もしてない子供の隣にいるべきじゃないって、誰かが攫って行きそうでっ、………怖くて、だから…っ」
「だから?興味を持たれない様に悪女に仕立て上げるの?」
「だから違うって言っているだろうっ!!
シェリーがっ!君が俺だけを見ていれば、そうしたらっ!!」
──ああ、貴方を信じたかったのに。
「ベニーはいつでも自分のことばかりね」
そこに愛はあるのだと、信じたかったのに。
「自分を愛してほしくて。自分ばかりが可哀想で。いつでも自分が自分が自分が。全部自分のことばかり」
貴方にあるのは自己愛だけだわ……
「違うよ、本当にシェリーのことが!」
「そうね。この顔も体も気に入っているものね?
でも、中身は信用出来ないから変わってほしかったのでしょう?自分に従順な、自分だけを見つめる、ベニーだけのお人形が欲しかったのよね?」
「……ちがう……」
「うそ。貴方の望みは貴方だけを抱きしめて愛してくれるそんな女よ。
だから私がカーティス様に仕事を学ぶのが気に入らない。友達と楽しく話をするのも気に入らない。恩師が自分の知らない学生の頃の私を語るのも気に入らない。私が誰かを褒めるのも気に入らない」
お願いだから気付いてよ。自分の望みが歪んでいることに。
「でもね、この世の中に私達二人だけの世界なんて存在しないわ。もし存在しているとしても、私はそんな閉じた世界は嫌よ」
「どうして……俺を愛していないの……?」
愛は全能じゃない。それだけでは生きていけないと、なぜ理解出来ないのだろう。
「私はハミルトンの娘だということを誇りに思っている。学園での学びも人間関係もこれからの私の礎よ。侯爵家に嫁ぐことだって本当に楽しみにしていたし、だから少しでも早く関わっていきたいと思って学園を飛び級してイングラム家に入った。仕事を教えてもらって、カーティス様や使用人達にもイングラムの人間だと認められて。
私はそうやって関わってきた多くの人達を愛しているし、そんなたくさんの宝物を持っている自分を誇らしく思うわ。
だから、私は貴方への愛の為にその宝物を捨てる気はない。
そのことを許せない貴方とは一緒になれない。
……私は、私の大切なものを貴方にも大切にしてもらいたかった」
それだけでよかったのに。私の大切なものを一緒に。貴方の大切なものも一緒に。そうやって互いの大切なものを守りあって宝物が増えていく、そんな優しさが欲しかった。
「私の大切なハミルトンを傷付けた貴方を許す訳にはいかない。
そもそも私達は政略的な婚約よ。お互いの家を守れない時点で貴方は婚約者として失格なの。
だから貴方の有責による婚約破棄、並びに両家を傷付けた事に対する償いを求めます」
入って来るなり挨拶も無く一方的に話し出そうとするベニーを見て切なくなる。どれだけ周りが見えていないのか。
「ごきげんよう、ベンジャミン・イングラム侯爵令息。先触れも無しに突然訪問するのは如何なものかしら」
よく見なさい。この場には両家当主が揃っているのよ?
私の言葉にようやく二人だけの場ではないと気付いたようだ。
「あっ…、ハミルトン伯爵。突然の訪問をお許し下さい」
「君は些か視野が狭くなっているようだね。そろそろ君も成人だろう。もう少し周りに配慮するべきだな」
「……申し訳ございません」
いつもは優しいお父様だけど、さすがにお許しにはならないわね。
「どうぞお掛けになって。お話をしましょう」
落ち着いて。冷静に。
「私達は立会人として残らせてもらうよ。大切な娘と二人きりにするほど君を信用していない。いいね?」
「……はい。承知致しました」
お父様、お気持ちは嬉しいのですがあまり刺激しないでいただけると……いえ、違うわね。この考え方自体がおかしいのだわ。
私はいつからこんなにもベニーに気を遣ってしまっていたのかしら。
「……ベニー。率直に言うわ。私はもう貴方とは一緒にいられない。婚約は破棄されるの」
「シェリー!嫌だっ、俺は別れたくないっ!!」
そう言うかなとは思っていた。でも。
「……それなら、なぜあんなにも大勢の前で私を傷付ける事が出来たの?」
「あっ…、違うんだ、俺は……、」
「貴方がどういうつもりで言ったのかは知らない。でも、貴方の発言のせいで、私は身持ちの悪い女だと世間に知れ渡ったのよ」
「そんな……、俺はただ、お前を奪われたくなくてっ」
「……私はそんなにも信用出来ない?誰にでも靡くふしだらな女だと、そう言うのね?」
「違うっ!」
「違わない。貴方の言動はいつも私をそういう女にしているのよ。自分の父親を誘惑して、旧友に会えば懐かしさに手を出し、自分の同級生さえ誘惑する娼婦の様な女だって。──ああ、阿婆擦れと言うのよね?」
なぜ貴方が傷付くの?それを言ったのは貴方で、貶められたのは私の方なのに。
「だって!シェリーは綺麗だっ!!顔だけじゃないっ、そんな魅力的な体に、なのに中身は優しくて賢くて可愛らしくてっ!
そんな……誰もが欲しがる様な魅力的な女性で!
俺みたいな成人もしてない子供の隣にいるべきじゃないって、誰かが攫って行きそうでっ、………怖くて、だから…っ」
「だから?興味を持たれない様に悪女に仕立て上げるの?」
「だから違うって言っているだろうっ!!
シェリーがっ!君が俺だけを見ていれば、そうしたらっ!!」
──ああ、貴方を信じたかったのに。
「ベニーはいつでも自分のことばかりね」
そこに愛はあるのだと、信じたかったのに。
「自分を愛してほしくて。自分ばかりが可哀想で。いつでも自分が自分が自分が。全部自分のことばかり」
貴方にあるのは自己愛だけだわ……
「違うよ、本当にシェリーのことが!」
「そうね。この顔も体も気に入っているものね?
でも、中身は信用出来ないから変わってほしかったのでしょう?自分に従順な、自分だけを見つめる、ベニーだけのお人形が欲しかったのよね?」
「……ちがう……」
「うそ。貴方の望みは貴方だけを抱きしめて愛してくれるそんな女よ。
だから私がカーティス様に仕事を学ぶのが気に入らない。友達と楽しく話をするのも気に入らない。恩師が自分の知らない学生の頃の私を語るのも気に入らない。私が誰かを褒めるのも気に入らない」
お願いだから気付いてよ。自分の望みが歪んでいることに。
「でもね、この世の中に私達二人だけの世界なんて存在しないわ。もし存在しているとしても、私はそんな閉じた世界は嫌よ」
「どうして……俺を愛していないの……?」
愛は全能じゃない。それだけでは生きていけないと、なぜ理解出来ないのだろう。
「私はハミルトンの娘だということを誇りに思っている。学園での学びも人間関係もこれからの私の礎よ。侯爵家に嫁ぐことだって本当に楽しみにしていたし、だから少しでも早く関わっていきたいと思って学園を飛び級してイングラム家に入った。仕事を教えてもらって、カーティス様や使用人達にもイングラムの人間だと認められて。
私はそうやって関わってきた多くの人達を愛しているし、そんなたくさんの宝物を持っている自分を誇らしく思うわ。
だから、私は貴方への愛の為にその宝物を捨てる気はない。
そのことを許せない貴方とは一緒になれない。
……私は、私の大切なものを貴方にも大切にしてもらいたかった」
それだけでよかったのに。私の大切なものを一緒に。貴方の大切なものも一緒に。そうやって互いの大切なものを守りあって宝物が増えていく、そんな優しさが欲しかった。
「私の大切なハミルトンを傷付けた貴方を許す訳にはいかない。
そもそも私達は政略的な婚約よ。お互いの家を守れない時点で貴方は婚約者として失格なの。
だから貴方の有責による婚約破棄、並びに両家を傷付けた事に対する償いを求めます」
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