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「でもどうして花冠の作り方をご存知なのですか?」
「俺にはカロル姉さんともう一人二つ上の姉がいるんだ。この二人に子供の頃に仕込まれた。
でも意外と覚えてるもんだな。最後に作ったのなんてアンジェリークより小さい頃だったが」
「凄いです。私も作り方を教えてほしいわ」
「お、やってみるか?」


教えられながら花冠を編む。ジェラール様が作ったものより少し不格好だけど、こんなことをして遊ぶのは初めてだから凄く楽しかった。
他にも草笛や、葉っぱで作った船を池に浮かべたりして遊んだ。


「ジェラール様は凄いですね。こんなにたくさんの遊び方を知っているのですもの」
「そうだな、貴族的な遊びでは無いかもな。辺境は自然が豊かなんだ。それに我が家は領民との交流も多い。こういう遊びもそうやって覚えたものがほとんどだ」


いいな、そういうの。私は侯爵家の別館しか知らない。いつもお祖母様と教師、あとは無口な使用人だけ。
たまに庭を散策するくらいであとはずっと屋敷の中で勉強をするだけの生活。
……考えるだけで辛い。ここに来てほんの少ししか経っていないのにもう堕落してしまったようだ。もとの生活に戻るのが怖い……


「アンジェリーク。俺との約束を覚えているか?」
「え、約束……」
「困った事や助けてほしいことがあったら?」
「……勇気を出して手を伸ばす……声に出す」
「よし、覚えてるな」


どうして今その話をするのだろう。


「知ってるか?何かを変えようと思ったら、自分を変えることが一番早いんだぞ」
「……自分を?」
「ああ。だって自分とはまったく考え方も立場も違う相手を変えることが可能だと思うか?」


どういうこと?なんの話なの?


「例えばお前に嫌なことをして来る人間がいる。相手にはそれなりの事情があるかもしれない。さぁ、どうやって止めさせる?」
「……止めてくれるようお願いをします」
「相手は大人だ。正当な理由があるからとお前の言葉を聞いてくれないぞ。さぁ、それで?」


どうしてそんな嫌なことを聞くの。


「……理由があって、言っても止めてくれないなら仕方がないから我慢します」


それ以外にどんな方法があるの?そうするしかないでしょう。


「そうか。いつまで?いつまで我慢し続けるんだ。お前が大人になるまでか。大人になっても相手の方が権力は上のままだ。それで?やっぱり仕方がないからと今度は相手が死ぬまで待つのか?随分と気長だな、何十年計画だよ」


私を馬鹿にしてるの。どうしてそんなに酷い言い方をするの!


「……だったらどうすればいいのですか。私が嫌だと感じても正当な理由があるなら仕方がないですよね。それは享受すべきことでしょう。嫌だと感じるのは私が我儘なだけです」
「質問。その理由は本当に正しいのか?」


……理由が正しいのか?そんなこと考えた事もなかった。だってそう言われてきた。お前の罪だと、だから償うしかないのだと。
間違っているなんて……そんなこと……


「ここにはたくさんの大人がいる。今までは同じ答えしか返ってこなかった事でも、これだけ大勢の人がいれば違う答えが見つかるかもしれない。
諦めて我慢する自分を変えてみないか?勇気を出して真実を探してみないか?
お前がそうしたいと願うなら俺も手伝うよ。必ず助けると言っただろう?」
「そんなこと……でも、聞いても同じ答えしか返ってこなかったら?」


聞いたせいで嫌われてしまうかもしれない。それならこのままの方が、ここでの幸せを守った方がいいはずでしょう。
……でも、本当に?


「そうしたら次の方法を一緒に考えよう。諦めなければ絶対に今より幸せになれる道が見つかるさ」
「……一緒に?どうして?」


なぜ私に構うの。家族でも何でもないのに。


「言っただろう、お前を守るって。理由が必要なのか?でも残念ながらそうしたかったから、としか言えない。だが、そんなに大層な理由なんて必要ないと思うが。
さっき上を見ろって言っただろう。俺は青空を見れば気持ちが晴れやかになる。自然に囲まれていると気持ちが落ち着く。そういう、心が動くことに理由なんて無いだろう」


空や花と同じなの?やっぱりこの人は意味が分からない。なぜか私を淑女でいさせてくれない酷い人。
相手を変えることが出来ないなんて嘘よ。だって私を変えてしまうくせに。いままで信じていたものを覆そうとするくせに!


「……あなたのせいで今より悪い状態になったらどうしてくれるの」
「お前って俺には生意気だよな。人慣れない野良猫みたいだ。よし、そんなツンツン猫はちゃんと最後まで面倒みてやるよ」
「誰が野良猫よ!」
「はいはい、そうですね、とても高貴なお猫様でした。で?どうする?」


やっぱり腹立たしい男ね!


「そこまで言うなら手伝わせてあげるわ。そのかわり失敗したら承知しないわよ」
「もちろんですよ姫君。必ずお守り致します」


……無駄に見目がいいのが更に腹が立つわ。




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