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「ラシュレ侯爵令嬢!貴方の今までの行いを許すことは出来ない!どうか罪を認めてくれ!」
卒業式を終え、その後に開かれるパーティー会場でそれは始まった。
卒業生でもあるアラン第三王子は普段はとても穏やかで、声を荒らげるところなど見たことがなかった。一体何が起きたのか──
「何をおっしゃっているのですか、アラン様。私がどんな罪を犯したと言うのです?」
「……それは自分がよく分かっているはずだ。コレットを執拗に虐めて来ただろう!」
突然始まった断罪劇。まだパーティーは開始前だったため、先生も数人しかおらず、相手が王子である為止めていいのか戸惑っていた。
「私とコレットは友人ですわ。ご存知でしょう?ねぇ、コレットからも説明してあげて?」
「わ、私は友人なんかじゃありません!貴方は友人の振りをして影で私を……私に……酷いことを……」
「コレット、それ以上言わなくていいよ」
そう言うとアラン殿下はコレットを庇うように前に出た。
「いつかはその愚かさに気付いて止めてくれると信じていた。だがもう無理だ。君は異常だよ……狂ってる。
貴方とは婚約破棄する。受け入れてくれ」
「……駄目ですよ、殿下。我儘を言うものではありませんわ。これは王家と侯爵家の契約。そんな勝手が許されるとでも?」
「貴方のような異常者が相手なら許されるよ」
「困った方ね。でも大丈夫ですわ、私が愛して差し上げますもの。愛しいアラン様」
「…っ、やめろ、やめてくれ!もう私を解放してくれ!……頼む……」
ざわざわと周囲がざわめき出す。断罪劇だと見守っていたが、断罪される令嬢が余裕たっぷりで、言い出した殿下の方が今にも頽れそうだ。
二人の異常な雰囲気に、見ている者達も何とも言えない気持ち悪さを感じた。
「では証拠は?私が虐めた証拠。それとも証言をする者がいるのかしら。それに。ねぇコレット、あなたはどんな虐めをされたの?」
確かに気になるところだ。ここまでするほどの虐めとはなんだ?
「……マイヤール伯爵令嬢。頼む、証言を」
マイヤール伯爵令嬢がゆっくりと前に出た。
「あの、なんのお話ですか?」
「……そんな……証言をしてくれると言ったではないか!ではモンテーニュ侯爵令嬢は!」
「私も分かりかねますわ」
呼ばれた令嬢達は何も知らないと小首を傾げている。
とうとう殿下が膝を付かれた。コレット・レスコー子爵令嬢がそんな殿下の背中に縋りつきながら泣いている。
「ごめんなさい、アラン様。やっぱり無理だったのです。ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで……」
「……いや、私が無力なんだ。ごめん……でも、これだけの騒ぎを起こしたんだ。婚約は破棄されるよ」
そして、駆けつけた教師達に殿下達は連れて行かれ、卒業パーティーは何事も無かったかのように始められた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「これが同じ会場にいた生徒から聞いた話だ」
……思っていた断罪劇ではない。父とレスコー子爵令嬢は何に怯えていたの?
「その後どうなったのですか?」
「多くの生徒が卒業を祝う場でそのような騒ぎを起こしたのだ。当然罰を与えるべきだし、罪の証拠も証言もないということは冤罪となる。こちらの有責で婚約も白紙にして慰謝料を払うつもりだったんだ、父上はね。
だがラシュレ侯爵令嬢が絶対に嫌だと譲らなかった。迷惑を掛けた責任というなら妻にして欲しいと訴えた。
アランはもちろん拒絶したよ。だが突然令嬢がアランに近付き何かを囁いた。そうしたら……
アランが結婚を承諾してしまったんだ」
そんな……一体何を言ったの?
お父様はお母様に脅されていた?
「どれだけ聞いてもアランは絶対に口を割らなかった。
このままクロディーヌと結婚する、真実の愛に気づいたと言うだけだった。コレット嬢のことを聞いても、自分の愚かさで巻き込んだだけだから、罪に問わないでほしいと。
ただ、最後に一度だけ彼女に会いたいと口にした。意外にもクロディーヌ嬢が5分だけならと許したんだ。
声は聞こえないくらいの位置に警備を置き、面会させた。二人とも泣いていたよ。
私達は結局真相を掴めないまま、それでも幸せになれるのならと見守るしかなかった」
証拠が無い、証言が無い……勇気を出した訴えを聞いてもらえなかった。
どれだけ虚しかったことだろう。たぶん、私と父は似ている。私もジェラールがいなかったら諦めていた。お父様の味方は力の無い子爵令嬢ただ一人。勝てるわけがない。それでも、それだけの事件を起こせば逃げられると思ったのだろうに……
一体お母様は何をしたの?
卒業式を終え、その後に開かれるパーティー会場でそれは始まった。
卒業生でもあるアラン第三王子は普段はとても穏やかで、声を荒らげるところなど見たことがなかった。一体何が起きたのか──
「何をおっしゃっているのですか、アラン様。私がどんな罪を犯したと言うのです?」
「……それは自分がよく分かっているはずだ。コレットを執拗に虐めて来ただろう!」
突然始まった断罪劇。まだパーティーは開始前だったため、先生も数人しかおらず、相手が王子である為止めていいのか戸惑っていた。
「私とコレットは友人ですわ。ご存知でしょう?ねぇ、コレットからも説明してあげて?」
「わ、私は友人なんかじゃありません!貴方は友人の振りをして影で私を……私に……酷いことを……」
「コレット、それ以上言わなくていいよ」
そう言うとアラン殿下はコレットを庇うように前に出た。
「いつかはその愚かさに気付いて止めてくれると信じていた。だがもう無理だ。君は異常だよ……狂ってる。
貴方とは婚約破棄する。受け入れてくれ」
「……駄目ですよ、殿下。我儘を言うものではありませんわ。これは王家と侯爵家の契約。そんな勝手が許されるとでも?」
「貴方のような異常者が相手なら許されるよ」
「困った方ね。でも大丈夫ですわ、私が愛して差し上げますもの。愛しいアラン様」
「…っ、やめろ、やめてくれ!もう私を解放してくれ!……頼む……」
ざわざわと周囲がざわめき出す。断罪劇だと見守っていたが、断罪される令嬢が余裕たっぷりで、言い出した殿下の方が今にも頽れそうだ。
二人の異常な雰囲気に、見ている者達も何とも言えない気持ち悪さを感じた。
「では証拠は?私が虐めた証拠。それとも証言をする者がいるのかしら。それに。ねぇコレット、あなたはどんな虐めをされたの?」
確かに気になるところだ。ここまでするほどの虐めとはなんだ?
「……マイヤール伯爵令嬢。頼む、証言を」
マイヤール伯爵令嬢がゆっくりと前に出た。
「あの、なんのお話ですか?」
「……そんな……証言をしてくれると言ったではないか!ではモンテーニュ侯爵令嬢は!」
「私も分かりかねますわ」
呼ばれた令嬢達は何も知らないと小首を傾げている。
とうとう殿下が膝を付かれた。コレット・レスコー子爵令嬢がそんな殿下の背中に縋りつきながら泣いている。
「ごめんなさい、アラン様。やっぱり無理だったのです。ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで……」
「……いや、私が無力なんだ。ごめん……でも、これだけの騒ぎを起こしたんだ。婚約は破棄されるよ」
そして、駆けつけた教師達に殿下達は連れて行かれ、卒業パーティーは何事も無かったかのように始められた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「これが同じ会場にいた生徒から聞いた話だ」
……思っていた断罪劇ではない。父とレスコー子爵令嬢は何に怯えていたの?
「その後どうなったのですか?」
「多くの生徒が卒業を祝う場でそのような騒ぎを起こしたのだ。当然罰を与えるべきだし、罪の証拠も証言もないということは冤罪となる。こちらの有責で婚約も白紙にして慰謝料を払うつもりだったんだ、父上はね。
だがラシュレ侯爵令嬢が絶対に嫌だと譲らなかった。迷惑を掛けた責任というなら妻にして欲しいと訴えた。
アランはもちろん拒絶したよ。だが突然令嬢がアランに近付き何かを囁いた。そうしたら……
アランが結婚を承諾してしまったんだ」
そんな……一体何を言ったの?
お父様はお母様に脅されていた?
「どれだけ聞いてもアランは絶対に口を割らなかった。
このままクロディーヌと結婚する、真実の愛に気づいたと言うだけだった。コレット嬢のことを聞いても、自分の愚かさで巻き込んだだけだから、罪に問わないでほしいと。
ただ、最後に一度だけ彼女に会いたいと口にした。意外にもクロディーヌ嬢が5分だけならと許したんだ。
声は聞こえないくらいの位置に警備を置き、面会させた。二人とも泣いていたよ。
私達は結局真相を掴めないまま、それでも幸せになれるのならと見守るしかなかった」
証拠が無い、証言が無い……勇気を出した訴えを聞いてもらえなかった。
どれだけ虚しかったことだろう。たぶん、私と父は似ている。私もジェラールがいなかったら諦めていた。お父様の味方は力の無い子爵令嬢ただ一人。勝てるわけがない。それでも、それだけの事件を起こせば逃げられると思ったのだろうに……
一体お母様は何をしたの?
応援ありがとうございます!
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