魔法のせいだから許して?

ましろ

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ビアンカの屋敷で保護された。
でも、これは正しいのだろうか。結局は時間稼ぎでしかない。湯船に浸かりながら考える。
─私はどうしたいの?

私は……殿下を許したくない。

だって、なぜ簡単に許せると思うの?
辛かった、悲しかった、悔しかった、怖かった。色々な思いが混ざり合う。魔法のせいなんて呪文は私には無い。

殿下はきっと箍が外れたまま。いままで隠していたものが、それこそ魔法のせいであらわになってしまったのだろう。
私はあの姿を許せる?
最初からそうならよかった。綺麗な王子様じゃなくて、独占欲丸出しの悪魔王子。はじまりがソレなら……私は受け入れたかもしれない。だって。それは私を好きだと、大切だということだもの。夢見がちな幼い頃ならそれすらも受け入れた。かもしれない。
でも、今は?愛の為に何かを傷付ける行為は悪だと理解している。けして許せはしないのだ。


「リーゼロッテ様、大丈夫ですか?」


こんなことに巻き込んでしまったのに、ビアンカは一言も文句を言わない。優しい友達。
その友達を害するかもしれない殿下。


「……今日はありがとう。怖かったでしょう?」


私は答えを未だに出せない。
婚約白紙にできて嬉しかったの。先輩に好意を示されて嬉しかったの。それなのに……殿下の執着が、死ぬ程怖かったのに……ほんの少しだけ、嬉しかったのだ。
私はおかしい。あの頃のように絵に描いたような理想の王子様じゃないのに、その狂った姿を見てどこかでホッとした。あぁ、この人も完璧なんかじゃない。私と同じで、完璧には程遠い、歪で足りない、半端な人。


「いいえ、私はやっとリーゼロッテ様の友だと自信を持って言えるかなって。誇らしい気持ちです!」

「……駄目よ。私にそんな価値など無いわ」


あなた達の助けが死ぬ程嬉しかったのに、殿下の執着にほんのりと喜びを感じる腐った心。私はあなたの友情に値しない愚かな女だ。

 
「そんなこと言わないでください!」


なんて綺麗な心だろう。私への友情の為に危険をかえりみない、可愛いビアンカ。


「……私ね、わからないの。殿下のことが許せないし、気持ち悪いし、あなた達を傷つけるなら殴りたいって思うの。……それなのに、そこまで私を思ってくれているのかと思うと……少しだけ嬉しいの」


あぁ、やっぱり傷付いたよね。信じられないという表情。私も自分が信じられない。
ビアンカは俯いたまま沈黙してしまった。私達の友情は……私の愚かさで終わってしまった。


「迷惑をかけてごめんなさい。あなたには被害が無いようにがするから!」


これで終わり!短い友情だったな……


もう、寝ようと部屋を出ようとすると、


「ちょっと待ってください!言い逃げなんて許さないから!」


突然の叫び声に驚く。そんなに怒らせてしまった?


「どうして一方的に話して終わりにするんですか!私はまだ何も答えてないですよ」


怒りに満ちた声。そうよね、あなたの罵倒を聞く義務があるわね。


「そうよね、ごめんなさい」


「私は!あんなヤンデレ王子なんてまっっったく魅力を感じません!怖いしキショいし!」


あぁ、不敬罪!


「でも、リーゼロッテ様はずっとお慕いしていたのでしょう?だから、信じたい気持ちがあるのはしかたがないじゃないですか!ちょっと頭おかしいくらい許せるかも?って優しさが出るのは罪じゃないです!」


頭おかしいまで言ったわ、この子。


「リーゼロッテ様は優しいから迷っちゃうんです。でもいいんですよ、それで。
先輩は結局リーゼロッテ様を狙ってる男だから厳しく言うんです!あの人が正解じゃないですよ。
リーゼロッテ様はゆっくり自分の気持ちを確かめてください。キモい殿下とももっとお話ししたらいいんです。
あっちは惚れた弱みがあるんですから!
私は男共なんか知りません。リーゼロッテ様の幸せだけ願ってます!」


そんな言葉がもらえるとは思わなかった。
キモい殿下は悪だと思ってる。だってポンコツで人の話を聞かないし!私の事をかってに決めるし友達を脅すし!
でも、心のどこかで見捨てられない気持ちがあるの。それでもいいのかな。


「ありがと、ビアンカ。私ね、殿下が怖いの。気持ち悪いの。婚約白紙も嬉しいの。それに間違いはないのよ。でも、ずっとずっと大好きだったのよ。初恋の王子様だったの。
壊れるくらい私が好きなのが……ドン引きしてるのに、本当に本当に少しだけ、嬉しかったの。あれを受け止める自信はないのに。
どうしたら正解か分かんない」


その夜、モテる女は辛いねって笑いながらビアンカは私を慰めてくれた。




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