旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!

真黒三太

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TIPS:宗教

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 確か、聞いたところでは木綿とわらを原料にしているのだったか……。
 眼前に置かれた十数枚の紙と、すずり、筆などを見ながらうむと唸る。
 こうしていると、まるで書道の先生にでもなった気分だな。
 難点があるとすれば、筆を握ったのは美術の授業以来だということだ。

 まあ、筆記用具がこれしかないのだから、これでどうにか書いてみるしかないだろう。
 普段は当然ながら筆記体を使うこの俺だが、この使い慣れない筆でそんなことすると紙を無駄にするだけだろうから、大人しくブロック体だ。
 この紙、試しに端へ墨を垂らしてみたところ、かなり吸水力が高い上に、紙そのものの耐久力もそんなに大したことないから、書くのに時間かけると破けそうだし。

 で、ヤスヒサに頼んでこんなものを用意してもらい、目が悪くなっちまいそうな油皿の弱い照明を頼りに、腰が痛くなりそうな文机で何を書くのかと言えば、覚え書きであった。
 メモ帳。あるいは、小日誌でもいい。
 要は、この時代で使う筆記用具の練習をしがてら、考えをまとめようという試みである。
 こういうのは、大事だ。訓練でも実戦でも、終わった後には必ずレポート作るしな。これは、直後であればあるほど望ましい。

 ちなみに、エルフと自分たちを呼ぶ当代の人々が使っている言語は日本語であり、文字も日本語であることは確認した。
 従って、この文書はあえて英語で書き残す。
 これもヤスヒサ情報で英語が一般的に――少なくとも彼が知る範囲では――使われていないと確認済みだから、誰か余人に読まれた際の用心である。
 なお、用心するほどのことを書き残すから不明であり未定だ。



--



 ――宗教。

 人が人として生きていく上で、欠かせないのがまさにこれであろう。
 ちなみにだが、連合軍兵士の間で、なるべく話題に出さないと暗黙の了解になっているのも宗教である。理由はロクなことにならないから。
 もっとちなみにいくと、俺自身はノンポリ。
 列島崩壊前、日本で暮らしていた俺の両親は仏教徒――といっても無宗教に近いと本人らは言っていたが――だったが、ニューヨークのハーレムで生まれた俺にとっては、キリスト教がどうしても身近に感じられるからな。
 一応、兵の常として書かされる遺言書にはハーレムの墓地へ埋葬してほしいと書いといたので、死んだら多分、迷える子羊としてエイメンしてもらえたんだと思う。
 実際は、愛す必要のないクソ野郎ことヒルベルトが言うには、オデッセイが俺の棺桶だったらしいが。

 と、どうでもいい俺自身の事情を書き連ねてしまったが、大事なのは今の世界における宗教だ。
 と、いっても、今のところ俺が観測及び観察できているのはコクホウと呼ばれる小都市の狭い人間関係内でしかないため、そこは留意するよう未来の俺自身に告げておく。

 結論からいくと、おそらく彼らが信奉するのは仏教に近い。
 少なくとも、神仏という言葉は普通に通じることを確認済みだ。
 お経の内容や文言はどうだか知らないが、響きやリズムに関しては、俺のつたない知識とあまり違いがないしな。

 逆に俺の知識と大きく違うのは、特に棺桶などを使わず直接土葬するという埋葬方式か。
 俺の家と同様、日本から逃れたという難民には骨壺を保管している者もいたし、俺の知る仏教式な埋葬とはすなわち火葬である。

 ただ、インド出身で仏教徒の通信兵……名前は確かトゥンルップだったかな?
 二十世紀にチベットから逃れた難民を先祖に持つという彼から聞いたことあるけど、そもそも、仏教に火葬するしきたりはないんだったか?
 それを思うと、日本って土地とかそんなに広くないし、どっかで教えなり習慣なりが歪むか変わるかしたのかもな。狭い土地で土葬が集中すると、病気のリスクもありそうだ。

 とにかく、今回の覚え書きで重要なのは、今の時代に生きる人たちには、仏教的な教えが深く根付いているということ。
 これは、ひどく興味深いことだ。
 もっかのところ、俺のオデッセイくらいしか三千年前から残ってるものはないのに、形なき宗教世界は受け継がれているのである。
 ああ、言語もか。
 その他、妙にジャパンを感じる服飾文化なども含め、このことは留意しておくべきだろう。
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