27 / 54
TIPS:宗教
しおりを挟む
確か、聞いたところでは木綿とわらを原料にしているのだったか……。
眼前に置かれた十数枚の紙と、すずり、筆などを見ながらうむと唸る。
こうしていると、まるで書道の先生にでもなった気分だな。
難点があるとすれば、筆を握ったのは美術の授業以来だということだ。
まあ、筆記用具がこれしかないのだから、これでどうにか書いてみるしかないだろう。
普段は当然ながら筆記体を使うこの俺だが、この使い慣れない筆でそんなことすると紙を無駄にするだけだろうから、大人しくブロック体だ。
この紙、試しに端へ墨を垂らしてみたところ、かなり吸水力が高い上に、紙そのものの耐久力もそんなに大したことないから、書くのに時間かけると破けそうだし。
で、ヤスヒサに頼んでこんなものを用意してもらい、目が悪くなっちまいそうな油皿の弱い照明を頼りに、腰が痛くなりそうな文机で何を書くのかと言えば、覚え書きであった。
メモ帳。あるいは、小日誌でもいい。
要は、この時代で使う筆記用具の練習をしがてら、考えをまとめようという試みである。
こういうのは、大事だ。訓練でも実戦でも、終わった後には必ずレポート作るしな。これは、直後であればあるほど望ましい。
ちなみに、エルフと自分たちを呼ぶ当代の人々が使っている言語は日本語であり、文字も日本語であることは確認した。
従って、この文書はあえて英語で書き残す。
これもヤスヒサ情報で英語が一般的に――少なくとも彼が知る範囲では――使われていないと確認済みだから、誰か余人に読まれた際の用心である。
なお、用心するほどのことを書き残すから不明であり未定だ。
--
――宗教。
人が人として生きていく上で、欠かせないのがまさにこれであろう。
ちなみにだが、連合軍兵士の間で、なるべく話題に出さないと暗黙の了解になっているのも宗教である。理由はロクなことにならないから。
もっとちなみにいくと、俺自身はノンポリ。
列島崩壊前、日本で暮らしていた俺の両親は仏教徒――といっても無宗教に近いと本人らは言っていたが――だったが、ニューヨークのハーレムで生まれた俺にとっては、キリスト教がどうしても身近に感じられるからな。
一応、兵の常として書かされる遺言書にはハーレムの墓地へ埋葬してほしいと書いといたので、死んだら多分、迷える子羊としてエイメンしてもらえたんだと思う。
実際は、愛す必要のないクソ野郎ことヒルベルトが言うには、オデッセイが俺の棺桶だったらしいが。
と、どうでもいい俺自身の事情を書き連ねてしまったが、大事なのは今の世界における宗教だ。
と、いっても、今のところ俺が観測及び観察できているのはコクホウと呼ばれる小都市の狭い人間関係内でしかないため、そこは留意するよう未来の俺自身に告げておく。
結論からいくと、おそらく彼らが信奉するのは仏教に近い。
少なくとも、神仏という言葉は普通に通じることを確認済みだ。
お経の内容や文言はどうだか知らないが、響きやリズムに関しては、俺のつたない知識とあまり違いがないしな。
逆に俺の知識と大きく違うのは、特に棺桶などを使わず直接土葬するという埋葬方式か。
俺の家と同様、日本から逃れたという難民には骨壺を保管している者もいたし、俺の知る仏教式な埋葬とはすなわち火葬である。
ただ、インド出身で仏教徒の通信兵……名前は確かトゥンルップだったかな?
二十世紀にチベットから逃れた難民を先祖に持つという彼から聞いたことあるけど、そもそも、仏教に火葬するしきたりはないんだったか?
それを思うと、日本って土地とかそんなに広くないし、どっかで教えなり習慣なりが歪むか変わるかしたのかもな。狭い土地で土葬が集中すると、病気のリスクもありそうだ。
とにかく、今回の覚え書きで重要なのは、今の時代に生きる人たちには、仏教的な教えが深く根付いているということ。
これは、ひどく興味深いことだ。
もっかのところ、俺のオデッセイくらいしか三千年前から残ってるものはないのに、形なき宗教世界は受け継がれているのである。
ああ、言語もか。
その他、妙にジャパンを感じる服飾文化なども含め、このことは留意しておくべきだろう。
眼前に置かれた十数枚の紙と、すずり、筆などを見ながらうむと唸る。
こうしていると、まるで書道の先生にでもなった気分だな。
難点があるとすれば、筆を握ったのは美術の授業以来だということだ。
まあ、筆記用具がこれしかないのだから、これでどうにか書いてみるしかないだろう。
普段は当然ながら筆記体を使うこの俺だが、この使い慣れない筆でそんなことすると紙を無駄にするだけだろうから、大人しくブロック体だ。
この紙、試しに端へ墨を垂らしてみたところ、かなり吸水力が高い上に、紙そのものの耐久力もそんなに大したことないから、書くのに時間かけると破けそうだし。
で、ヤスヒサに頼んでこんなものを用意してもらい、目が悪くなっちまいそうな油皿の弱い照明を頼りに、腰が痛くなりそうな文机で何を書くのかと言えば、覚え書きであった。
メモ帳。あるいは、小日誌でもいい。
要は、この時代で使う筆記用具の練習をしがてら、考えをまとめようという試みである。
こういうのは、大事だ。訓練でも実戦でも、終わった後には必ずレポート作るしな。これは、直後であればあるほど望ましい。
ちなみに、エルフと自分たちを呼ぶ当代の人々が使っている言語は日本語であり、文字も日本語であることは確認した。
従って、この文書はあえて英語で書き残す。
これもヤスヒサ情報で英語が一般的に――少なくとも彼が知る範囲では――使われていないと確認済みだから、誰か余人に読まれた際の用心である。
なお、用心するほどのことを書き残すから不明であり未定だ。
--
――宗教。
人が人として生きていく上で、欠かせないのがまさにこれであろう。
ちなみにだが、連合軍兵士の間で、なるべく話題に出さないと暗黙の了解になっているのも宗教である。理由はロクなことにならないから。
もっとちなみにいくと、俺自身はノンポリ。
列島崩壊前、日本で暮らしていた俺の両親は仏教徒――といっても無宗教に近いと本人らは言っていたが――だったが、ニューヨークのハーレムで生まれた俺にとっては、キリスト教がどうしても身近に感じられるからな。
一応、兵の常として書かされる遺言書にはハーレムの墓地へ埋葬してほしいと書いといたので、死んだら多分、迷える子羊としてエイメンしてもらえたんだと思う。
実際は、愛す必要のないクソ野郎ことヒルベルトが言うには、オデッセイが俺の棺桶だったらしいが。
と、どうでもいい俺自身の事情を書き連ねてしまったが、大事なのは今の世界における宗教だ。
と、いっても、今のところ俺が観測及び観察できているのはコクホウと呼ばれる小都市の狭い人間関係内でしかないため、そこは留意するよう未来の俺自身に告げておく。
結論からいくと、おそらく彼らが信奉するのは仏教に近い。
少なくとも、神仏という言葉は普通に通じることを確認済みだ。
お経の内容や文言はどうだか知らないが、響きやリズムに関しては、俺のつたない知識とあまり違いがないしな。
逆に俺の知識と大きく違うのは、特に棺桶などを使わず直接土葬するという埋葬方式か。
俺の家と同様、日本から逃れたという難民には骨壺を保管している者もいたし、俺の知る仏教式な埋葬とはすなわち火葬である。
ただ、インド出身で仏教徒の通信兵……名前は確かトゥンルップだったかな?
二十世紀にチベットから逃れた難民を先祖に持つという彼から聞いたことあるけど、そもそも、仏教に火葬するしきたりはないんだったか?
それを思うと、日本って土地とかそんなに広くないし、どっかで教えなり習慣なりが歪むか変わるかしたのかもな。狭い土地で土葬が集中すると、病気のリスクもありそうだ。
とにかく、今回の覚え書きで重要なのは、今の時代に生きる人たちには、仏教的な教えが深く根付いているということ。
これは、ひどく興味深いことだ。
もっかのところ、俺のオデッセイくらいしか三千年前から残ってるものはないのに、形なき宗教世界は受け継がれているのである。
ああ、言語もか。
その他、妙にジャパンを感じる服飾文化なども含め、このことは留意しておくべきだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる