旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!

真黒三太

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巨神とヴァヴァ 3

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『はっはっは!
 はーはっはっは!』

 快活に……。
 あるいは、豪快に……。
 この中央道全てへ轟くかのような大音声で、巨神が笑う。
 奇妙なのは、その声の張り方……。
 通常、大声を上げれば、どこか無理に喉を震わせているような……そういった声になるはずだ。
 だが、巨神の声音に、そういった無理はない。
 極めて、自然体の笑い声である。
 で、ありながら、いかなる声合戦――大声で敵陣営をののしりそしる戦法のこと――の巧者をもしのぐ音圧の大声なのであった。

「あ、ああ……」

「な、何を……」

「巨神が……笑っている……?」

 周囲の戦士たちが、怯えまどいながら口を開く。

「むう……!」

 一方、ヴァヴァは奥歯を噛みながら巨神の動向を見上げるのみだ。
 何が、そんなに面白かったのか……。
 どうやら、言葉でのやり取りも可能であるらしい巨神は、ひとしきり笑っていたが……。

『それは、無理な相談だな』

 やがて笑うのをやめると、無情な言葉を吐き出したのである。

「くっ……」

 反射的に、左手が剣の鍔を持ち上げた。
 だが、こんなものを抜いたところで、どうなろうか?
 巨神がその気になったならば、ヴァヴァは、夏場に熟して落ちたトマトの実がごとく赤い染みを作るだけだ。
 ゆえに、あがきにならぬ悪あがきはせずにいたのだが……。

『どうして無理かって?
 あんたの覚悟は立派で、そんなあんたのことを、兵たちが慕っているからさ』

 そんなヴァヴァに対し、巨神はこう言ったのである。

「何……?」

『こんなデカブツを前にして、あんたの周囲にいる戦士たちは、怯えながらも逃げ出すような真似はしていない。
 魔術師たちだって、必死に精神を集中させようとしているし、後ろの方では、弓兵たちが狙撃の準備をし始めている。
 感心できるのは、農民から徴兵した足軽たちだな。
 散逸していない。
 ちゃんと、あんたが指揮する軍勢になってくれているぜ?』

 高くそびえる視界でもって、ヴァヴァ以上にヴァヴァが率いる軍勢の動きを把握していたらしい巨神の言葉に、周囲をあらためて見回す。
 それを当然のこととして受け取っていたが、確かに、ありがたいことに正規の戦士たちは離脱することなく、自分と同様、巨神と向き合ってくれていた。
 また、これは気配でしか感じられないが、弓隊はなるほど、足を止めて武器の準備をしているようだし、足軽たちが逃走している音も聞こえない。

『この状況で、あんたの首だけ頂くってのは、無理な相談だ。
 あんたを殺せば、残った兵士たちが敵を討とうとして、収拾がつかなくなる。
 そんなのは、ご免だね』

 おお、そのような挙動まで、できるのか……。
 巨神が、軽く肩をすくめるような仕草となった。
 その、あまりにもエルフらしい仕草……。
 仮にも神とは思えぬ軽薄さであるが、それが逆に、親しみを与えてくれる。
 対話が可能な存在であると、感じさせてくれる。
 否。
 これは明らかに、わざと軽薄な振る舞いをして、こちらの警戒を解こうとしているのだ。

「これは……」

「うむ……」

「戦おうというわけでは、ないのではないか……」

 それが、功を奏しているということだろう。
 周囲の戦士たちが浮かべる表情に、わずかな光明のようなものが差してきた。
 そして、ヴァヴァ自身もまた、どうやら殺されずに済みそうだという安堵感を抱き始めていたのである。
 命が助かりそうだということに、喜びを感じてしまうのはあさましさだが、ヴァヴァとて一個の生命である以上、これを抑えきることはできない。

 もっとも……。
 話が通じる相手で、実際に話だけで済ませてくれたからとて、それが同時にたやすい相手であることを指すわけではないのだが……。
 何しろ、ヴァヴァたちが行なっているのは戦であり、それは時に、力ずく以外の方法で決するものなのだ。
 事実として、敬愛するお館様は様々な外交戦略により、本来コクホウ攻めに横槍してきたはずの諸勢力をことごとく、戦わずして封殺しているのである。

 この巨神は、おそらくお館様と同様、ヒノモトを高きから俯瞰して見ている。
 そのような直感に、身を震わせた。
 そして、ヴァヴァが抱いたその勘が正しいことは、それからの展開によって証明されたのだ。

『と、いうわけでだ。
 俺は、あえてあんたたちと武力で争おうとは思わない。
 それだけじゃないぜ。
 贈り物すら用意してある。
 いや、贈る物というよりは、送ってきた者なんだけどな』

 巨神が、そう言うと同時……。
 胸部中央――みぞ落ちにあたる箇所の装甲が、突如、ガパリと持ち上がった。
 そうすることによって現れたのは、巨体を維持する臓腑ではない。
 内に収まった1人の男であり……。

「あれは――チヨ?」

 その膝へ抱きかかえられるような形で収まっている、抱かれずの二つ名を持ちし歩き巫女だったのである。

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