旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!

真黒三太

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ガルゼからの……

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「よし、一旦ストップだ。
 仮の道を引いておく」

 引き抜いた何本もの木々――杉とかヒノキとかだ。多分――を邪魔にならないところへ積み上げ、屈んだまま作業していたオデッセイを立ち上がらせる。
 人間で同じことやった場合、間違いなく腰に大きな負担のかかる作業であるわけだが、そこは、人型にとって弱点となる部位へ関して、余裕を持った設計となっているオデッセイだ。
 特に作業の負荷を感じさせることなく、力強く……それでいて、軽快に立ち上がって見せた。

「さて、まっすぐに……と」

 ここまで何度か同じ工程を踏んでいるので、もう慣れたものか。
 作業補助のため集まってくれた土木仕事を得意とする皆さんが、邪魔にならないよう左右の茂みへと入っていく。
 その間、俺はオデッセイのコンソールを操作し、メインモニター内にガイドラインを走らせていた。

 例えば、でかい紙とマジックペンを渡してまっすぐ1メートルの線を引けと言われて、どれだけの人間が歪みなき直線を描けるものだろうか。
 実のところ、人間というのは、左右にブレることなく直線的に歩くことさえ、意識していなければできないもの。
 例えば漫画家など、普段から日常的に長い線をフリーハンドで引いている者でなければ、まずもって歪んだ線になったり、初め数度だったズレが影響し大きく斜めに沿った線となったり、あるいはヘロヘロとした情けない線となってしまうに違いない。

 が、オデッセイを用いれば、そのような心配はない。
 以前にも軽く触れたが、人型兵器としてよく働くために、穴掘りを始めとする土木作業が前提となっているオデッセイである。
 オプションが一切存在せず、工場からの出荷時と変わらない状態である本機においても、その辺りに関するアプリは充実していた。
 従って、歪みなくまっすぐな道を敷くためのガイドラインをモニター上に表示することなど、お茶の子さいさいなのだ。

「ま、行き交うのは、最速でも騎馬だ。
 自動車やバイクみたいなスピード出すわけじゃないから、多少の歪みがあったくらいじゃ、渋滞の元になったりはしないだろうけどな。
 予想される交通量も、さほど多くはないし」

 今、オデッセイで行なっているこの土木作業……。
 正体は、コクホウからとある小村へと続く新たな道の敷設作業であった。
 おおよその文明において、都市計画というのは、後から泥縄のごとく付け足していくもの……。
 それは、このコクホウであっても例外ではない。
 聞いた話によると、元々は近隣の村が作った採集拠点であったとかなんとか。
 ともかく、必要に応じて予想外に集落へと膨らみ、今は小村と呼べる規模になったその場所は、何しろ元々が計画外の場所であったため、父にあたる村からはともかく、祖父にあたるコクホウ本体からは直接のアクセスがなかった。
 その解消を図る、というのが、今回の試みである。

 俺自身、三千年前基準ではこういう作業を幾度となくこなしてきたが、今世界においては、どのようにするのが正解かは、いまひとつ分からないしな。
 以前だと、踏破力の高い軍用車両が通れるくらいにならせばよかったから、ザッと道を切り開くくらいで事足りた。
 だが、今世界での重要な輸送力は馬や牛であり、かわいい生き物の足を大事にするならば、やはり、ある程度のところまで地面を固めてやらなければならないそうだ。

 オデッセイで踏んづけてやれば簡単! ……と、言いたいところだが、こいつは機動力を高めねばならない都合上、ソール部に様々な機構を搭載しつつ接地面積も少なくした設計となっている。
 要するに、足の裏は結構スカスカ。地面に面してる面積が少ない。
 だから、今使っている石器ナイフのように、適当な岩石を加工して、プレス機のように押し付ける方法を試すことになっていた。

「よし、ライン引き完了。
 伐採作業戻る」

 そんなこと考えている間に、石器ナイフで地面に線を描き終わる。
 線を描いたといっても、オデッセイのパワーなので深さ50センチはあった。容易に消えはしないだろう。

 ――ピッ! 

 と、音響センサーに反応あり。
 これは、馬の走行音だな。
 設定を変えて、検知するようにしておいたのだ。

「そこの馬、伝令か?
 なら、馬に無理をさせなくても、叫べばオデッセイなら拾えるぞ」

 外部スピーカーをオンにし、遠き山道から駆けてくる騎馬の戦士に呼びかけた。
 すると、若武者と称するのがふさわしい軽装の戦士は、声を限りにこう叫んだのだ。

『テツスケ様とヤスヒサ様に伝令!
 ガルゼから、使者……いえ、人質です!
 跡継ぎにして四天王の1人――カゲカツ殿自らが姿を現し、人質になると宣言しております!』

「ほう、早かったな。
 やっぱ、ガルゼのお館というのは、タダ者じゃないらしい」

 スピーカーは切り、若き戦士の言葉にそうこぼす。
 日数から考えると、チヨから情報を得て即決し、出発させているはずだ。
 機を見るに敏……というやつか。

「んで、跡継ぎを人質にするというのは、思い切り過ぎだな。
 やっぱ、ガルゼのお館というのは、タダ者じゃないらしい……」

 続く言葉を、苦笑いなのか呆れなのか……自分でも非常に微妙な顔で漏らす俺なのであった。
 とりあえず……。
 同じ内容を、サクヤとヤスヒサにそのまま伝えてやらねばならないだろう。
 彼女らにとっては、思わぬ客であり、居候人となるだろうから……。。 



――



 第一部、完。
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