旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!

真黒三太

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白き戦神 3

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 誰一人踏み潰すことなく着地できたのは、俺の腕前と運……。
 そして、オデッセイの性能が合わさった結果であるというべきだろう。
 ナノマシンによってパフォーマンスを維持された機体は、実に五十メートルの高度まで達し、ほんの一秒か二秒だけ、俺に観察する時間と考える時間をくれた。
 それによって、人のいない場所を把握した俺は、オデッセイの長くしなやかな四肢で空中制動し、そこに降り立ったのである。
 降り立つと同時にスイッチを入れたのが、外部スピーカー。
 そこから吐き出すのは、脅しの言葉であるはずだったが……。

「すぐさま撤退したか。
 ……いい指揮官だ」

 敵の本陣――布で覆われた囲いだ――から、指揮官と思わしきロン毛あごひげの男が叫んでいるのを見て、スピーカーはオフにした。
 オデッセイの各種センサーが捉えたのは、彼が下す的確な指示の数々と、それをすぐさま実行に移す敵軍の様子だ。

「指揮官の指示に従って、取るものも取りあえず、全力で逃げ出すか。
 兵たちの練度も高い。
 そして、ためらいなくそれができるのは、兵站がしっかりしているからだ。
 今ある物資を捨てても食いつなげられるようになっているから、何もかも捨てられるんだ」

 ――ダダダダダダダダダダッ!

 素早く小刻みな連打が、撤退の合図ということだろう。
 防壁に取り付いていた敵の兵隊たちは、脱兎のごとき勢いで回れ右し、散っていく。
 そうすると、当然ながら背後の防壁からは矢や石つぶて、謎の火球が撃ち放たれ、彼らの背後を襲う。
 それは、少なからぬ数の兵を倒したようだったが、過半数は逃れ、これまで戦っていたのと逆――こちら側へと駆けてきた。

「おっと」

 どうやら、先ほどの都市は緩やかな丘陵地帯の上へ築かれていたようであり……。
 防壁に至るまでの戦場は、その丘陵に築かれた土の道である。
 つまり、オデッセイが開けてやらないと、逃げる敵兵の進行方向が一部塞がれるということ。
 ヒョイッと足を上げさせ、そのまま斜面側へと逃れた。
 オデッセイが誇る抜群のオートバランス能力をもってすれば、この程度の斜面は平地と変わらずに立てるのだ。

「デカブツがどいたぞ!」

「今の内に逃げろ!」

「本陣に置いてかれるな!」

 逃げ道を得られた敵兵たちが、そんなことを言いながら緩い坂道を駆け下りていく。
 俺はそれに対し、一切の手出しをしない。
 ただ、オデッセイが見下ろしているだけでも十分な威圧効果があり、撤退しながらも敵の兵たちは、時折、おびえたような眼差しでこちらを見上げていた。

 手出しをしないでいるのは、防壁を守備する側の兵隊たちも一緒だ。
 弓や火球が届かなくなったら、後はその場にへたり込むか、あるいは呆然とした眼差しをオデッセイに向けるだけ。
 ともかく、動こうとしない。

「んーと、生体反応は……撤退していく敵側が、八千いくかいかないか。
 味方側が、千ちょいか。
 これだけの兵力差で守備戦やってたなら、性も根も尽き果てるか」

 俺が学んだ戦いというものは、少数の兵器で行われる機動戦である。
 もちろん、地上戦の訓練もしているが、第二次大戦じゃあるまいし、千を超える規模の兵隊同士によるぶつかり合いなど、想像することしかできなかった。

 ただ、まあ……数で劣る側は、疲れるなんてレベルじゃないよな。
 しかも、オデッセイが動き出すまで、特に逆転の目などなく、逃げ場もない状況で絶望的な防衛戦に臨んでいたわけだ。
 肉体もそうだが、精神的な疲労が甚大であるに違いない。

「さて……どうしたものか。
 とりあえず、深追いはなしにしとくけど」

 やはり、敵軍の撤退は鮮やか。
 いっそ、美しく思えるくらい未練なく、運び込んできた物資や陣幕を放り捨て、この戦場から駆け去っていく。
 その様子を18メートルの高さにあるカメラアイで見送り、俺は腕組みするのであった。

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