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第三章
聖女候補のお仕事 聖女様のお見送り
朝の聖堂は暗い。
前回来た時もそうだったから、知っていたけれど、やっぱり暗い!
いや、時間が早いせいで、もっと暗く感じる。
そして、『前回来た時』なんて考えたせいで、怖い話を思い出してしまった。
夜中に聖堂の通りを歩く金髪の少女と、歩く死体のお話。
わかっている。
まだ幽霊と決めつけるのは早計だ。
わかってはいるけれど、女の子が夜中に聖堂周辺を歩くっていうのは、やっぱりちょっと異常かな?
もしかして、聖堂関係者かな?
とも思ったのだけど、昨日出会った女子寮の面々を思い浮かべる限り、『金髪の少女』という感じの人はいなかった。
プリシラさんが、亜麻色の髪でいらっしゃるけど、大人っぽい容姿なので、少女という感じではない。
他に、金色っぽい髪の人は居なかったので、部外者なんだろうな。
そっちはまだ、人型だから良しとする?
実際に人間がいた可能性もあるものね。
色々ひっかかるけど、良しとしよう。
問題は動く死体よ。
何で死体って断定されているのかな?
まさか……腐乱?
わたしは思考を停止した。
ゾンビダメな人なんで。
ところで、この世界、ゾンビって存在するんだろうか。
聞いたことないけれど。
「お早いですね」
「!!!!!」
心臓が口から飛び出すかと思った!
胸を抑えて悲鳴を飲み込む。
叫ばなかった、わたしは偉い!
「おはようございます。良い朝ですね」
挨拶の主は、カタリナさんだった。
朝からキリッとしていて、髪や服装もピシッと決まっている。
わたしは、カタリナさんに笑顔で向き直った。
「おはようございます。今日からご指導、お願いします」
頭を下げると、カタリナさんも微笑んでくれる。
「「おはようございます!」」
次にやって来たのは、神官見習いの女の子たち。
若い女の子ばかりだから、一気に場が華やいだ。
「おはようございます。ローズさん!」
「おはよう。ヨハンナ」
ヨハンナは、わたしの近くにやって来て、にっこり微笑んだ。
妹ができたみたいで、ちょっと嬉しい。
「おはよ~」
次いで、欠伸を噛み殺しながら入ってきたのは、リリアさん。
「では、清掃を始めます」
カタリナさんが清掃の開始を告げる。
ん?
ちょっと待って?
掃除全員じゃないのね?
他の聖女候補の先輩たちは?
周囲を見渡すけど、神官はカタリナさんだけだし、後は補佐の子ばかり七人。
聖女候補は、わたしとリリアさんしかいない。
「他の先輩、掃除来ないらしいわよ。一年目の仕事なんですって」
ぶぅたれながらも、結構しっかり掃き掃除をしているリリアさんが教えてくれた。
お掃除とか嫌がるのかと思っていたのだけど、見直したわ!
よくわからない行動するけど、悪い子では無いのよね。
王子殿下に並々ならぬ好意があることは分かったけれど、今のところはそれだけ。
では、前世の記憶があるという訳では無いのかしら?
純粋にヒロインぽい性格をしている子なのか、実は彼女がヒロインなのか。
不確定要素である事は疑いようも無いから、気をつけて見ていかないといけないけれど、緊急になんとかしなければならない問題では無さそう。
それに、彼女がヒロインだった場合は、わたしが助けてもらう立場になるかもしれない。
わたしも、彼女が困っているときは、出来るだけ協力しよう。
まぁ、それはリリアさんに限ったことではなく、聖堂の人たちや、今後関わる人たちも同様。
というか、人として当然のことだから、ここで決意するまでもないのだけれど。
朝のお掃除は簡易的なものだった。
昨日の夕方に、使用人さんたちがキレイにしてくれているわけだから、たいして汚れてもいないのよね。
掃き掃除をして、長椅子や祭壇を拭きあげるだけ。
ただ、広いから、それなりに時間がかかる。
「ローズマリーさん。正面入口を掃いてきて頂けますか?」
「はい!」
椅子を拭いているカタリナさんに頼まれたので、笑顔で返事をして、入り口を開けた。
外に出ると、正面入口に、警護の聖騎士さんが二人、扉の脇に立っていた。
夜勤明けの人たちなのかな?
どこか眠そうな表情をしている。
二人とも三十代くらい。
むきむきマッチョで、ベテラン感が凄い。
初めてお会いする人たちだ。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
微笑んで挨拶すると、二人ともハキハキと挨拶を返してくれた。
まごうことなき体育会系だ。
「やぁ、新しい聖女候補の方ですね。宜しく」
「はい。ローズマリーです。宜しくお願いします!」
頭を下げると、お二人は、にこにこと笑顔をかえしてくれた。
さて、わたしは掃き掃除だ!
入り口周辺から階段を隅々まで、キレイに掃き清めていく。
朝から掃除。
結構気持ちいいかも。
「いやー。今日明けでラッキーだったな。聖女様の御公務で、休みのやつら、午前中、かりだされるんだろ?」
「それな。まぁ、追加で休日給出るから、若い奴らは喜んでたけど。そういや御公務、日帰りが一泊になったの知ってるか?」
「げ。じゃ明日お出迎えで午後出か。俺の休み……。しかし何でまた?王都の外とはいえ、近場だろうに」
「神官長も同行する事になったから、余裕持たせてだってさ」
「またか。あー。そういやあそこ、花町があったか。好きだよな。あの人。そうすると、一般聖騎士は……今日?いや、明日一欠か?」
「そうだな。残る側は、まぁ、問題無いけど。アイツ……ちょっとかわいそうだよな。最近、外仕事ばっかりで、顔も見てないぜ?当日仕事の時は、夜勤から勤務に戻るらしいが、少しは休ませないと、体がもたないんじゃ無いか?本当は、今日も休みだろうに」
「そういえば、昨日の昼過ぎも、事務所で何か書類仕事してたな。気の毒なことだ。二重勤務なんて、何で上は許してるんだ?」
「聖女様が仰って、神官長が決定したんじゃ、誰も文句言えないだろ」
「そんでまた、きっちりこなすから仕事が更に増えるっていうな」
「はー。気の毒なことだ。今度お前手伝ってやれよ」
「バカ言え。うっかり同情的な態度とってみろよ。それこそ神官長に何言われるか分からない」
「難儀だな。年長者には、さっさと引退してもらって、正式に聖女様付きになれるといいな」
「そうすると、一般仕事が山ほどこっちに回ってくるけどな」
「おおっと。それはそれで困るな。ははっ」
わたしは、聖騎士さんたちの噂話を聞きながら、掃き掃除を終えた。
どうやら、聖騎士さんたちの間でも、神官長のイメージはあまり良くないみたい。
って言うか聖職者が花町って……。
考えるのよそう。
次顔合わせた時、態度に出ると困るし。
全体的にキレイになったので、聖騎士さんたちに会釈して、聖堂内に戻る。
聖堂の中も、あらかた掃除が終わっていたので、全員で寮の食堂へ移動した。
帰る途中、事務局のあちこちで、掃除をしている神官さんたちに出会う。
なるほど。
分担されていて、皆さんあちこちで掃除しているのね。
これは、毎日しっかり出ないと印象悪いわ。
気をつけよう。
寮に戻る途中、広場では、聖騎士さんたちが木剣を手に、実戦形式の鍛錬を行っていた。
剣のぶつかる音と気合の声で、確かにかなり騒がしい。
他の女性神官さんや、見習いの娘たちもいるので、あまり見つめるのも憚られて、何となく横目に見ながら通り過ぎたけれど。
食堂へ行くと、聖女候補の先輩たちと丁度すれ違った。
プリシラさんは、聖女様の王都外での御公務に随行されるそうで、荷物を両手に事務局へと向かうそうだ。
そういえば、聖堂の入り口にいた聖騎士さんたちも、そんなことを話していたわね。
残る二人はのんびりと自室へ戻っていく。
候補の先輩たち、結構温度差があるわ。
朝食が終わると、次は事務局内の講堂で、『聖堂について』と『女神さまについて』の学び。
教えてくださるのは、カタリナさん。
今日は、教科書を配られただけで、その後は特に、授業は無かった。
初めてなので、カタリナさんが、聖堂での過ごし方など、質問に答えてくださるみたい。
ここにも、わたしとリリアさんしかいない。
不思議に思ったので聞いてみると、詳しく説明してくださった。
簡単にまとめると、聖女候補一年目は『聖堂や、女神様についての学び』や『聖女としての立ち居振る舞いの習得』を行う。
二年目以降の先輩たちは、実践しながら学ぶのが、主になるのだそうだ。
神官さんの仕事を手伝ったり、聖女様の仕事に付き従うのが職務のようで、勉学関係ではあまり一緒にならない。
なるほど!
それ以外にも、聖堂周辺の地図を下さり、食堂や喫茶店、食材を調達できるお店など教えて頂いた。
不安だったので、本当に助かります!
しばらくそんな感じで、Q&Aを行なっていると、突然、聖堂の鐘が大きな音を立てて鳴り始めた。
「この後、聖女様をお見送りに参ります」
カタリナさんが立ち上がるので、それに従う。
先導されて聖堂へ行くと、神官さん複数名と、聖女候補の先輩二人が、既に控室の前に集まっていた。
そして、待つことしばし。
ゆっくりと控え室の扉が開けられ、一人の女性が通路へと歩み出て来た。
その容姿は正に、女神様のよう。
神聖な空気を身にまとい、周囲がキラキラと輝いているかのように感じる。
『聖女アンジェリカ様』
豊かな栗色の長い髪は、美しく結い上げられ、明るい緑色の双眸は、ペリドットのように鮮やか。
意志の強そうな輝きが、その双眸から感じられるのに、それに反して、淡いピンクの口元には、優しげな微笑みを浮かべている。
聖女様は、わたしたちに気づくと、美しく微笑んで会釈をしてくださった。
わたしは、慌てて頭を下げる。
その場にいた人たちも、皆同様に頭を下げている。
聖女様が目の前を通り過ぎるまで、皆その姿勢だった。
流石は『聖女』様!
溢れ出るカリスマオーラが凄まじい。
わたし、あんな風になれるのかしら?
完全に気後れしてしまった。
その後ろを、静々とついて歩くプリシラ様も、寮でお会いした時とは随分雰囲気が違う。
流石は聖女候補の先輩だ。
更にその後ろを、ニヤニヤ笑いのマヌエル神官長、神官の男性二名、それと、使用人の女性数名が続く。
カタリナさんに誘導されて、聖女様御一行の後ろに、わたしたちも続いて歩いた。
お見送りするだけなのに、何だか身が引き締まる思いがする。
聖女様が、聖堂の正面入り口から外へ出ると、広場には、そのお姿を拝見しようと、沢山の人たちが集まっていた。
広場では、二十人近い聖騎士が護衛につき、中央の通路を確保している。
わたしたちは、階段下まで一行に付き従って歩き、階下で立ち止まる。
どうやらそこからお見送りをするようだ。
聖女様は、集まる人たち一人一人に微笑みかけるようにして手を振り、中央をゆっくりと通り抜けていく。
そして、馬車の前までくると、悠然と振り返った。
観衆の声に応えるように、柔らかく微笑みながら、もう一度手を振る。
その神聖で優しげなお姿に、大歓声が上がった。
出発から、一大セレモニーだわ!
広場では、歓声が響き渡り、涙を流しながら拝んでいる人たちまでいる。
やがて、聖女様とプリシラ様は、白い馬車に、その他の人たちは、その後ろに続く、落ち着いたブラウンの馬車に乗りこんでいった。
紫色のフラッグがかけられた白い馬車を、騎乗した六人の聖騎士が守護している。
一言で言って、壮観だ!
『聖女様が動く』ということはこういう事なんだな、と否応なく認識した。
先頭にいる聖騎士団長さんの号令で、馬車がゆっくりと動き出すと、それを守る白馬に乗った聖騎士たちも、等間隔で動き出した。
『まるで、パレードみたいですよ!』と言っていた、ラルフさんの言葉を思い出す。
本当だわ!
あまりの美しい光景に、息を呑んで見惚てしまう。
そこから少し離れて、神官長たちを乗せた馬車が走り出した。
ん?
その後ろに、影のように、もう一人聖騎士が付き従っている。
丁度、馬の反対側に立っていて姿は見えないけれど、あの艶々な黒い馬……カザハヤ君じゃない?
全員の出発を確認して、黒馬に飛び乗ったのは、やはりレンさんだった。
馬車の後ろを守護するように、ゆっくりと走っていく。
昨日の今日で、また王都の外へ行く勤務なの?
なんとなく釈然としない。
「さぁ。では事務局に戻りますよ」
カタリナさんの声で、はっと我に帰った。
心配だけど、今は自分のことに集中しなきゃ!
わたしは、カタリナさんの後に続いて、聖堂へ戻った。
前回来た時もそうだったから、知っていたけれど、やっぱり暗い!
いや、時間が早いせいで、もっと暗く感じる。
そして、『前回来た時』なんて考えたせいで、怖い話を思い出してしまった。
夜中に聖堂の通りを歩く金髪の少女と、歩く死体のお話。
わかっている。
まだ幽霊と決めつけるのは早計だ。
わかってはいるけれど、女の子が夜中に聖堂周辺を歩くっていうのは、やっぱりちょっと異常かな?
もしかして、聖堂関係者かな?
とも思ったのだけど、昨日出会った女子寮の面々を思い浮かべる限り、『金髪の少女』という感じの人はいなかった。
プリシラさんが、亜麻色の髪でいらっしゃるけど、大人っぽい容姿なので、少女という感じではない。
他に、金色っぽい髪の人は居なかったので、部外者なんだろうな。
そっちはまだ、人型だから良しとする?
実際に人間がいた可能性もあるものね。
色々ひっかかるけど、良しとしよう。
問題は動く死体よ。
何で死体って断定されているのかな?
まさか……腐乱?
わたしは思考を停止した。
ゾンビダメな人なんで。
ところで、この世界、ゾンビって存在するんだろうか。
聞いたことないけれど。
「お早いですね」
「!!!!!」
心臓が口から飛び出すかと思った!
胸を抑えて悲鳴を飲み込む。
叫ばなかった、わたしは偉い!
「おはようございます。良い朝ですね」
挨拶の主は、カタリナさんだった。
朝からキリッとしていて、髪や服装もピシッと決まっている。
わたしは、カタリナさんに笑顔で向き直った。
「おはようございます。今日からご指導、お願いします」
頭を下げると、カタリナさんも微笑んでくれる。
「「おはようございます!」」
次にやって来たのは、神官見習いの女の子たち。
若い女の子ばかりだから、一気に場が華やいだ。
「おはようございます。ローズさん!」
「おはよう。ヨハンナ」
ヨハンナは、わたしの近くにやって来て、にっこり微笑んだ。
妹ができたみたいで、ちょっと嬉しい。
「おはよ~」
次いで、欠伸を噛み殺しながら入ってきたのは、リリアさん。
「では、清掃を始めます」
カタリナさんが清掃の開始を告げる。
ん?
ちょっと待って?
掃除全員じゃないのね?
他の聖女候補の先輩たちは?
周囲を見渡すけど、神官はカタリナさんだけだし、後は補佐の子ばかり七人。
聖女候補は、わたしとリリアさんしかいない。
「他の先輩、掃除来ないらしいわよ。一年目の仕事なんですって」
ぶぅたれながらも、結構しっかり掃き掃除をしているリリアさんが教えてくれた。
お掃除とか嫌がるのかと思っていたのだけど、見直したわ!
よくわからない行動するけど、悪い子では無いのよね。
王子殿下に並々ならぬ好意があることは分かったけれど、今のところはそれだけ。
では、前世の記憶があるという訳では無いのかしら?
純粋にヒロインぽい性格をしている子なのか、実は彼女がヒロインなのか。
不確定要素である事は疑いようも無いから、気をつけて見ていかないといけないけれど、緊急になんとかしなければならない問題では無さそう。
それに、彼女がヒロインだった場合は、わたしが助けてもらう立場になるかもしれない。
わたしも、彼女が困っているときは、出来るだけ協力しよう。
まぁ、それはリリアさんに限ったことではなく、聖堂の人たちや、今後関わる人たちも同様。
というか、人として当然のことだから、ここで決意するまでもないのだけれど。
朝のお掃除は簡易的なものだった。
昨日の夕方に、使用人さんたちがキレイにしてくれているわけだから、たいして汚れてもいないのよね。
掃き掃除をして、長椅子や祭壇を拭きあげるだけ。
ただ、広いから、それなりに時間がかかる。
「ローズマリーさん。正面入口を掃いてきて頂けますか?」
「はい!」
椅子を拭いているカタリナさんに頼まれたので、笑顔で返事をして、入り口を開けた。
外に出ると、正面入口に、警護の聖騎士さんが二人、扉の脇に立っていた。
夜勤明けの人たちなのかな?
どこか眠そうな表情をしている。
二人とも三十代くらい。
むきむきマッチョで、ベテラン感が凄い。
初めてお会いする人たちだ。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
微笑んで挨拶すると、二人ともハキハキと挨拶を返してくれた。
まごうことなき体育会系だ。
「やぁ、新しい聖女候補の方ですね。宜しく」
「はい。ローズマリーです。宜しくお願いします!」
頭を下げると、お二人は、にこにこと笑顔をかえしてくれた。
さて、わたしは掃き掃除だ!
入り口周辺から階段を隅々まで、キレイに掃き清めていく。
朝から掃除。
結構気持ちいいかも。
「いやー。今日明けでラッキーだったな。聖女様の御公務で、休みのやつら、午前中、かりだされるんだろ?」
「それな。まぁ、追加で休日給出るから、若い奴らは喜んでたけど。そういや御公務、日帰りが一泊になったの知ってるか?」
「げ。じゃ明日お出迎えで午後出か。俺の休み……。しかし何でまた?王都の外とはいえ、近場だろうに」
「神官長も同行する事になったから、余裕持たせてだってさ」
「またか。あー。そういやあそこ、花町があったか。好きだよな。あの人。そうすると、一般聖騎士は……今日?いや、明日一欠か?」
「そうだな。残る側は、まぁ、問題無いけど。アイツ……ちょっとかわいそうだよな。最近、外仕事ばっかりで、顔も見てないぜ?当日仕事の時は、夜勤から勤務に戻るらしいが、少しは休ませないと、体がもたないんじゃ無いか?本当は、今日も休みだろうに」
「そういえば、昨日の昼過ぎも、事務所で何か書類仕事してたな。気の毒なことだ。二重勤務なんて、何で上は許してるんだ?」
「聖女様が仰って、神官長が決定したんじゃ、誰も文句言えないだろ」
「そんでまた、きっちりこなすから仕事が更に増えるっていうな」
「はー。気の毒なことだ。今度お前手伝ってやれよ」
「バカ言え。うっかり同情的な態度とってみろよ。それこそ神官長に何言われるか分からない」
「難儀だな。年長者には、さっさと引退してもらって、正式に聖女様付きになれるといいな」
「そうすると、一般仕事が山ほどこっちに回ってくるけどな」
「おおっと。それはそれで困るな。ははっ」
わたしは、聖騎士さんたちの噂話を聞きながら、掃き掃除を終えた。
どうやら、聖騎士さんたちの間でも、神官長のイメージはあまり良くないみたい。
って言うか聖職者が花町って……。
考えるのよそう。
次顔合わせた時、態度に出ると困るし。
全体的にキレイになったので、聖騎士さんたちに会釈して、聖堂内に戻る。
聖堂の中も、あらかた掃除が終わっていたので、全員で寮の食堂へ移動した。
帰る途中、事務局のあちこちで、掃除をしている神官さんたちに出会う。
なるほど。
分担されていて、皆さんあちこちで掃除しているのね。
これは、毎日しっかり出ないと印象悪いわ。
気をつけよう。
寮に戻る途中、広場では、聖騎士さんたちが木剣を手に、実戦形式の鍛錬を行っていた。
剣のぶつかる音と気合の声で、確かにかなり騒がしい。
他の女性神官さんや、見習いの娘たちもいるので、あまり見つめるのも憚られて、何となく横目に見ながら通り過ぎたけれど。
食堂へ行くと、聖女候補の先輩たちと丁度すれ違った。
プリシラさんは、聖女様の王都外での御公務に随行されるそうで、荷物を両手に事務局へと向かうそうだ。
そういえば、聖堂の入り口にいた聖騎士さんたちも、そんなことを話していたわね。
残る二人はのんびりと自室へ戻っていく。
候補の先輩たち、結構温度差があるわ。
朝食が終わると、次は事務局内の講堂で、『聖堂について』と『女神さまについて』の学び。
教えてくださるのは、カタリナさん。
今日は、教科書を配られただけで、その後は特に、授業は無かった。
初めてなので、カタリナさんが、聖堂での過ごし方など、質問に答えてくださるみたい。
ここにも、わたしとリリアさんしかいない。
不思議に思ったので聞いてみると、詳しく説明してくださった。
簡単にまとめると、聖女候補一年目は『聖堂や、女神様についての学び』や『聖女としての立ち居振る舞いの習得』を行う。
二年目以降の先輩たちは、実践しながら学ぶのが、主になるのだそうだ。
神官さんの仕事を手伝ったり、聖女様の仕事に付き従うのが職務のようで、勉学関係ではあまり一緒にならない。
なるほど!
それ以外にも、聖堂周辺の地図を下さり、食堂や喫茶店、食材を調達できるお店など教えて頂いた。
不安だったので、本当に助かります!
しばらくそんな感じで、Q&Aを行なっていると、突然、聖堂の鐘が大きな音を立てて鳴り始めた。
「この後、聖女様をお見送りに参ります」
カタリナさんが立ち上がるので、それに従う。
先導されて聖堂へ行くと、神官さん複数名と、聖女候補の先輩二人が、既に控室の前に集まっていた。
そして、待つことしばし。
ゆっくりと控え室の扉が開けられ、一人の女性が通路へと歩み出て来た。
その容姿は正に、女神様のよう。
神聖な空気を身にまとい、周囲がキラキラと輝いているかのように感じる。
『聖女アンジェリカ様』
豊かな栗色の長い髪は、美しく結い上げられ、明るい緑色の双眸は、ペリドットのように鮮やか。
意志の強そうな輝きが、その双眸から感じられるのに、それに反して、淡いピンクの口元には、優しげな微笑みを浮かべている。
聖女様は、わたしたちに気づくと、美しく微笑んで会釈をしてくださった。
わたしは、慌てて頭を下げる。
その場にいた人たちも、皆同様に頭を下げている。
聖女様が目の前を通り過ぎるまで、皆その姿勢だった。
流石は『聖女』様!
溢れ出るカリスマオーラが凄まじい。
わたし、あんな風になれるのかしら?
完全に気後れしてしまった。
その後ろを、静々とついて歩くプリシラ様も、寮でお会いした時とは随分雰囲気が違う。
流石は聖女候補の先輩だ。
更にその後ろを、ニヤニヤ笑いのマヌエル神官長、神官の男性二名、それと、使用人の女性数名が続く。
カタリナさんに誘導されて、聖女様御一行の後ろに、わたしたちも続いて歩いた。
お見送りするだけなのに、何だか身が引き締まる思いがする。
聖女様が、聖堂の正面入り口から外へ出ると、広場には、そのお姿を拝見しようと、沢山の人たちが集まっていた。
広場では、二十人近い聖騎士が護衛につき、中央の通路を確保している。
わたしたちは、階段下まで一行に付き従って歩き、階下で立ち止まる。
どうやらそこからお見送りをするようだ。
聖女様は、集まる人たち一人一人に微笑みかけるようにして手を振り、中央をゆっくりと通り抜けていく。
そして、馬車の前までくると、悠然と振り返った。
観衆の声に応えるように、柔らかく微笑みながら、もう一度手を振る。
その神聖で優しげなお姿に、大歓声が上がった。
出発から、一大セレモニーだわ!
広場では、歓声が響き渡り、涙を流しながら拝んでいる人たちまでいる。
やがて、聖女様とプリシラ様は、白い馬車に、その他の人たちは、その後ろに続く、落ち着いたブラウンの馬車に乗りこんでいった。
紫色のフラッグがかけられた白い馬車を、騎乗した六人の聖騎士が守護している。
一言で言って、壮観だ!
『聖女様が動く』ということはこういう事なんだな、と否応なく認識した。
先頭にいる聖騎士団長さんの号令で、馬車がゆっくりと動き出すと、それを守る白馬に乗った聖騎士たちも、等間隔で動き出した。
『まるで、パレードみたいですよ!』と言っていた、ラルフさんの言葉を思い出す。
本当だわ!
あまりの美しい光景に、息を呑んで見惚てしまう。
そこから少し離れて、神官長たちを乗せた馬車が走り出した。
ん?
その後ろに、影のように、もう一人聖騎士が付き従っている。
丁度、馬の反対側に立っていて姿は見えないけれど、あの艶々な黒い馬……カザハヤ君じゃない?
全員の出発を確認して、黒馬に飛び乗ったのは、やはりレンさんだった。
馬車の後ろを守護するように、ゆっくりと走っていく。
昨日の今日で、また王都の外へ行く勤務なの?
なんとなく釈然としない。
「さぁ。では事務局に戻りますよ」
カタリナさんの声で、はっと我に帰った。
心配だけど、今は自分のことに集中しなきゃ!
わたしは、カタリナさんの後に続いて、聖堂へ戻った。
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【 お話の内容紹介 】
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
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ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。