聖職者あああああは冒険者ランク上位の戦士に寵愛されながら高難易度クエストを攻略する

よるべなし

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はじまりの森

2.「すっげ~~~楽しい!!」

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 再結論。

「すっげ~~~楽しい!!」

 はじまりの森の隠しダンジョン『水晶の洞窟』は、モンスターレベル1~10だったはじまりの森とは違い、レベル60~70のそこそこに防御が固くて攻撃パターンも豊富な敵が出現してきた。

 水晶の洞窟は全体的に薄暗く、天然の洞窟を想定して作られているのか、道も粗削りで整備がろくにされていない。それに加えて洞窟に生えている水晶の光と、初期装備のランタンの光だけでダンジョンを踏破しなければならない。岩陰で息を潜め、獲物がのこのことやってくると飛び出して奇襲をしてくる。

 皮の色によって属性が異なるリザードマンの槍攻撃を避けながら、俺は杖でリザードマンの顔面をぶん殴る。攻撃魔法はまだ使えないし、聖職者の醍醐味である回復魔法もチート級の強さを持つ男がペア故に使うタイミングが全くやってこない。

 だから、聖職者の杖でヘッドショットならぬヘッドアタックをかまし、モンスターにCC(クラウドコントロール)を入れて一時的に行動を出来なくする。エルドにCCが入ったことを報告する前に、彼は大剣を振りかざしてリザードマンを一撃で地面に叩きつける。

「そりゃよかった」

 地面とリザードマンにめり込んだ大剣を引き抜き様、後ろから飛びかかってきた巨大コウモリに切っ先を突き刺して薙ぎ払うエルドに、背中に目でもついてるのかと感心した。

 強いし、そもそも上手い。相手に合わせるのが、特に。

 一緒に戦っていて不愉快なことがない。野良とチームを組むと嫌でも齟齬が出てくるし、俺が縛りプレイをするから迷惑をかけるし、そういった理由でソロ専門でゲームをしてきた俺でも、彼が気持ちよく戦わせてくれていることが分かる。聖職者への配慮ってなんだよって感じだが、俺が予めバトルが好き、縛りプレイをしていることを話しておいたからか、聖職者の俺が前を張って、戦士のエルドがフォローを入れてくれる。初心者の俺を立ててくれる戦い方をしてくれている。

「あんた、本当に上手いな。一応中級者用ダンジョンなんだけど。若葉マーク持ちでクリア出来たなんて聞いたことないぞ」
「そうか? エルみたいな強い奴に寄生すればいけそうだけど」

 大剣を背中の鞘にしまいながら肩を竦めて褒めてきたエルドに、ほんの少しだけ気持ちよさを感じながら本心を言う。

「若葉マーク持ちとは言え、チュートリアルが終わったからモンスターは忖度をしなくなる。経験者と初心者の差が、俺たちみたいにあまりにも激しいとモンスターのパラメーターや難易度にも補正が入るのと、HPが少ないプレイヤーを狙う傾向にモンスターがあるから必然的に初心者が狙われやすくなるんだが……狙われやすくなっているのに前線に出て倒し続けているから凄いよ。分かってると思うが、あたったら一発でゲームオーバーだからな。油断しないでくれよ」

 若葉マークとは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーのステータス画面に表示される初心者の証だ。チームを組む時など、他プレイヤーが目安にしている。バトリフでは一か月ほど表示されるらしい。

「エルが守ってくれるんだろ?」
「――話、聞いてたか? 守ってやるのにも限度があるんだよ」
 モンスターはあんたを狙うんだから。

 ヴェールを手の甲で持ち上げ、小首を傾げて笑いかければ、エルドからは苦笑が返ってきた。
 洞窟の最深部も近いのか、モンスターの数が減ってきている。こういうダンジョンは、なにもない一本道の先に、最後に広い戦闘フィールドがあるんだ。
 勇み足で俺が進んでいると、

「ああ、それと、」

 と声がかかって、両肩を掴まれてとん、と背中にエルドの鎧の冷たさを感じた。

「あんたから聞いてきたんだ。俺が"そういう"人間なのは分かっているだろうから、あんまり情を入れさせないでくれ」

 耳元で囁かれた言葉を俺の脳が処理するには少しだけ時間がかかって――、本当に申し訳ないけれど、このゲームのシステムと、彼の嗜好に対して少しだけ歯痒くなってしまった。だって、今、すごく楽しい。楽しいのに、このダンジョンをクリアしたら終わるんだ。
 考えたことも、思ったこともなかった。共闘が、俺の求める快感になりうるんだって。
 背中を二度叩かれて解放される。

 その後は二人、無言で一本道を歩いて、回復ポータルである天使の銅像の前にたどり着く。
 俺は自分が重たくしてしまった空気を振り払うように両頬を掌で叩いた。

「よしっ! やる!」
「倒せたらあんたの名声広めてやるからな」
「めっちゃ広めてくれよ!」

 俺は半ばやけくそになってボスフィールドへと足を踏み入れた。

 ―洞窟の番人:ケルベロス―

 ボスフィールドは予想した通り、障害物がほとんどのない広いバトルフィールドが用意されていた。頭が三つついた巨大な狼が唸り声をあげる。その咆哮が戦闘が始まるきっかけとなり、早速俺とエルドは武器を構えた。

「咆哮には気をつけろ。振動で天井の水晶が落ちてくる!」

 早速水晶が足元に落ちてきて、バックステップで避ける。天井からのランダム攻撃に加え、エルドへと向けられていたケルベロスの一頭が、ぐりんと俺を睨みつけて炎のブレスを吐いてきた。三つの頭は別々の攻撃を同時に繰り出してくる。なるほど、これは経験者側にも厄介だ。
 一つは必ず自分をターゲットにしているのに、もう二つの頭はペアをターゲットにしている。攻撃されている状態でペアを守らなければいけない状況を、常に経験者側には強いられている。

「っ、んぐっ……クソッ……! CC入りにくいな。ボスだからか……!」

 左翼の狼の眉間に杖を叩きつけてもケルベロスは怯まない。異常状態耐性がついている上に、聖職者の杖での攻撃なんて微塵も中級者用のボスには効くはずもない。だから俺は――、

「だったらこうだろ!」

 通常攻撃のコンボを重ねてからの、レベルアップで覚えた聖職者用の攻撃魔法レイを繰り出す。両手を広げて、眩い閃光のビームを一匹の左目にあてる。

「ヘッドアタックもそうだけど、陰湿なんだよな……」
「陰湿にならなきゃ縛りプレイは出来ないんだよ!」

 俺の陰湿ビームによって、相手をしていた一匹が悲鳴を上げて怯む。まだ軽口は叩く余裕はある。四肢体を動かしているのは中央の狼のようで、俺とエルが双翼の狼を攻撃しても、足取りだけは止まらない。
 狼が大きく咆哮する。天井に張り付いていた水晶が揺れて今にも降ってきそうだ。障害物がない理由はこれだ。落ちてきた水晶を上手く利用するんだろうけど――。

「エル! 一方的にエル側の狼を攻撃してくれ!」
「了解!」

 意図を察したのだろう、エルは右翼の狼に対して一方的に攻撃を叩き込む。まるで叩き壊すために作られたような大振りの剣での攻撃を素早く繰り出し、ケルベロスの身体を水晶の真下まで踏み込ませた。

「そこ!」

 水晶が降ってきて、中央の狼へと突き刺さる。ケルベロスは悲鳴を上げて昏倒した。目の前に俺が戦い続けてきた左翼の狼が、悔しそうに涎を撒き散らかしながら倒れる。
 左翼の狼は意識を失っていない。攻撃は飛んでくるだろう。その場所から逃げようとして、ぐん、と後ろ髪を引かれる衝撃を受けて尻もちをついた。

「――う゛、ぇ?」

 巨大水晶が聖職者用のマントに突き刺さっていた。いやいやあまりにもリアルに忠実過ぎるだろうと。ここもしっかり判定があるのかと。まあ、でも、瞳を狙えば怯みますよ、が出来るゲームはマントに判定も入るよなぁ、とも。
 がぱり、と狼が大口を開けた。レベル差的に流石にワンコンだろうなぁ。やば、とか、こういう時って意外と声すら出てこない。
 炎を纏った牙が俺の目の前に躍り出る。思わず、目を閉じてしまった。
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