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クラーヴェルの地下水路
1.「……ずるいと思うなら、言わなきゃよかったのに」
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翌日、中級者クエストに行きたがる俺を、「あれは隠しダンジョンだから行けたのであって若葉マーク付きは指定クエストをクリアしないと次のダンジョンに行けない」とぴしゃりと言って、エルドはクエストを勝手に発注した。
受付嬢のシアとエルドの淡々としたやり取りを後ろから聞く。
煉瓦作りのギルドはプレイヤーキャラクターで混雑している。隣接する酒場でもチームが積極的に組まれているが、おそらく、俺達に集まる人だかりはクエストやダンジョン攻略の受注だけではなくて、エルドやランク上位のプレイヤーを勧誘するためにできたんじゃないだろうか、と思う。あまりにも視線が集中している、エルドに。
「森飽きた」
「……一回しか行ってないだろ」
唇を尖らせて抗議する俺のお知らせ画面に、クエスト受注の通知が届く。
「安心しろよ。そう言うと思って初心者が行けるもう一つのダンジョンにしておいた」
「やったー」
行き先がマップに赤印で表示される。
クラーヴェルの地下水路
「都市の水路に出現したモンスターの討伐依頼か」
「指定数のモンスターを倒すか、指定数のドロップアイテムを持ち返ればクエストクリアだ」
クエストを受注した瞬間、俺の通知画面に大量のメッセージが表示された。
『一緒にプレイしませんか!?』
『貴方にチームの勧誘通知が届いています』
『是非プレイしましょう!』
『クエスト一緒に行きたいです!』
チーム編成の勧誘・招待通知だった。メッセージテンプレートからわざわざ打ち直したものまで、通知欄がパンクするんじゃないかってくらいに留めどなく届く。
「うるさ……」
「あー……すまん。俺のせいだな。フレンド以外の通知は切っておいた方が良いぞ」
俺が思わず右耳を覆い、通知音の衝撃に目を閉じたのにエルドは気づいたのか、後頭部に手をあてた。そうだった。"ペアを組む条件通り"フルフェイスヴェールを外したから、表情を読み取られてしまう。
チーム勧誘通知を切っているエルドではなく(エルドが通知を切っているのは周知の事実なんだろう)、ペアを組んだ俺の方に周りが一斉に勧誘通知を送ってきた訳だ。何度目かの初期設定をスキップしたことを恨みながら、俺はオプションを開いてフレンド以外の通知を切る。
「チームを組みたいならあんたに任せるよ」
「あいにく、俺は極力ソロ勢なもんで」
「やっぱ俺のこと都合のいい男だと思ってるな?」
「ソンナコトナイヨー」
クエスト参加の承認をすれば、プレイヤーキャラクターは表示されなくなる。ギルドにはNPCしかいなくなった。
「……嫌じゃないか?」
「え?」
エルドは眉を下げて、困ったように笑っていた。
「自慢じゃないけど、有名になっちゃったせいでこういうのが多くて、な……」
俺は、深く息を吐く。謙遜なのに、困惑顔が本気に見えるから茶化すも怒るも詰るもできなくてムカつく。
それに、エルドが俺に言いたいことは、きっとそう言う事じゃない。
「多分だけど、エルが嫌なのって周りからの羨望じゃなくてさ、ペアからの尊敬とか、優越感とか、そういうのじゃないの?」
「……――、」
「この間、話してくれたことが本当なら、エルがペアから向けられたいのってそういうのじゃないじゃん。そこにこう、恋愛感情がないっていうか。マジで、これ、俺が言うの本当に駄目だと思うんだけど」
これはあくまでも個人の見解だ。だって、人間は少なからず、誰からも注目されて、褒められて、尊敬のまなざしで見られることに対してきっと、悪い気はしない。ただ、そこに別の人間がいて、まるで自分の誉れかのように胸を張ったりするのは、自分の手柄を横取りされたようで嫌になる。人の褌で相撲を取る、とか便乗、とか、悪意まではいかないけれど、手柄を立てた側としてはもやっとくる感情。
それに加えて、エルドにとってペアに向けられて欲しい感情はそういうものじゃない。
そこまで言って、俺ははっとした。
「――いや、でも、エルがそんなこと思うわけないかぁ……俺が性格悪いのバラしただけじゃん」
俺がソロプレイに拘るのは、そう言った側面もある。チーム一丸となって実績を得るのもいいけれど、自分の力だけでやり遂げる達成感を、すべての感情を、ひとり占めにしたい。経験から来る見解だけれど、他人に自分の感情を分け与えられる人は、この世の中に沢山いる。俺は、めちゃくちゃみみっちいんだろうな。
「……そんなことない」
「え?」
黒髪から覗く緑色の瞳が、影になって暗く見える。見たことのない表情だった。
「きっと、そう言ってくれる誰かがいるのを、ずっと待っていた。俺がペアに対して感じていた負の感情を言語化して、否定してくれる相手を。俺の口からじゃなくて、わざわざ言われるまで待ってたんだ。――ずるいだろ?」
「……ずるいと思うなら、言わなきゃよかったのに」
俺の性格が悪い、それで終わりなのに、わざわざ本心を吐露してヘイトを自分に向け直しているあたり、根が良い奴だな、と俺は思った。悪い人間になり切れない。本性をひたすら隠して過ごしている。ゲームですら。それが少し、可哀想だ。
「ゲームの中ですらそうやって自分の気持ち隠してたら疲れるだろ。台パンしようぜ台パン」
「知り合いがそれやって親にうるさいって怒られてたな」
俺が、場の空気を切り替えるために机をバンバンと叩くジェスチャーをすると、エルドはまた、困った顔をした。
でもそれはさっきの感情を誤魔化すような不器用な笑い方じゃなくて、純粋に友人の親フラを思い出したのだろう。マップを開き、地下水路をマッピングする。地面に矢印でガイドが表示された。
ガイドに従って歩きだしたエルドに、俺は焦る。
いや、だって――、咄嗟に、彼の外套を掴んでいた。
「ん? 装備忘れか?」
振り向かれたような気がする。俺は俯いているから、相手の様子は分からない。くそ、このことに関してはマジで言わせないで欲しい。やっぱこいつ性格悪い。
「ちが、う……その、あれ……リンクって……してかないの……あー……したい訳じゃないからな……しないに越したことはないから……」
沈黙。黙るな。早くなんか言え。息を詰めるな。
「あ、あー……ごめん。このダンジョンは、多分あんたと俺ならEで余裕だし、それに……あんまりやりたくないだろ?」
そりゃそうか、と俺は顔に更に熱が集まるのを自覚した。はじまりの森で余裕だったのだから、同じ初心者用ダンジョンでクリアできないわけがない。最悪だ。
これじゃあまるで、
「――期待させた?」
耳元で囁かれた。
やっぱこいつ性格めちゃくちゃ悪いわ。
受付嬢のシアとエルドの淡々としたやり取りを後ろから聞く。
煉瓦作りのギルドはプレイヤーキャラクターで混雑している。隣接する酒場でもチームが積極的に組まれているが、おそらく、俺達に集まる人だかりはクエストやダンジョン攻略の受注だけではなくて、エルドやランク上位のプレイヤーを勧誘するためにできたんじゃないだろうか、と思う。あまりにも視線が集中している、エルドに。
「森飽きた」
「……一回しか行ってないだろ」
唇を尖らせて抗議する俺のお知らせ画面に、クエスト受注の通知が届く。
「安心しろよ。そう言うと思って初心者が行けるもう一つのダンジョンにしておいた」
「やったー」
行き先がマップに赤印で表示される。
クラーヴェルの地下水路
「都市の水路に出現したモンスターの討伐依頼か」
「指定数のモンスターを倒すか、指定数のドロップアイテムを持ち返ればクエストクリアだ」
クエストを受注した瞬間、俺の通知画面に大量のメッセージが表示された。
『一緒にプレイしませんか!?』
『貴方にチームの勧誘通知が届いています』
『是非プレイしましょう!』
『クエスト一緒に行きたいです!』
チーム編成の勧誘・招待通知だった。メッセージテンプレートからわざわざ打ち直したものまで、通知欄がパンクするんじゃないかってくらいに留めどなく届く。
「うるさ……」
「あー……すまん。俺のせいだな。フレンド以外の通知は切っておいた方が良いぞ」
俺が思わず右耳を覆い、通知音の衝撃に目を閉じたのにエルドは気づいたのか、後頭部に手をあてた。そうだった。"ペアを組む条件通り"フルフェイスヴェールを外したから、表情を読み取られてしまう。
チーム勧誘通知を切っているエルドではなく(エルドが通知を切っているのは周知の事実なんだろう)、ペアを組んだ俺の方に周りが一斉に勧誘通知を送ってきた訳だ。何度目かの初期設定をスキップしたことを恨みながら、俺はオプションを開いてフレンド以外の通知を切る。
「チームを組みたいならあんたに任せるよ」
「あいにく、俺は極力ソロ勢なもんで」
「やっぱ俺のこと都合のいい男だと思ってるな?」
「ソンナコトナイヨー」
クエスト参加の承認をすれば、プレイヤーキャラクターは表示されなくなる。ギルドにはNPCしかいなくなった。
「……嫌じゃないか?」
「え?」
エルドは眉を下げて、困ったように笑っていた。
「自慢じゃないけど、有名になっちゃったせいでこういうのが多くて、な……」
俺は、深く息を吐く。謙遜なのに、困惑顔が本気に見えるから茶化すも怒るも詰るもできなくてムカつく。
それに、エルドが俺に言いたいことは、きっとそう言う事じゃない。
「多分だけど、エルが嫌なのって周りからの羨望じゃなくてさ、ペアからの尊敬とか、優越感とか、そういうのじゃないの?」
「……――、」
「この間、話してくれたことが本当なら、エルがペアから向けられたいのってそういうのじゃないじゃん。そこにこう、恋愛感情がないっていうか。マジで、これ、俺が言うの本当に駄目だと思うんだけど」
これはあくまでも個人の見解だ。だって、人間は少なからず、誰からも注目されて、褒められて、尊敬のまなざしで見られることに対してきっと、悪い気はしない。ただ、そこに別の人間がいて、まるで自分の誉れかのように胸を張ったりするのは、自分の手柄を横取りされたようで嫌になる。人の褌で相撲を取る、とか便乗、とか、悪意まではいかないけれど、手柄を立てた側としてはもやっとくる感情。
それに加えて、エルドにとってペアに向けられて欲しい感情はそういうものじゃない。
そこまで言って、俺ははっとした。
「――いや、でも、エルがそんなこと思うわけないかぁ……俺が性格悪いのバラしただけじゃん」
俺がソロプレイに拘るのは、そう言った側面もある。チーム一丸となって実績を得るのもいいけれど、自分の力だけでやり遂げる達成感を、すべての感情を、ひとり占めにしたい。経験から来る見解だけれど、他人に自分の感情を分け与えられる人は、この世の中に沢山いる。俺は、めちゃくちゃみみっちいんだろうな。
「……そんなことない」
「え?」
黒髪から覗く緑色の瞳が、影になって暗く見える。見たことのない表情だった。
「きっと、そう言ってくれる誰かがいるのを、ずっと待っていた。俺がペアに対して感じていた負の感情を言語化して、否定してくれる相手を。俺の口からじゃなくて、わざわざ言われるまで待ってたんだ。――ずるいだろ?」
「……ずるいと思うなら、言わなきゃよかったのに」
俺の性格が悪い、それで終わりなのに、わざわざ本心を吐露してヘイトを自分に向け直しているあたり、根が良い奴だな、と俺は思った。悪い人間になり切れない。本性をひたすら隠して過ごしている。ゲームですら。それが少し、可哀想だ。
「ゲームの中ですらそうやって自分の気持ち隠してたら疲れるだろ。台パンしようぜ台パン」
「知り合いがそれやって親にうるさいって怒られてたな」
俺が、場の空気を切り替えるために机をバンバンと叩くジェスチャーをすると、エルドはまた、困った顔をした。
でもそれはさっきの感情を誤魔化すような不器用な笑い方じゃなくて、純粋に友人の親フラを思い出したのだろう。マップを開き、地下水路をマッピングする。地面に矢印でガイドが表示された。
ガイドに従って歩きだしたエルドに、俺は焦る。
いや、だって――、咄嗟に、彼の外套を掴んでいた。
「ん? 装備忘れか?」
振り向かれたような気がする。俺は俯いているから、相手の様子は分からない。くそ、このことに関してはマジで言わせないで欲しい。やっぱこいつ性格悪い。
「ちが、う……その、あれ……リンクって……してかないの……あー……したい訳じゃないからな……しないに越したことはないから……」
沈黙。黙るな。早くなんか言え。息を詰めるな。
「あ、あー……ごめん。このダンジョンは、多分あんたと俺ならEで余裕だし、それに……あんまりやりたくないだろ?」
そりゃそうか、と俺は顔に更に熱が集まるのを自覚した。はじまりの森で余裕だったのだから、同じ初心者用ダンジョンでクリアできないわけがない。最悪だ。
これじゃあまるで、
「――期待させた?」
耳元で囁かれた。
やっぱこいつ性格めちゃくちゃ悪いわ。
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