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クラーヴェルの地下水路
2.「えっち9割、身をもってこのゲームの恐ろしさを知ってくださいが1割」
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拝啓。
父さん、母さん。ごめんなさい。
俺は、大都市の真下で裸になっています。
大都市クラーヴェルの地下水路は、初心者ダンジョンらしくギルドのすぐ近くにある乾いた井戸から入ることが出来た。
ここも水晶の洞窟同様に装備しているランタンの光が頼りだ。ドーム状の道が続く地下水路は、戦闘のお誂え向きと言わんばかりに広く作られている舗装路も水路の横に続いている。主に雨水を河川へと流しているのか、水から不愉快な匂いはしない。おそらく水も透明なのだろうが、灯りが乏しいために水面には闇が広がっていた。
「ここは序盤の金策ポイントになる」
「へー」
中級ダンジョンをクリアした俺にとっては序盤ではありえない討伐報酬を貰ってしまったので、ちまちまとした序盤の金策にあまり興味がわかなかった。だって、金に困ったら水晶の洞窟に行ってリポップしたケルベロスを倒せばいい。
攻撃魔法のレイも覚えたし、杖を使った通常攻撃派生技も完璧にマスターしている。スキルリンクとバフなんてなくても問題ないだろうけど、"あんな目"にあったのだからフル活用させて頂く。
早速、水路から勢いよく飛び出してきた魚のモンスターを杖でぶん殴る。目が退化していて、足音や武器の音、詠唱呪文の声に感知して水路から突発的に出てきて襲ってくる『マッドフィッシュ』だ。魚には勿体ないくらいの牙を剥き出しに、獰猛に噛みついてくるが、俺はその牙を杖で叩き折った。こういうジャンプスケア要素のあるモンスターはホラーゲームで慣れている。
容赦なくモンスターを水面に叩き込み返した俺に、エルドは両腕を組んで呆れている、というかつまらなさそうにしていた。静かになった水面を覗き込んでいる。
「驚きすらしないんだな」
「これくらい予測できるだろ」
俺は、鼻を鳴らして杖を軽く振って水気を飛ばす。心外だ。初心者ダンジョンのギミックやモンスターなんてRPGをある程度嗜んでいればマップを見て予想が出来る。
例えば、
「次はスライムとか、なッ――!」
物陰から飛び出してきた青色のスライムを杖でフルスイングする。ぶにっとスライムの形が歪んだが杖の打撃を吸収して、何も効いていない。
「だよなァ!」
これも予測済みだ。魔法しか効かないモンスターがそろそろ出てくる頃合いだと思っていた。
それでも俺は杖でスライムを殴る。バックステップや回避でスライムの攻撃を避けるよりは杖の通常攻撃コンボを繋げてから魔法呪文をかけたほうが攻撃の出が早い。空中でぶにぶにとスライムを杖で弄び、天井すれすれまで持ち上げ、俺は杖を両手で掲げて呪文を唱える。
「レイ!」
「あ、」
なんか、エルドの声が聞こえた気がする。が、それと同時にスライムに直線の閃光が突き刺さった。頭上でスライムが霧散する。びちゃびちゃと雨のように液体と化したスライムが俺に降りかかった。
ねっとりとした重みのある液体が肩や胸にかかる。不愉快だ。
じゅわ~~~~~~~~~~~~~~。
「――へ?」
身体から湯気が出ている。否、身体じゃない。服だ。装備だ。繊維だ。
スライムの残渣がかかったところから、広がる様に服が溶けていく。外套も、ローブも、見事に溶けて消えていく。
痛みはない。痛みはないけれど、血の気はぐん、と引いた。
「ぎゃあああああああ!」
あっという間に俺はすっぽんぽんになっていた。残ったのは都合よく下着だけだ。いや、都合よかったのは服だけを溶かす意味分からんスライムの存在だ。
エルドは、両手で身体を庇って通路に座り込む俺に言った。
「これは予想できたか?」
「出来るかあああああああああああ!!」
ぐわんぐわんと俺の叫びが水路に反響する。
そうだった、ここは成人向けRPGのダンジョンだった。しかもグロじゃなくてエロい方の。
そりゃ、こんなご都合主義極まりないモンスターだって存在するだろう。多分、大多数のプレイヤーがこのために金を払ってゲームをダウンロードしている。恥じらいよりもこんな簡単なモンスタートラップにかかってしまった自分への腹立たしさと情けなさが勝る。
エルドは俺の前に出て、スライムからドロップしたアイテムを拾って"使用"した。
「これが金になる」
ぬるぬるとろとろの粘着性のある液体が、エルドの両掌をねっとりと覆い、絡みつく。エルドがそれを揉み込むと、くちゅくちゅと泡立つ。手つきエッロ。
嗚呼、なるほどね。そうだな、Zまで辿り着くには、何度もお世話になりそうだな。
俺はもう一度吠えた。
「まじで最低のゲーム!」
「でも明日もやるんだろ?」
「嗚呼、また明日な!」
俺はエルドから外套を引っ手繰ろうと掴むと、やれやれと言いたげに装備を外して肩に外套をかけてくれた。
「……もしかして、クリアするまで俺ってずっとこれ?」
「宝箱の中身に期待だな」
エルドが喉を震わせて笑う。
「初見殺しがあまりにもガキ仕様だろうが……!」
エルドとは対照的に俺が怒りで震えていると、「でも」とエルドはガキの笑みを見せてきた。
「好きな子がこういう目にあってるの見れたらちょっとイイだろ?」
「んぐ、ぎ……!」
否定できないのがムカつく。まあ、こういうシチュエーションはありきたりだけれど、"ガキ心"を擽るのは否定しない。
問題は、俺がこういう目に遭っているということだ。
「なんだよ、見たかったのかよ。スケベ、えっち」
「えっち9割、身をもってこのゲームの恐ろしさを知ってくださいが1割」
「えっちの割合高っか……」
アモル・スキルリンクを強制しない割には揶揄してくるから、心臓がざわざわしてしまう。やっぱり、俺がこのゲームをクリアするために手伝ってもらっているのは申し訳ない気がする。
「ふは、次のアモルコード、裸での軽いスキンシップだけど、ついでにやっておくか?」
「んだよ、スライムに襲われた後に俺は更にエルに襲われんのか」
「お清めえっちってやつ」
「うわぁ、かこつけて色んなバカップルがや、ってそ~~~……」
俺はこれからも下品なギミックが出てくるダンジョンがあるのだと思うとげんなりした。
「……二日連続で付き合ってもらってるけど、その、いいからな、別に。他の人優先したって」
俺が言葉に含んだ意味を察したかどうか分からないが、エルドは答えた。
「久しぶりにゲームが楽しいんだ。気にするな」
その後はダイジェストだ。
現れる敵を千切っては投げ、粉砕しては大剣でスライムの液体から身体を守り、俺のことを姫扱いしながらエルドはダンジョンを進んで、スライムを倒して金になる液体を拾っていく。
道中の宝箱の中に聖職者の装備はなかった。ちくしょう。
スライムをクエストの指定数倒し、大都市に帰還すると俺の装備は元に戻っていた。
「スライムには今後も気を付けないとな……」
俺が小さくため息を吐くと、エルドはそうしてくれ、と楽しそうに笑った。
父さん、母さん。ごめんなさい。
俺は、大都市の真下で裸になっています。
大都市クラーヴェルの地下水路は、初心者ダンジョンらしくギルドのすぐ近くにある乾いた井戸から入ることが出来た。
ここも水晶の洞窟同様に装備しているランタンの光が頼りだ。ドーム状の道が続く地下水路は、戦闘のお誂え向きと言わんばかりに広く作られている舗装路も水路の横に続いている。主に雨水を河川へと流しているのか、水から不愉快な匂いはしない。おそらく水も透明なのだろうが、灯りが乏しいために水面には闇が広がっていた。
「ここは序盤の金策ポイントになる」
「へー」
中級ダンジョンをクリアした俺にとっては序盤ではありえない討伐報酬を貰ってしまったので、ちまちまとした序盤の金策にあまり興味がわかなかった。だって、金に困ったら水晶の洞窟に行ってリポップしたケルベロスを倒せばいい。
攻撃魔法のレイも覚えたし、杖を使った通常攻撃派生技も完璧にマスターしている。スキルリンクとバフなんてなくても問題ないだろうけど、"あんな目"にあったのだからフル活用させて頂く。
早速、水路から勢いよく飛び出してきた魚のモンスターを杖でぶん殴る。目が退化していて、足音や武器の音、詠唱呪文の声に感知して水路から突発的に出てきて襲ってくる『マッドフィッシュ』だ。魚には勿体ないくらいの牙を剥き出しに、獰猛に噛みついてくるが、俺はその牙を杖で叩き折った。こういうジャンプスケア要素のあるモンスターはホラーゲームで慣れている。
容赦なくモンスターを水面に叩き込み返した俺に、エルドは両腕を組んで呆れている、というかつまらなさそうにしていた。静かになった水面を覗き込んでいる。
「驚きすらしないんだな」
「これくらい予測できるだろ」
俺は、鼻を鳴らして杖を軽く振って水気を飛ばす。心外だ。初心者ダンジョンのギミックやモンスターなんてRPGをある程度嗜んでいればマップを見て予想が出来る。
例えば、
「次はスライムとか、なッ――!」
物陰から飛び出してきた青色のスライムを杖でフルスイングする。ぶにっとスライムの形が歪んだが杖の打撃を吸収して、何も効いていない。
「だよなァ!」
これも予測済みだ。魔法しか効かないモンスターがそろそろ出てくる頃合いだと思っていた。
それでも俺は杖でスライムを殴る。バックステップや回避でスライムの攻撃を避けるよりは杖の通常攻撃コンボを繋げてから魔法呪文をかけたほうが攻撃の出が早い。空中でぶにぶにとスライムを杖で弄び、天井すれすれまで持ち上げ、俺は杖を両手で掲げて呪文を唱える。
「レイ!」
「あ、」
なんか、エルドの声が聞こえた気がする。が、それと同時にスライムに直線の閃光が突き刺さった。頭上でスライムが霧散する。びちゃびちゃと雨のように液体と化したスライムが俺に降りかかった。
ねっとりとした重みのある液体が肩や胸にかかる。不愉快だ。
じゅわ~~~~~~~~~~~~~~。
「――へ?」
身体から湯気が出ている。否、身体じゃない。服だ。装備だ。繊維だ。
スライムの残渣がかかったところから、広がる様に服が溶けていく。外套も、ローブも、見事に溶けて消えていく。
痛みはない。痛みはないけれど、血の気はぐん、と引いた。
「ぎゃあああああああ!」
あっという間に俺はすっぽんぽんになっていた。残ったのは都合よく下着だけだ。いや、都合よかったのは服だけを溶かす意味分からんスライムの存在だ。
エルドは、両手で身体を庇って通路に座り込む俺に言った。
「これは予想できたか?」
「出来るかあああああああああああ!!」
ぐわんぐわんと俺の叫びが水路に反響する。
そうだった、ここは成人向けRPGのダンジョンだった。しかもグロじゃなくてエロい方の。
そりゃ、こんなご都合主義極まりないモンスターだって存在するだろう。多分、大多数のプレイヤーがこのために金を払ってゲームをダウンロードしている。恥じらいよりもこんな簡単なモンスタートラップにかかってしまった自分への腹立たしさと情けなさが勝る。
エルドは俺の前に出て、スライムからドロップしたアイテムを拾って"使用"した。
「これが金になる」
ぬるぬるとろとろの粘着性のある液体が、エルドの両掌をねっとりと覆い、絡みつく。エルドがそれを揉み込むと、くちゅくちゅと泡立つ。手つきエッロ。
嗚呼、なるほどね。そうだな、Zまで辿り着くには、何度もお世話になりそうだな。
俺はもう一度吠えた。
「まじで最低のゲーム!」
「でも明日もやるんだろ?」
「嗚呼、また明日な!」
俺はエルドから外套を引っ手繰ろうと掴むと、やれやれと言いたげに装備を外して肩に外套をかけてくれた。
「……もしかして、クリアするまで俺ってずっとこれ?」
「宝箱の中身に期待だな」
エルドが喉を震わせて笑う。
「初見殺しがあまりにもガキ仕様だろうが……!」
エルドとは対照的に俺が怒りで震えていると、「でも」とエルドはガキの笑みを見せてきた。
「好きな子がこういう目にあってるの見れたらちょっとイイだろ?」
「んぐ、ぎ……!」
否定できないのがムカつく。まあ、こういうシチュエーションはありきたりだけれど、"ガキ心"を擽るのは否定しない。
問題は、俺がこういう目に遭っているということだ。
「なんだよ、見たかったのかよ。スケベ、えっち」
「えっち9割、身をもってこのゲームの恐ろしさを知ってくださいが1割」
「えっちの割合高っか……」
アモル・スキルリンクを強制しない割には揶揄してくるから、心臓がざわざわしてしまう。やっぱり、俺がこのゲームをクリアするために手伝ってもらっているのは申し訳ない気がする。
「ふは、次のアモルコード、裸での軽いスキンシップだけど、ついでにやっておくか?」
「んだよ、スライムに襲われた後に俺は更にエルに襲われんのか」
「お清めえっちってやつ」
「うわぁ、かこつけて色んなバカップルがや、ってそ~~~……」
俺はこれからも下品なギミックが出てくるダンジョンがあるのだと思うとげんなりした。
「……二日連続で付き合ってもらってるけど、その、いいからな、別に。他の人優先したって」
俺が言葉に含んだ意味を察したかどうか分からないが、エルドは答えた。
「久しぶりにゲームが楽しいんだ。気にするな」
その後はダイジェストだ。
現れる敵を千切っては投げ、粉砕しては大剣でスライムの液体から身体を守り、俺のことを姫扱いしながらエルドはダンジョンを進んで、スライムを倒して金になる液体を拾っていく。
道中の宝箱の中に聖職者の装備はなかった。ちくしょう。
スライムをクエストの指定数倒し、大都市に帰還すると俺の装備は元に戻っていた。
「スライムには今後も気を付けないとな……」
俺が小さくため息を吐くと、エルドはそうしてくれ、と楽しそうに笑った。
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