聖職者あああああは冒険者ランク上位の戦士に寵愛されながら高難易度クエストを攻略する

よるべなし

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シュルドー廃教会

1.「あれ、――いいの?」

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 エルドとひたすら初心者ダンジョンを周回し、晴れて俺の頭上から若葉マークが取れた。
 次の集合場所を交流広場に指定された俺は、チュートリアル以来にプレイヤーがチーム編成やチャットをするための交流広場に足を運んだ。

 相変わらずプレイヤーキャラクターであふれ返っているが、フレンドのみの通知やチャット表示にしたためか、文字の賑わいを感じられずに済む。
 でかくて黒い人物を探していると、大きく手を振られて急ぎ足でエルドと合流する。

「あ、」
「おや、」
「あー!」

 俺の声と共に男女の声が重なった。そこには、エルドと共に、見覚えのある二人がいた。

 最初に受付で見たいちゃいちゃカップルだった。

 一人は、白と青を基調とした重厚な鎧を着ており、ショートカットの金色の髪が太陽の光にあてられて一際輝いている。体格は180cmほどだろうか。エルドよりは背が少し低いが、装備や雰囲気から精悍な威圧感が伝わってくる。鎧と同じ青色の瞳の上にのる睫毛が長くて、中性的な顔立ちだ。宝塚歌劇団にいそうなイケメン。

 その横でぴょんぴょん跳ねているのは、男に腰をまわされて甘えていた魔女っこ。ふんわりウェーブがかかった桃色の髪とくりくりとした茶色い瞳。150cmもなさそうな小柄な体型。露出度の高い女性魔法使いの装備をしている。多分、めちゃくちゃこのゲームに課金してるタイプだ。課金ブーストも相まってか、とても衣装が派手で、アバターも凄くかわいくて、目立つ。

「噂の元若葉マーク君だね! 凄いねぇ、あたしとカインでも隠しダンジョンのケルベロス倒せなかったんだよ~」

 俺の頭上についているであろう若葉マークと顔を見比べながら、女の子は上目遣いで見つめてきた。可愛い、んだけど、その前に馴れ馴れしさとか、どういうことかと、俺はエルドに視線で助けを求めた。

「すまん。あんたのことを話したら、どうしてもチームを組みたいって頼まれてな……。二人は俺のフレンドだ。騎士がカインで魔導士がミーナ」

 頭を下げた二人に、俺も思わずつられた。

「で、彼はなんて呼べばいいんだい?」

 仲良く首を傾げたカインとミーナに、エルドは俺に視線を投げた。

「あーさんでいいか?」
「いいよ」

 俺の返答を聞いてから、エルドは眉を下げる。カインとミーナも少しだけかしこまった。

「勿論、チームを組むのに無理強いはしない。せっかく"こんな"ゲームを楽しんでくれているんだ。マルチプレイで嫌な思いはしてもらいたくない」

 どうやら二人には俺の事情を説明してあるようだ。俺は少しだけ考えた。

 マルチプレイで嫌な思いは、正直、割としていた。特に、FPSとMOBA。二つのジャンルのせいでマルチプレイを忌避してきたが、RPGではそんなに嫌な思いはしてきていない、と思う。頑なに俺がソロプレイを貫いてきただけだ。
 ソロプレイにこだわる俺の信条が、このゲーム独自のシステムで壊されてしまったのだから、こだわる必要はない。それに、エルドのフレンドなら問題ないんじゃないかという謎の信頼とマルチプレイへの好奇心。

 俺は頷いた。

「大丈夫だ。よろしく。カイン、ミーナ」

 三人の顔がぱあっと明るくなる。ミーナが俺の手を取ってぶんぶんと勢いよく振ってきた。

「よろしくね! あたしは攻撃魔法が得意なの。回復魔法は初期魔法のヒールくらい。詠唱の長い魔法が多くて、詠唱中は動けないからカインに守ってもらうんだ。連続魔法よりおっきくて強い一発を浴びせるのが好きなの」
「ボクは見ての通りのタンクだよ。HP量と防御だけであればステータスはエルより高い。ミーナ最優先は前提だけれど、君のことも守ってあげよう。自己回復できるから、ボクの回復よりもミーナが怪我をしたらミーナを優先してくれ」

 前衛の戦士と騎士、後衛の魔法使いと聖職者。

 相性はとてもいい。

 エルドが補足する。

「カインもミーナも発売時から俺とよくチームを組んでいる。エンジョイ勢ではないから安心してくれ」
「このゲームは、ガチ勢とエンジョイ勢の差が著しいからねぇ……」
「チームを組む時に一番難しいのはここなんだ」

 だろうな、と思う。スライムに服を溶かされてそのままおっぱじめるカップルもいそうだし、アモル・スキルリンクの仕様にかこつけてあんなことやこんなことをして、肝心のクエストを放置するなんてざらにありそうだ。

「でもでも~冒険も楽しいからさ、ガチ勢も結構多いのに、冒険者ランキングの10位以内にエル君入ってるの本当にすごいよ! ねえねえどうやったらそんなに上手くなれるの? いい加減教えてよぉ!」

 またもぴょんぴょんと飛び跳ねながらミーナはエルドの周りをうろついてから、彼の腕にぎゅぅっと抱き着いた。

 思わず、俺はカインを見てしまう。

 カインとミーナはきっとそういう関係だ。エルドもおい、と窘めながらも振り解こうとはしない。これも長くチームを組んでいるから許されているのだろうか。

 なんだか、少しだけ心臓がくすぐったい。

「あれ、――いいの?」

 聞いてしまった。カインは腕を組んで、二人のことを唇を緩めて見つめていたが、腕を解き、唇を強く引き締めてからゆっくりと一つ、頷いた。

「気分は良くないよね。だから、ボクたちも、どうかな?」

 どうかなってなにが? と聞こうとする前に、するりと顎に手を添えられて、カインの艶やかな唇が接近してくる。顔が良い。イケメンが近づいてきて――俺は、ぞわっとした背筋を走る嫌悪感に忠実に、カインを突き飛ばしていた。彼はよろめくどころかびくともしなかったけれど、素直に顔をひいていく。

「ごめっ、……悪い。俺、違くて……」

 エルドは二人に話していなかったのか、とか俺を意趣返しに利用するな、とか言いたかったけれどチームを組むとか、エルドのフレンドだから、とかで言葉が紡げなくなる。

 エルドとミーナの視線も注がれている気がする。カインは自らの顎に手を添えて、ごめんね、と謝ってきた。

「ごめん。君のことは色々聞いているよ。ガチでプレイしてくれる人が増えるのはボクも嬉しいのに。嫌な気分にさせちゃったね」
「カ~イ~ン~? なにしたのぉ?」

 ミーナのじっとりとした視線がカインに移る。カインはミーナの手を取り、その甲に口づけをした。しかし、カインの視線は俺に流される。

「安心して、ミーナは、"女の子"にしか興味がないんだ。――そして、"ボク"もね」
「お、んな……のこ……?」

 脳の処理に時間がかかったが、パズルのピースが高速でカチカチあてはまっていく。
 嗚呼、そういう、そういうことか。ホッとした。良かったと思った。

 ――一体、なにに?

 スペースキャット顔をしていたであろう俺に、エルドが気を取り直そうとばかりに声をかける。

「次のダンジョンは中級者用のシュルドー廃教会の探索だ。夜のみ入れるダンジョンだから、クエストを受注して夜に時間を飛ばすか、それとも準備に時間をかけるか、どうする?」

 ミーナとカインは顔を見合わせる。舌をペロリと出して、彼女は言った。

「ミーナ、ちゃ~んと準備、したいな……♡」
「だ、そうだ。合わせてくれるな?」

 カインの有無言わせない問いかけに、俺は勢いよくうなずいていた。準備とは、言わずもがなアモル・スキルリンクのことだろう。横に来ていたエルドがぼそりと、二人はゲームもシステムもガチ勢だから、と耳打ちをしてきた。

「じゃあ、一度解散で。ダンジョンまでは大都市からみんなで行こう。夜にギルド前集合で頼んだ」

 エルドの言葉でカインとミーナがリンクノードの奥にある宿屋へと向かっていく。

 カインが首だけ振り向いて、俺に問いかけてきた。

「あーさん、さっき、"なにが違った"?」
「――え?」

 カインの言葉の意味が理解できない俺に、彼は言葉を続けた。

「君の中に生まれた違和感を、考えてみていいんじゃないかい?」
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