聖職者あああああは冒険者ランク上位の戦士に寵愛されながら高難易度クエストを攻略する

よるべなし

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シュルドー廃教会

2.「――……俺、スゲー最低じゃん……」

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 俺はカインとミーナ、そしてエルドと一度解散して、都市の噴水広場にある商店で武器と防具の調達をした。いつもであれば、チュートリアルをスキップした俺に、エルドは解説を入れながら買い物や街の施設散策に付き合ってくれるのだが、今回はアモル・スキルリンク用の宿屋で帰りを待つと言っていた。

 要は、俺に心の準備をする時間を与えた、ってことだ。

「違和感、違い、なぁ……」

 広場の木製ベンチに座り、レベルアップで獲得した魔法を整理しながら、俺はカインの言葉を思い出す。

 これは、聖職者のジョブを選んだ後に知ったことだが、このゲームにおいて聖職者のジョブは人気もなければ難易度も上級者向けの扱いだった。

 その理由の一つに、味方へのバフ魔法がこのゲームには一切存在しないことがあげられる。

 アモル・スキルリンクがその役割を果たしているから、聖職者の醍醐味である味方の能力の底上げをする必要性がない。しかし、味方へのバフは戦闘において重要な役割があるから、バフをかけることからは逃げられない。バトリフからは、特に。

 夜の廃教会を攻略するのなら、出てくるモンスターはアンデット系だろう。お荷物、というよりは自分が手持無沙汰にならないようにアンデット族特効魔法の『ホーリー』を打ちやすく設定する。

 ゲーム上の準備は終わりだ。

「ぅ゛あぁ~~~……」

 両手で顔面を覆った後、頭を抱える。悩みは勿論、この後のことだ。準備期間を与えられたのも心臓に悪い。最初に出会った時のように訳も分からず無理矢理されてしまえばいっそよかったのに。でも、あの男はもうそんなことは絶対しないだろうなっていうのも分かる。

 次のアモルコードは、確か、

 F Flesh Sync 肉体同調

 肌と肌を直接触れ合わせるのが条件。恩恵バフはHPとMPの増加。

 めっちゃ大事なバフじゃん……。

 俺は童貞ってわけではない。社会人そこそことして、男として、そこそこの女性関係でそこそこのことをして、そこそこの恋愛をしてきた。

 最後に、俺と時間を共有した女性は、俺が張り付けた仮面を見つけて、「心に溝がある。貴方はそれを埋める気はないでしょう?」と言い残して去っていったっきり、出会いはないけれど。

 でも、肌と肌ってことはきっと上半身だけでもいいだろうし、ゲーム内アバターの俺はスライムによって裸とっくに見られているし、男子同士のボディタッチだと思えば問題なくいける、気がしてきた。そう思い込む。

 そこも一億歩譲って解決したとして、あとはカインから送られた言葉だ。

 ミーナがエルドにひっついてざわっとした。
 カインにキスされそうになってぞわっとした。

「――……俺、スゲー最低じゃん……」

 クラーヴェルの地下水路に行く前に、ペアとしての独占欲とか、優越感とか、能書き垂れたくせに俺こそ、そう思ってたんだ。偶然マッチした男がめちゃくちゃバトルが上手くて、息があって、一緒にペアを組んでもいいと承諾してくれた。恋愛感情なしで、冒険者ランキング上位の男が傍にいることを許してくれた。その特別な関係の優越感に、どっぷりと浸っていたのは自分だった。

 水路では、他の人を優先してもいいって言ったけど、実際にエルドがその人とクエスト受注してるところとか見たら、結構へこむんだろうな、俺。

 エルドに恋愛感情とか、ないのに。

 これってもしかして、カインとミーナから見たらセフレなのかな。俺は友人でいたいんだけどな。でもエルドと友人としているには身体で繋ぎ止めるしかなくて、いやでもペアを解消して定期的に今回みたいに"ダブルデート"を組めば――

「――嫌だな」

 エルドと一緒にゲームをするのに、誰かと仮初めの肉体関係を結ぶのは、どちらに対しても凄く不誠実だ。
 となると、選択肢は一つしかない。
 立ち上がり、俺はローブを払った。

「……―――」

 ゲームの中だし、えっちなことをするのはキャラクターだし、身を清める、なんてことはしなくてもいいんだけれど、なんとなく今の格好に気が引けて、購入した新品の防具に装備を更新した。

***

「おかえり。いいの――は、あったみたいだな」
「ん……」

 ステータスの上昇は見違えるほどあるが、少し装飾が煌やかになっただけで見た目はあまり変わっていない。鎧のデザインで印象ががらっと変わる戦士や騎士、魔導士というジャンルにも服装にもバラエティが飛んだ職業でもない聖職者、特に男アバターであれば聖職者が身に着けている装備にデザイン変更はあまり入らない(ここも人気のない理由の一つだろう)。

 それに、これから脱ぐし。

 出迎えたエルドは、鎧を脱いで下に着ていた黒いタートルネックセーターとジーンズを履いていて、今まで寛いでいたんだなっていうのが分かる。

 俺も部屋の中に入って、外套と貫頭衣の装備を外し、中に着ている司祭服だけにする。

「参考に、聞きたいんだけど……中級者ダンジョンに行くのに、みんなどれくらいまでやってるのか、とか……そもそも、元から付き合っていて、身体の関係もあってゲームをやり始めた人とかって最終段階までいってるはずだよな……?」

 エルドはベッドの縁に腰をかける。入り口の前で立っていた俺は、近くにあった木製チェアに座った。

「ダンジョンとクエスト攻略数によって初心者、中級者、上級者、マスターの四つに大きく分かれるんだが、アモルコードにはそれぞれの階級によってバフに制限がかかるんだ。だから、例えば俺とあんたが最後までヤったとしても、Gまでのバフしか付与されない。中級者ダンジョンに向かう前――つまり、今からアモルコードのOのバフまで解禁される」

 Oということは、AからZまであるアモルコードの段階のほぼ半分だ。

「邪なことをするのが目的でプレイしている奴が9.9割だから、本来ならZのバフが付与される奴はたくさんいる。それこそ、カインとミーナもだ」

 残りの0.1は俺のことだろう。エルドから視線が投げられた。

「一番強いバフが付与されるZは――相互の気持ちとか、身体の相性とかが重要なんだ。ただやみくもにセックスしたってZが与えられることはない」
「カインとミーナは?」
「あの二人は、さっきのやり取りみればやることやってるって察せるだろ? きっと"アモル様もお許しになる"。だが、そもそも二人はまだ上級者帯だからアモルコードの段階を踏んでいてもコードに制御がかかっていて、与えられるバフが制限されている状態だ」

 AからHまでが初心者帯で取得可能、IからOまでが中級者、PからWまでは上級者、XYZがマスターでバフが付与される。

「アモルコードの存在は、『あくまでもペアの性行為をもりあげるためのエッセンス』でしかない。プレイヤーの大半が、バフはおまけだと思ってる。アモルコードのバフに拘るのは冒険者ランキングに載りたいし邪なこともしたい奴だけだ」

 マスターでバフが解禁されるなら、せっかくならそこまで辿り着きたいと思うプレイヤーはあまりいないのだろうか。

「そもそも、マスター帯まで辿り着くのにも時間かかるしなぁ……」
「エルドはマスター帯、だよな……ランカーだし……」
「……嗚呼、だいぶ前に、組んでいたペアの奴と一緒にな。発売開始直後からやっていたから、運営の難易度調整もままならない状態でトントン拍子に進んでって――相方が飽きてゲームを辞めちゃったから、落ちないようにランダムマッチした相手と中級者、上級者帯のダンジョンとクエスト周回して維持してる感じだ」

 エルドの声のトーンが下がった。前のペアの話が聞きたかったが、今のタイミングで聞くのは雰囲気的にも彼の心情的にもよくないのは流石に察せる。

 とにかく、今の俺とエルドは、Oまでのバフがつく。極力やるべきなのだろう。そこまで。

 プールサイドでの友人とのスキンシップ、修学旅行の大浴場でのじゃれ合い、同僚とのサウナ付き合い――そんな感じ。

「他に聞きたいことは?」

 俺にだってわかる。童貞じゃないし。これはエルドからの最終確認だ。

「……――ない。大丈夫」
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