誰もいなくなった町

クラーゲン

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ミウちゃん

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 ふり向くと、小学生ぐらい小さな女の子が店の入り口に立っている。

 人!? 人がいた! 一週間探し回ってやっと……

 しかし、女の子は怯えた目で俺を見ていた。

 とにかく、この子の警戒心を解かないと……

「済まなかった。店に誰にいなかったもので……」
「だ……誰もいないからって……店の物を勝手に持って行ってはいけないのよ」
「そうだったね。悪かった。金は払うよ」

 俺は店に中に戻るとイートインコーナーのテーブルの上に、先ほどリュックに詰めた品物を並べた。

 本来ならレジの上に置くべきだが、そこは薄暗くて値札が読めない。

 日の光が差し込んでいるイートインコーナーが良いだろうと思ってこうしたのだ。

 品物を並べてから、俺は女の子に一万円札を差し出す。

「これで足りるかな?」

 まあ、人のいない世界ではケツ拭く紙にもならないが……

「すみません。お客さんだったのですね。今、お釣りと領収証を……」

 通じるのか? 一万円札が……

「ああ。待ってくれ。どうせなら、もう少し買い物をしたい」
「はい。何をお探しですか?」
「髭剃り」


 そして俺は、一週間ぶりに髭を剃った。

 トイレの中は暗いので、この女の子……ミウちゃんに鏡を持って手伝ってもらいながら、俺は電池式のシェーバーを顔中に滑らせていた。

「さっぱりしたよ。ありがとう」
「いえ。お客さん。髭を剃ったらハンサムですね」

 お世辞のうまい子だな。

 話を聞いてみると、この店はミウちゃんのお爺さんの店らしい。

 そして、一週間前。俺と同じく、朝、目を覚ますと町中の人間がいなくなっていたのだ。

 その日から、この店で人が来るのを待っていたと言うのである。

「これで顔拭いて下さい」

 ミウちゃんはウエットテッシュを差し出した。

「ありがとう。これはいくらかな?」
「これはサービスです」
「悪いね」

 俺はウエットテッシュで顔を拭った。

「あの……お客さん。お聞きしたいのですが……」
「ん?」
「他の人は、どこへ行ったのでしょう?」

 俺は溜息をつく。

「僕が聞きたいぐらいだ」
「そうですよね」
「それじゃあ、僕はこれで……」
「待ってください!」

 店を出ていこうとする俺を、彼女は引き留めた。

「どこへ行くのです?」
「どこって、他の人を探しに……」

 突然、ミウちゃんは泣きそうな顔になった。

 何かマズイ事をしたかな?

「お願い。もう少しいてください」
「いや……その……」
「やっと……人に会えたのに……あたしを一人にしないで下さい」
「ええっと……」
「お願い」

 困った……もうすぐ日が暮れるし……

「ミウちゃん。別に、ここへもう来ないわけじゃないんだ。ここに人がいることが分かったし、これからはちょくちょく来るよ。それにもう夜だし……そうだ! 朝になったらまた来るよ」
「夜の間は、どうするのですか?」
「どうするって……適当な空き家で寝泊まりするつもりだが……」
「それは、ここじゃだめなのですか?」
「ここって……この店で?」
「この店の二階は、あたしの家です。空き部屋はいっぱいあります」

 いや……ちょっと……と思いながらも、俺は彼女の行為に甘えてしまった。



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