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2話 ここはどこ?
しおりを挟むノルくんの話を聞きながら私なりに考えてみたんけど、この状況はあんきもの冒頭に重なる。
アニメでも、ノルくんが全く一緒の説明をしてるシーンがあったんだよ。
だからこそ、ノルくんの話を理解できたっていうのもあると思うけど。
で、今はノルくんとふたりで街を歩いてるんだけど、本当にファンタジー世界みたい。
色とりどりの野菜、魚、肉が並んだ屋台に、武器や防具を売ってる商人まで。
夢にしてはよくできてるなあ……。
「でさ、この前新しくできた店のシュークリームがウマいのなんのって。今度、コヤケさんも一緒に行こうぜ。甘いの好きだったろ?」
「え、う、うん!」
めっちゃ好きです。
しかも、ノルくんと一緒にシュークリームデートですって?
控えめに言って理性が飛ぶ案件である。
甘党に産んでくれたお父さんとお母さんには感謝しかない。
そんなことより、一生懸命しゃべるノルくんかわいすぎんか?
「ねえ。シュークリームを食べに行くのって、その……私たちふたりで、ってこと?」
「大丈夫だって、ちゃんとアイツも誘うよ。甘いモン食べに行くのに、俺たちふたりだけだとあとで拗ねちまうもんな」
「誰が拗ねるんですって?」
突然、よく通る低い声が響く。
この声には聞き覚えがある。
もしかして──
「お、噂をすれば」
カッチリと七三にわけられた深い緑の髪に、フレームの細い黒ぶちのメガネ。
ローブに身を包みながらも、そのスラっとした体格ははっきりと視認できた。
「ウチの頼れる補助魔導士様の話をしてたんだけだよ。それよりも悪いな、グラフィス。買い出し任せっきりにしちまって」
「どうだか。大方私の陰口でも言っていたんでしょうが……まあ、この程度お安い御用ですよ」
落ち着いた口調で返すのは、グラフィス=ブルータル──グラさんだった。
どこからどう見ても本物みたい……。ノルくんにしろ、グラさんにしろメンバーが豪華すぎてなにがなんだか……。
「それよりも、今回のダンジョン攻略はうまくいきそうなんですか?」
「任せてくれよ、今回も最高の作戦を考えたからさ。あとでお前にも伝えるよ」
「あなた、いつも同じことを言ってません? この前、その〝最高の作戦〟とやらのせいでエライ目にあってるんですが?」
「細かいこと気にすんなよ。それに、失敗あってこその成功、だろ? 今回は大丈夫だ」
「期待しない程度に楽しみにしておきますよ」
軽口を叩きあい、ノル君とグラさんがやりとりを交わす。
──どくん。
自然と、胸が脈打つ。
さっきから感じていた違和感は、確かな形になった。
やっぱり。
さっきも思ったけど間違いなくここまでの流れが、全部あんきもの冒頭そのまんまじゃん!
「コヤケさん!? どこに行くんだ!?」
「大丈夫、すぐに戻るから!」
──もしかしなくても私、あんきもの世界に来てるんだ!
思考と同時に、私の体は自然に動き、駆け出していた。
どうしても確かめたいことがあったから。
「──っは、あった……!」
走って帰ってきたのは、さっき私とノルくんで作戦会議をしていた場所。
みんなで過ごすための、少し手狭な木造の家。みんなが寝食をともにする拠点。
ここを出たときはノルくんの衝撃であまり意識してなかったけど、ここもなにひとつ変わってないじゃん。
この世界で、私のポジションはおそらく主人公のヒイロちゃんだ。
でも、どういうわけか名前はゴリゴリに本名で呼ばれている。
で、その中で確かめたいことがひとつ。
「どういうことよ、コレ……?」
洗面台の鏡に映し出されたのは小柄な体に、腰まで伸びるふわふわの赤髪。
紅い宝石みたいに、くりくり綺麗なお目目の美少女だった。
間違いない、私が今動かしている体は、ヒイロ=イノセンスちゃんのじゃん。
ご丁寧に、ヒイロちゃんがいつもローブの中に仕舞ってるクマのぬいぐるみまであるし。
一瞬、リアルでの顔面がそのままだったらどうしようかと思ってたんだよね。
ひとまず、ノルくんとグラさんの横に並ぶにあたって、ビジュアル面は問題なさそう。
「よかったー…………って!」
……ちっともよくないよ!
じゃあ、なんで私は小宅って呼ばれてんのよ!
普通、名前って変わるものじゃないの?
ダメだ、わからないことだらけで頭が追いつかない……。
でもね、わからないながらに気がついたこともある。
今さっき思いついたことだけどさ。
私がこうしてあんきもの世界に来たってことは、ノルくんの死を回避できるんじゃない?
冒頭の内容がそのままってことは、今後もアニメに沿った出来事が起きるはず。
てことは、アニメの内容をある程度把握している私が動けばなにか変えられることもあると思うんだよ。
なにが原因でノルくんがあんなことになったのかわからないけど、なにもしないよりはずっといいはず。
やらない後悔より、なにかやって後悔ってね。
まあ、後悔なんてするつもりはないけど。
やるからには、徹底的にやるよ?
ノルくんに立った死亡フラグは、私が全部へし折ってみせる!
そうと決まれば、やる気出てきたかも……!
こんなよくわからない現状も、思いっきり本名で呼ばれることもこの際どうだっていいわ!
ノルくんのために、やれることはなんだってやってやるんだから!
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