25 / 32
25話 揺るがぬ闘志
しおりを挟むあれからしばらくして。
私たちは、ダンジョンの奥まで進んでいき、開けた場所までやってきた。
本当になにもなくて、音までどこかに行ってしまったみたい。
さっきまで魔物たちと戦って、ずっと気が張り詰めっぱなしだったから違和感がすごい。
「あの人!」
それでも、警戒しながら奥へと足を進める途中。
ノルくんが声と一緒に、空間の真ん中を指さした。
そこで倒れこむのは、例のおじさんだった。
多分、魔法も使えないし武器の心得もないはずだよね……?
ふと、小さな疑問が浮かび上がる。
なんであの人は、ダンジョンに来れたんだろう?
昨日いた場所はまだ浅い層だったから、百歩譲っていいとしても今回はユナイトダンジョン。
こんな奥まで、普通のおじさんが来れるはずないよね。
「た、すけて……くれ……」
「大丈夫です、今すぐ助けますから。グラフィス」
「ええ、わかってます」
多分、そのことはみんな気づいているはず。
それでも、まずはおじさんを助けることが先だよね。
相変わらず、隣にいるバドさんの目は鋭かった。
ここはあくまでもユナイトダンジョン。
まだボスを倒したわけじゃないから、踏破していないってこと。
あのおじさんを助ける、っていう私たちの目的は達成できたけどそう簡単に帰してくれるわけないよね。
ほんの少し、空気がピリついた気がした。
同時に、バドさんは目を見開いた。
「……ッ! ふたりとも、今すぐそこから離れろ!!」
「え……」
バドさんの叫び声と同時。
おじさんの背中から醜悪な赤黒い腕が生えた。
な、なにこれ! どう見てもおじさんの体よりも大きいし、どんな魔物よりも鋭利な爪が生えてた。
ノルくんとグラさんに襲い掛かる。
あんなので攻撃されたら、ひとたまりもないんじゃ……!
「セーフ。なんとかなったな」
「バドさん、すみません……。助かりました」
ずっと後ろにいたはずなのに、バドさんは一瞬で距離を詰めてまた私たちの近くへと戻ってきた。
ノルくんとグラさんのふたりを抱えて。
「気にすんな、お前たちがどこまでもお人よしってことはよーくわかった」
軽口を叩き、バドさんが視線を送る。
背中を突き破られていたおじさんの体はどんどん変形していく。
おじさんの中にもともといたんじゃなくて、変身してたみたいに。
鳥のような、虎のような、馬のような。
不気味に、不自然に姿を変えていき、最終的には人の形におさまった。
大人より少し小さいくらいかな。
足元まで伸びる長い黒髪に、赤黒い肌。両手に握られているのは大人の体ほどの長さがある二本の刀。
顔には日本でよく見る、鬼みたいな仮面がつけられてた。
赤く鋭い眼光が、妖しく私たちへと向けられた。
「にしても、あいつはやべえぞ。俺も現物を見るのは初めてだ」
──ラクシャサ。
バドさんは、確かにそう言った。
オタクになり始めた頃、神話とか伝説の生き物のことを調べてたんだけど、そのときに見たことがある。
当時は、実際こんな魔物や生き物がいたらどんな感じなんだろう? なんて思いを馳せたものだけど。
思い叶ったよ、あの頃の私。今、目の前に伝説の神様がいるよ。
ってそうじゃなくて!
本当の本当に、あのラクシャサなの……?
実際に私が調べた通りだったら、段違いに強いってことになるんだよ。
それこそ、今まで戦ってきた魔物とは比べ物にならないほどに。
一度暴れ出したら、破壊の限りを尽くすんだって。
羅刹、殺戮者なんて呼ばれることもあるみたい。
私が感じている言葉にできない不快感は、サグズ・オブ・エデンのみんなも抱いてるみたい。
言葉も発さず、ただ目の前に悪鬼に視線を奪われていた。
「ビビってんじゃねえぞ、てめえら! 腰抜かしてっと、一瞬で持ってかれんぞ!」
バドさんの一声で、纏っていた空気が変わった。
まさに、決戦に魂を捧げる戦士のソレに。
まず、先手を打ったのはこっち。
小手調べ、と言わんばかりに放った魔法。
勢いの乗った炎の塊。それは、一直線にラクシャサの方へと向かっていった。
でも──
「流石だなァ、ユナイトダンジョン……」
思わず、バドさんが声を漏らす。
口角を上げているけど、冷や汗が頬を伝っていた。
ラクシャサは、魔法をただの一振りでかき消しちゃった。
決して手加減はしてないはずなのに、いとも簡単にやってしまった。
ユナイトダンジョンの奥で眠るモンスター、そのボスだっていうんだから相当な実力があるのは、簡単に想像できる。
纏う覇気に充てられて、実際に手を合わせなくてもバッチリ伝わってくる。
まだ全てが始まったばかり。
だけど、空気は最悪だった。
みんな次の一手が出ない。膠着状態。
でも、相手はなにもしてないのに、こっちは消耗させられるんだからどうしようもない。
動かなきゃ──どうやって。
攻撃しなきゃ──どうやって。
助けなきゃ──どうやって。
頭ではわかっていても、体が動いてくれない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
私たちが迷っている間にも、ラクシャサはふわりと舞い、ゆっくりと迫ってくる。
そんな状況でも──
「燃えてきますね、バドさん」
ノルくんが声をかける。
この絶望的な状況でも、確かに笑っていた。
虚勢なんかじゃない、ノルくんの黒い目は輝いてたから。
揺るぎない闘志が、確かに燃えてた。
そんな彼の姿を見て、バドさんの中でも変化があったみたい。
「ったりめーだ。こんなにヒリヒリするバトルはなかなかねえ。全力で遊ぶぞ」
ノルくんの隣に立って、ニヤリと笑ってみせる。
私だって、正直不安でたまらない。
でも、このふたりなら──みんなとなら、この絶望的な状況もひっくり返せるかもしれない。
最初は真っ暗だったけど、確かに光が見えた。
1
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる