パーフェクトワールド

木原あざみ

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第一部

パーフェクト・ワールド・ハルⅠ ③

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「寮別対抗ミニ運動会に、ミスコンとか。盛りすぎでしょ、イベント。おまけにこれとは別に、部活ごとの展示とかイベントとかもあるんでしょ? これは確実に俺らの休みないね」
「ないだろうな」

 自分と荻原に、みささぎ祭の概要と、基本的な寮の仕事とを説明するためだったらしいミーティングは、小一時間で終了した。
 初日から頭が痛くなりそうなスケジュールを聞かされて、げんなりしたのは皓太だけではなかったらしい。最後に片付けまで任されて、荻原は人好きのする優しげな顔をしな垂れさせて、ホワイトボードに残る文字列にイレーサーをかけている。

「まぁ、でも、ミスコンは茅野さんがするって張り切ってたし。俺らは使い走りだけで済むよ、きっと」

 目玉イベントとされているミスみさざきコンテスト――そもそも、この学園にミスは存在しないはずだが――は、寮別対抗の種目の中で飛びぬけて得点配分が高い。
 つまるところ、ミスコンを制した寮が、みささぎ祭で優勝することになる。

「張り切っても、今年のミスコンは楓寮の圧勝だとは思うけどね。茅野先輩には悪いけど」

 今年こそは何が何でも優勝するぞ、と張り切っていた寮長の姿を思い浮かべたのか、苦笑いの荻原に、皓太は壇上で見た少年を脳裏から引っ張り出した。

「あー……、かな」
「そうだって。ウチはまぁ、榛名ちゃんだろうけどさ。あの子、見た目は可愛いから」
「嫌がるだろうけどな」

 そして間違いなく八つ当たりされる未来が見えた。げんなりと応じた皓太に、どことなく羨ましそうに荻原が口を開いた。

「高藤は部屋一緒だよね。おまけに今年で四年目でしょ? ちょっといいな」
「……いいか?」
「オメガじゃなくても、どうせなら可愛い方がよくない? 狭い部屋で二人きりなんだし。むさくるしくなくて」

 なるほど、そういう解釈もあるか、とそこは納得した。確かにむさくるしくはない。

「俺の同室、今年から美岡になったんだけどさ。一緒に居て楽だしいいやつそうだけど、それとは別問題で、むさいんだよね」
「あぁ、美岡、ラグビー部だもんな」

 顔だけ見ればイケメンだが、体格が如何ともごつい。部屋面積を必要以上に占有しそうな気配はひしひしと感じる。

「一昨日も昨日もあいつ夜中まで筋トレしてたからね? 暑苦しいわって思わず突っ込んだら、筋肉は一日にして成らずとか真顔で返してくるから、なんかもういいわって諦めたけど」

 外部進学組より一足早く皓太たちはこの寮で生活を開始させている。一週間ほどが経って、談話室で「合う」「合わない」などとお互いのルームメイトについて話す姿を見る機会は増え始めていた。

「壊滅的に気が合わないよりはマシって思わないと仕方ないけど、馴染むまで時間かかるよな。俺も榛名と同室になった直後は、結構しんどかったもん」
「嘘。おまえが?」
「マジだって。ほら、あいつ多少は丸くなったけど、昔はもっと……なんというか、気性の荒い野良猫みたいだったし」

 思い当たるところがあったのか、荻原が破顔した。

「そういや、中等部の初めのうちはそんな感じだったね。俺も一年の時クラス一緒だったんだけど、榛名ちゃん、ツンツンしてた記憶がある。構いたくて仕方がない、ってやつも多かったけど」

 まぁ、そのころは……いろいろとあったから、ピリピリしてたということもあるかもしれない。

「大人になったんじゃない。榛名もさすがに。三年経って。ところで、荻原。ここの鍵って預かってる?」
「高藤こそ預かってないの?」

 きょとんと聞き返されて、皓太は茅野の悪癖を今更ながら思い出した。悪い人ではない。多少口は軽いが良い人だ。だがしかし。とてつもなく忘れっぽいのだ。
 中等部の折にも一年間同じ寮生委員会に所属していたが、茅野の忘れ物を会議中に何度取りに走らされたことか。

「茅野さんだと思う。俺、鍵借りて来るわ」

 溜息半分でドアを開けようとした瞬間、勢いよくドアが開いた。危うく額を強打するところである。

「おぉ、高藤。どうした」
「どうしたもこうしたもないですよ。鍵、貰うの忘れてたんで、探しに行こうと思ってたんです」
「それはナイスタイミングだな! 俺もさっき柏木に指摘されて思い出して、持ってきたぞ」

 恨みがましげな視線もなんのその。悪気なく笑った茅野が、「終わったなら出るぞ」と荻原を呼び寄せる。

「お疲れ様です。どうですか? 歓迎会の準備」
「柏木が仕切ってるから安心しろ。だから、このまま部屋戻っていいぞ、おまえら。ちょっと休んどけ。疲れただろ」
「え? いいんですか?」
「来年はやってもらうからな。休めるのは今の内だけだ」

 嬉しそうに弾んでいた荻原の表情が、ですよねと言わんばかりにしおれていく。なんとかなるから大丈夫だぞ、といかにも適当な励ましを荻原に送っている茅野の少し後ろを歩きながら、皓太は五階を見渡した。
 そう思うからかもしれないが、一階や自分たちの部屋のある二階と異なり、どこか格式高く見える。もともと、陵学園全体が開校当時からの歴史ある建築物を今も使用しているため、重厚な雰囲気が流れてはいるのだけれど。

 ……というか、よくこんな入り難そうなところに、あいつは正式な入寮日前からほいほいと入り込んでたな。

 行動力の賜物というか、ストーカー気質の成せる業とすれば良いのか。後者は本人が聞けば憤慨するだろうが。そんなことを考えていると前を行く二人の足が談話室の前で止まった。

「お、成瀬」

 茅野が呼んだ名前に、荻原の背が緊張したように伸びる。

 ――そうか。荻原は中等部の時は寮が違ったもんな。

 成瀬や向原と言った生徒会の役員を、憧れながらもどこかで畏怖している同級生は多い。同じ寮で過ごすうちに緩んでいくのだろうが。
 小型の丸いテーブルが二つに、それを挟むように二人掛けのソファがニ脚ずつ。この国を支える政治家たちも学生時代は多くの論議を交わしていたと聞くが、少なくとも中等部時代の寮で、そんな光景はついぞお目にかからなかった。
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