パーフェクトワールド

木原あざみ

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第一部

パーフェクト・ワールド・ハルⅣ ③

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「案外、うっかりなところあるんだね、榛名ちゃん。可愛いなぁ」
「だから。全く嬉しくねぇから、そういうの。俺に言うな、水城にでも言ってろ」

 ハルちゃんはハルちゃんで、榛名ちゃんは榛名ちゃんだからねぇ、と。全く堪えていない調子で応じて、荻原も新聞を畳む。
 閉じ終えたパンフレットの山が四分の三。この調子なら茅野の言う時間までには終わるだろうから、夜の点呼にも支障はないだろう。

「まぁ、でも良かったね。榛名ちゃん」
「え?」
「その調子じゃ出来なかったんじゃない? こんな写真も、インタビューも」

 あ、結局、また話が戻った、と皓太は思った。ちらりと見遣った先で、榛名は眉間に皺を寄せて押し黙っている。無駄に力が入ったのか、ホッチキスの針がひしゃげてしまっているのが目に付いた。

「そういう意味では、榛名ちゃんは本当に会長に可愛がられてるんだねぇ、ちょっと羨ましいかも」
「べつに」

 不本意そうな擦れた声で榛名が応じた。失敗した針を引き抜いている横顔は、自嘲に揺れているようにも見える。

「俺だから、というよりは、困ってたからだと思う。俺じゃなくても、きっと困ってる子がいたら代わってたって。成瀬さん、優しいから」
「優しい、ねぇ」
「なんだよ?」
「いや、べつに。でも、良かったことには変わりないだろ? もしおまえが受けてたら、少なくともこれから先の一年間はマスコット扱いだっただろうし」

 顔を上げた榛名に首を傾げられて、皓太も内心で首を傾げた。

「知らなかった? 基本的に出るのは一年だろ? つまるところ、可愛い一年生のお披露目会なんだよ。まぁ、それぞれの寮の代表としての顔を売ることで、守る意味合いもあるらしいけどさ」

 ウチの可愛い一年生なのだから、遠目に可愛がるのは良いが、むやみに手を出すなよ、と。ある種の牽制である。
 話の途中から険しくなっていた榛名の顔は、話し終えたときにはなかなかの凶悪なものになっていた。「なんだ、それ」

「あり得ねぇ、いろんな意味で」

 苛立ちを追い出すように榛名が手を机に打ち付ける。発生した音は、ドンでもバンでもなく、ぐしゃだった。本人は気が付いていないが。
 荻原の「あーあ」と言わんばかりの視線を受けて、皓太は呆れて響くだろう声を出した。

「榛名」
「あ?」
「そのパンフ、おまえのにしろよ」

 ようやく気が付いたらしい榛名が慌てて手を退ける。ぐちゃりとよれた紙が一緒に持ち上がると、険のあった顔が気まずそうなものに変わる。マイナスの方面であれば、自分の前でも榛名の表情はだいぶ豊かになった。プラスのそれは、相変わらずだけれど。
 そこまで考えて、皓太は溜息を吐き出した。
 なんだか意趣返しをしてしまった気分だ。じゃあ何が意趣なのかと問われると、言葉に詰まってしまいそうなのだが。開きかけた口の落としどころが見つからなくて、結局、保護者のようなそれを選んで発す。

「その単純なところ、嫌いじゃないけど、なんとかしないと痛い目見るよ、そのうち」
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