パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
31 / 484
第一部

パーフェクト・ワールド・ハルⅥ ④

しおりを挟む
「まぁ、気にするな。四谷のことなら荻原に任せておけ。あいつは人を懐柔するのが上手いからな。寮生委員にぴったりだろう。あいつも俺の推薦だ」

 想定外に慰められてしまって、行人は俯いて表情を覆い隠した。こういう時に、どんな顔をすれば良いのか、いつも分からなくなってしまう。
 必要以上に構うこともなく、茅野は大股で階段を上っていく。

「もちろん、おまえの相方もな。寮生委員に選ばれるヤツはみんな良いヤツなんだ。俺を見たら分かるだろう」
「はぁ」
「つまるところ、モテるのは致し方ない。そのモテる男と同室なんだ。多少の嫉妬は諦めろ」

 茅野に笑い飛ばされて、行人はぎこちない笑みを唇に浮かべた。
 中等部のころから、同室者のことでやっかまれたことは数えきれないほどある。それは、今更であると思うし、気の合わない人間と同室であることのストレスとを秤にかけても、たいしたことではないと判断できる。ただ。

「なんというか、俺にかこつけて、他のヤツまで馬鹿にされることが、気に喰わなかっただけで」
「はは、高藤が聞いたら泣いて喜びそうだな」

 あっけらかんと応じて、茅野が会議室の鍵を開ける。行人たちが手を付けている書類の奥に、小ぶりの段ボール箱が増えていた。茅野の言っていた「仕事」はこれか。

「あの、茅野さん」
「まぁ、座れ。今、準備するから」

 空いているスペースに言われるがまま腰かけると、茅野がノートパソコンを箱から取り出した。設置しているのをなんとはなしに見守っていると、茅野が不意に呟いた。

「気にしたほうが負けだぞ、榛名。噂というものは」
「え……」 
「嘘だろうが本当だろうが、俺はそんなもの知らないという顔で笑っていろ。それが一番良い回避策だ」

 何でもないことのように口にして、茅野が笑う。

「おまえの大好きな会長様にも、目立つからこそ、いろんな噂があるぞ。あいつは全く気にしてはいないが」

 カタカタと茅野がキーボードを操作する音が響く。

「気にしていないと言えば語弊はあるかも知らんが、気にしていないそぶりしか見せん。肯定も否定もしやしないがな、あの頑固者は」

 俺も、そうであるべきなのだろうな、とは思った。けれど、まだ行人にはそれは難しい。
 気にしないでおこうといくら言い聞かせたところで、態度に出ているに違いなくて。

 ――二年後、俺はそんなふうになれているのだろうか。成瀬さんや、茅野さんみたいに。

 おおらかで、優しい。年下の自分を自然と気遣ってくれるような、大人に。

「お。よし、出来たぞ、榛名。待たせたな」

 茅野が画面を回転させた。行人の前にずらりと写真が並ぶ。

「これ、って……」
「あぁ、まぁ、たいしたものじゃない。ミスコンのステージで流す写真を選んでいてな。柏木とやるつもりだったんだが、いつまで経ってもあいつがやる気にならんのだ。そうかと言って、俺一人で選定するのもつまらんからな」

 なんとなく、柏木がやりたがらない理由が行人には分かる気がした。
 行人としても積極的にやりたくはないが、どちらにせよ、本番になれば直接見ることになるのだ。高藤に言わせるならば、いきなり見るより慣らしておけ、となるはずで。

「流すって、この写真をですか」
「あぁ、といっても、べつに写真じゃなくても良いんだがな。葵は確か、一発挽回狙いでショートムービーを作って流すと言っていたぞ。中間発表はまだ先だが、ここだけの話、ウチと楓の一騎打ちになっているからな。柊は最早、乗り気じゃなさそうだが、葵はまだまだやる気だな」
「ショートムービー……」

 どこのアイドルだと思ったのが伝わったのか、茅野が肩を震わせた。

「ちなみに、おまえが水城と出ていたら、音楽をバックに踊って歌っていたからな。五分間ならなんでも有りだからな、あのステージは。目立った者勝ちだ」

 そうだった。そうなのだ。ステージ上で、司会者による質問コーナー、アピールコーナー。そして、そこからの外部来場者の投票、集計。事前に集計されている学部生の投票と合わせて、みささぎ祭のラストに結果が発表されることになるわけだが。

「成瀬さん、どうなんですか」
「どうって、……そうだな。まぁ、おまえが心配することも気に病むこともなにもない。あいつはプライドだけは高いからな。中途半端なことはしないだろう」

 それはそうかもしれない、と分かってはいるのだけれど。けれど、嫌じゃないのだろうかと、やはり案じてしまう。

「だから、安心して笑って見ていたら良い。精々、笑ってやれ。そのほうが、あいつの気も晴れる」

 それで、写真はどうだ、と。茅野が画面を覗き込む。おされるようにして、行人はずらりと並ぶそれをスクロールさせた。
 並ぶ写真はプロが撮ったことを差し置いても、圧巻だ。造り込まれた表情ではあるけれど、「美人」だ、とは思う。けれど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

処理中です...