パーフェクトワールド

木原あざみ

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第一部

パーフェクト・ワールド・ハルⅨ ⑤

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「そうだな。たぶん、そうなんだと思う。だから、もし皓太のそれが俺と同じ方向性のものなら、何も心配しなくていいんだ、本当に」
「祥くんが、なんとでもしてみせるって?」

 口を突いて出たのは、どこか刺々しいものだった。けれど、成瀬は変わらなかった。

「俺がいる間くらいは、そう出来ればいいとは思ってるよ」

 あいつは、なんだかんだと言って理想論者だから。そう言った茅野の声が不意に脳裏に過った。そして、そのとき、知っていると思った自分の声も。
 うん、と頷くこと以外、出来なかった。
 祈りに似ている、と思った。篠原や茅野が言うそれが、現状を打破して見せろという発破だとすれば、成瀬のそれはどこか宙に浮いている。叶うわけがないじゃないかと切り捨ててしまえば簡単なのに、彼がそれを腕のなかで叶えてしまう。

 あぁ、だから、ここは、この人の国で、この人が王なのか。

 大丈夫だよ、と続いた声が無性に優しく響いて、今ここで、今日が終われば良いのにと詮無いことを思った。
 そうすれば、何も変わらない「ここ」が残る。これからも続いていく。けれど、結果が出れば、現状が続くであれ、きっと何かは変わってしまう。
 いつまでも王は絶対無敵ではない。それは歴史が証明していて、その予兆は、今、この国に満ちている。

 そこまで考えて、ひとつ腑に落ちた。
 俺が一番怖かったのは、もしかしたら、これだったのかもしれない。学園が変わろうとしていることも、異分子の出現も、そのどれもが、嫌な感じを増幅させるものではあったけれど、けれど、それだけなら良いとさえ思っていた。
 自分が変わらないなら。榛名が変わらないなら。茅野が、荻原が、向原が、成瀬が変わらないなら。今まで通りで在れるなら。
 けれど、そうでなくなってしまう。その未来と予兆が直結しているから、たまらなかったのだと思い知った。こんな、際になって、やっと。
 なぜか不意に、まっすぐに自分を見つめていた榛名の瞳を思い出した。

 ――言葉にするのなら、簡単だ。ただ、したくないだけで。

 あのとき、確かに胸に過ったのは執着心のような独占欲だった。
 同室者だから? 自分が今まで庇ってきてやったつもりでいるから? そのお株を取られたようで寂しい? 悔しい?
 理路整然と説明しようと思えば出来るかもしれないけれど、認めたくはなかった。

 ――あぁ、でも、そうだな。

 ふ、と思った。それとは少しまた話が違うけれど、でも。
 あいつは、泣くだろうなと思った。もし、この学園が変わったら。この人が絶対の王でなくなったら。
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