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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ ①
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[2]
「今日は休んでもいいんじゃない?」
気遣ってみたところで予想される反応は、怒る、拗ねる、あるいは、沈黙を決め込まれる。そんな、かわいげのかけらもない三択が、今までなら妥当なところだった。
今朝はどうだろうなぁと疑いつつも、できるだけ変わらない調子で皓太は声をかけた。
相手は、寮室に戻ってきたばかりの同室者である。こちらが言った「おはよう」に無言で頷いたきり、なにも言おうとしない相手。
気まずいのはお互い様なのだから正直やめてほしいし、もう少し歩み寄ってほしい。そう願うのは、求め過ぎなのだろうか。いや、でも。
――さっきの「おはよう」にしたって、こっちは気ぃ使ってんのに。
「大丈夫か」と尋ねたかったのを呑み込んで、でも、「おかえり」と言うのもおかしいか、と悩んだ末の「おはよう」だったのだが。榛名は黙々と鞄の中身を入れ直すのみだ。
その鞄にしても、四谷が持ち帰ってきてくれたから今ここにあるのだが、なにも気づいていなさそうだ。
四谷がどれほど気に病んでいたかも、わかっていないにちがいない。しかたがない部分も大きいと、わかってはいる。わかってはいるのだけれど。
「まぁ、べつに、好きにしたらいいけど」
沈黙に耐え切れなくなって、そう言い足す。べつに好きにしたらいいは、いいのだ。自分がすることは決まっているし、それに――。
「今日休んだって、明日は行かなきゃなんねぇだろ」
「それは、……まぁ、そうだけど」
やっと返事があったと思ったら、これかよ。と思ってしまったが、それでもずっと無視されるよりは、マシなはずだ。たぶん。
そう、必死で皓太は言い聞かせた。喧嘩をしたいわけではないのだ。
その健気さを台無しにする態度で、榛名がドンと鞄を机の上に置いた。おまえなぁ、と言ってやるつもりだった文句は、ふわりと舞った甘い香りで立ち消えてしまった。
昨日のような、むせ返りそうな濃い匂いではない。今までと同じ淡い香り。
――でも、もう「香水」じゃ誰も納得してくれないんだろうな。
喉元までせり上がってきた溜息を押し込んで、口を開く。
「あのさ、榛名」
「なんだよ。いつまでもここに引きこもってられねぇんだし。……だったら、今日行ったほうがいいだろ」
そりゃそうだ、としか言いようがなくて、まぁ、そうかもね、と相槌を打つ。
取り付く島もない頑なな横顔は、まだ少し青白いような気がする。荻原によれば、自分も似たり寄ったりな顔色らしいが。
なんだかなぁと自身に呆れながらも、めげずに話しかける。
「あの、榛名は嫌だって言うと思うんだけどさ」
「だから、なんだよ。さっきから」
「今日、俺も一緒に榛名の教室まで行くからね」
「……」
「いや、だって、しかたないでしょ。というか、柏木先輩から聞いたんだよね?」
それで、了承したから、戻ってきたんだよね。不承不承だったかどうかは知らないけど、とまでは言わなかなかったが伝わったらしい。
不満を示すように榛名の唇がむすりと引き結ばれる。本当に、かわいくない。
「あのね、俺も好きで言いたいわけじゃないんだけど」
淡々と言い聞かせる口調を選んで、皓太は続けた。このほうが、多少であっても気が楽だろうと踏んだからだ。
「今までに近い状態を保ちたいなら、つがいがいるっていうふうにするのが一番都合がいい。そういうことで、納得したんでしょ」
つがいのいないオメガほど、危険な存在はない。とはいえ、この年で一生の契約なんてできるはずがないし、していいものだとも思えない。
茅野たちの提案は、そういった制約の上での最適解だったと思うし、榛名だってわかっているはずだ。
「今日は休んでもいいんじゃない?」
気遣ってみたところで予想される反応は、怒る、拗ねる、あるいは、沈黙を決め込まれる。そんな、かわいげのかけらもない三択が、今までなら妥当なところだった。
今朝はどうだろうなぁと疑いつつも、できるだけ変わらない調子で皓太は声をかけた。
相手は、寮室に戻ってきたばかりの同室者である。こちらが言った「おはよう」に無言で頷いたきり、なにも言おうとしない相手。
気まずいのはお互い様なのだから正直やめてほしいし、もう少し歩み寄ってほしい。そう願うのは、求め過ぎなのだろうか。いや、でも。
――さっきの「おはよう」にしたって、こっちは気ぃ使ってんのに。
「大丈夫か」と尋ねたかったのを呑み込んで、でも、「おかえり」と言うのもおかしいか、と悩んだ末の「おはよう」だったのだが。榛名は黙々と鞄の中身を入れ直すのみだ。
その鞄にしても、四谷が持ち帰ってきてくれたから今ここにあるのだが、なにも気づいていなさそうだ。
四谷がどれほど気に病んでいたかも、わかっていないにちがいない。しかたがない部分も大きいと、わかってはいる。わかってはいるのだけれど。
「まぁ、べつに、好きにしたらいいけど」
沈黙に耐え切れなくなって、そう言い足す。べつに好きにしたらいいは、いいのだ。自分がすることは決まっているし、それに――。
「今日休んだって、明日は行かなきゃなんねぇだろ」
「それは、……まぁ、そうだけど」
やっと返事があったと思ったら、これかよ。と思ってしまったが、それでもずっと無視されるよりは、マシなはずだ。たぶん。
そう、必死で皓太は言い聞かせた。喧嘩をしたいわけではないのだ。
その健気さを台無しにする態度で、榛名がドンと鞄を机の上に置いた。おまえなぁ、と言ってやるつもりだった文句は、ふわりと舞った甘い香りで立ち消えてしまった。
昨日のような、むせ返りそうな濃い匂いではない。今までと同じ淡い香り。
――でも、もう「香水」じゃ誰も納得してくれないんだろうな。
喉元までせり上がってきた溜息を押し込んで、口を開く。
「あのさ、榛名」
「なんだよ。いつまでもここに引きこもってられねぇんだし。……だったら、今日行ったほうがいいだろ」
そりゃそうだ、としか言いようがなくて、まぁ、そうかもね、と相槌を打つ。
取り付く島もない頑なな横顔は、まだ少し青白いような気がする。荻原によれば、自分も似たり寄ったりな顔色らしいが。
なんだかなぁと自身に呆れながらも、めげずに話しかける。
「あの、榛名は嫌だって言うと思うんだけどさ」
「だから、なんだよ。さっきから」
「今日、俺も一緒に榛名の教室まで行くからね」
「……」
「いや、だって、しかたないでしょ。というか、柏木先輩から聞いたんだよね?」
それで、了承したから、戻ってきたんだよね。不承不承だったかどうかは知らないけど、とまでは言わなかなかったが伝わったらしい。
不満を示すように榛名の唇がむすりと引き結ばれる。本当に、かわいくない。
「あのね、俺も好きで言いたいわけじゃないんだけど」
淡々と言い聞かせる口調を選んで、皓太は続けた。このほうが、多少であっても気が楽だろうと踏んだからだ。
「今までに近い状態を保ちたいなら、つがいがいるっていうふうにするのが一番都合がいい。そういうことで、納得したんでしょ」
つがいのいないオメガほど、危険な存在はない。とはいえ、この年で一生の契約なんてできるはずがないし、していいものだとも思えない。
茅野たちの提案は、そういった制約の上での最適解だったと思うし、榛名だってわかっているはずだ。
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