パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ ③

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 榛名は「ぜんぜん違う」と言い捨てたが、自分と成瀬の、なにがそんなに大きく違うというのだろう。
 あの人だって、アルファだ。昨日も、性欲なんてありませんみたいな顔をしていたけれど、それでも、アルファだ。皓太と同じで、榛名が嫌いなはずの。
 考えないでいようと思っていたはずなのに、校舎に向かうあいだ、そんなことにばかり思考を巡らせてしまった。

 成瀬と似ていると評されたことは、小さいころから数え切れないほどある。教師から。あまり親しくはない級友や先輩から。何度も言われた。本当の兄弟みたいだとか、なんだとか、そういったふうに。
 けれど、榛名に言われたことはないし、向原や篠原、茅野といった成瀬に近しい先輩に言われた記憶は、ほとんどない。雰囲気やまとう空気が似ていると言われたことはあったかもしれないけれど、それだけだ。
 つまり、中身は――、榛名が憧れているだろう一番の部分は、似ても似つかないのかもしれなかった。

 べつに、成瀬のようになりたかったわけでは、ないつもりなのだけれど。


「あれ、今日はふたりで来たんだ」

 榛名のクラスに入ると、わざとらしいほどの明るい声で四谷が話しかけてきた。その声に端を発したように、教室内にひそひそとしたざわめきが走る。
 突き刺さる視線も痛いくらいだったが、寮を出てからずっとそうだったのだ。半ばあきらめの境地で、皓太はほほえんだ。
 背後にいるもうひとりは、どうにかならないのかと思ったときとさして変わらない仏頂面のままだったが。

「昨日はごめんな。榛名の鞄持って帰ってきてくれて助かった」
「そんな、ぜんぜん。こっちこそごめんね。その、……」
「むしろ呼びに来てくれてありがたかったくらい。おかげで、なにもなかった」

 そうだよな、と背後を振り返る。なにかを誤魔化したいときに幼馴染みがよく浮かべるような、優しい笑顔で。

「あ……っと、もしかして」

 自分たちを見比べていた四谷が、ぎこちなくほほえむ。

「とうとう付き合うことにした、とか。そういうことだった?」
「うん、実は」

 そのぎこちない顔をしっかりと見つめ返したまま、宣言する。こちらを遠巻きにしていた周囲のクラスメイトたちにも、はっきりと聞こえるように。
 四谷の気持ちを知らなかったわけではないし、榛名の横顔がこわばっていた理由が、緊張のためだけではないとわかっていたけれど。

「そういうわけだから、よろしくね。俺のつがいなんだ」

 この関係が「偽物」だと知っているのは、自分たちをのぞけば茅野と柏木だけだ。櫻寮の寮生委員のトップ。
 それ以上は広げないと茅野は言っていたが、きっと成瀬は知っているのだろうと思う。

「そっか。うん、わかった。そうだよね」

 自分に言い聞かせるように呟いてから、「まかせて」と四谷が頷く。

「まぁ、まかせてっていうのもおかしいかもしれないけど、その、……友達だし」
「うん、ありがと」

 罪悪感を隠して、そう告げる。まだ見られているとわかっていたから、皓太はいかにも優しげに、榛名の背を押した。

「ほら、いつまでも照れて隠れてないで、入ったら?」
「……いや、……うん」
「ごめんね、あいかわらずだけど。仲良くしてやって。――じゃあな、榛名」

 もうちょっとでいいから協力しろよと半ば呆れていた固い顔が、今度は複雑そうなそれに変わる。
 こっちだって好きでこんな態度を取ってるわけではないし、ただ単純に合理性の問題のつもりだ。

 ――それなのに、そこまで嫌そうな顔しなくてもいいだろ。

 おまえがそんなふうだから、「照れちゃって」みたいなふうに持っていかざるを得なかったのではないか。
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