パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ ④

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 自分が出て行った途端に騒がしさを増した教室に、ちらりと視線を向ける。そうしから、吐きそうになった溜息を皓太はどうにか呑み込んだ。どこで誰に見られているかわからないのだから、せめて自分くらい幸せそうな顔をしているほかない。
 そう思うと、なんだか少しむなしいけれど。
 まぁ、でも、あのクラスはアルファがいないだけ、マシだな。最後に良いところ探しをして、思考を終結させる。アルファの巣窟と揶揄される自分の教室よりは、ずっと気楽だろうと思えたからだ。

 自分のクラスのアルファは、中等部のころから目立っていた人間がほとんどだ。それなのに、つい数ヶ月前まで「俺はアルファだ」という態度を隠さなかった連中が、たったひとりのオメガにこびへつらっている。
 正直に言えばみっともないと思っていたし、関わり合いになりたくないとも思っていた。だから、なにもする気はなかったのだ。
 篠原に、水城の対抗馬になれと暗に言われたときも、「成瀬のようにはなれない」と断った。学園のために、なんて大きなことはとてもではないが考えられなかったし、自分の身に余ると思ったからだ。――でも。

 学園全体のため、なんてことは、俺には言えないけど。榛名のため、くらいのことなら、できるだろ。

 それも昨日決めたことのひとつだった。そうして、今になってもうひとつだけ思ったことがある。
 成瀬のようにはなれないと応じたとき、皓太は成瀬は学園全体のことを考えていると思っていた。もちろん、そうでもあるとは思う。でも、始まりはもっと単純なものだったのかもしれない。
 たとえば、案外と今の自分と同じような。

 ――あの人、ああ見えて人の好き嫌い激しいからなぁ。

 そう。平和主義者であることも否定はしないけれど、彼は同時に利己主義者だ。
 榛名は絶対にそんなことはないと言って譲らないだろうけれど。


 教室のドアを引くと、すぐさま荻原がおはようと声をかけてきた。そうしてから、打ち合わせていたとおりの台詞が続く。

「榛名ちゃん、どうだった? 教室まで送ってきてあげたんでしょ」
「昨日の今日だからね。でも大丈夫。四谷もいるし、ちゃんと言ってきたから」
「ちゃんとって、つがいになったってこと? そんな牽制しなくても、榛名ちゃんのクラスにアルファなんていないのに。案外、独占欲強かったんだね」

 祝福ついでにからかうような調子に触発されたのか、クラスメイトが声をかけてきた。水城の取り巻きのひとりだ。

「なんだよ、おまえ。あれだけオメガにもハルちゃんにも興味ないって言ってたくせに、自分は手ぇ出してんじゃん」
「嘘じゃないよ、べつにオメガや水城に興味はなかったからね」

 その声の主に向かって、苦笑気味に応じる。そうだ。なにも、嘘じゃない。

「榛名だから、選んだだけ。なにか、おかしい?」

 自分たちがどういう関係になったのかをきちんと広めなければ、今日の朝の鬱々としたやりとりもなにもかもが無駄になってしまう。
 だから、皓太は、アルファらしい顔でほほえんでみせた。

「へぇ」

 対抗するように、そのクラスメイトも笑った。

「まぁ、おまえら中等部のころからずっとつるんでるもんな。俺は、ハルちゃんのほうがずっといいけど」
「恥ずかしいよ、みんなの前で」

 言葉のとおりに、水城がそっと目を伏せる。白い頬に浮かんだ恥じらいに、取り巻いていたクラスメイトたちが「かわいい」とはやし立てる。
 こういう素直さも、謙虚さも、榛名にはないものな、と。
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感想 1

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