パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅦ ④

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「ずっと、こうだったらいいのに」

 叶うわけがないことで、かつ、必要以上に深刻に受け取られないと理解しているから、ひとりごちてみただけ、といったふうの呟きに、律義に反応を示したのは、中等部に通っていたころの篠原だった。

「こうって、なにがだよ。夏休みが、か?」
「んー、まぁ、そうかな」

 曖昧にほほえんで、成瀬が頷く。窓から入り込む夏の日差しが、髪の毛をきらめかせていた。

「学校が嫌なわけじゃないんだけど、視線がさ。なんていうか、疲れる瞬間もあるし」

 あと数日で学園の寮に戻らなければならないころだったから、おかしな発言ではなかった。
 そもそもで言えば、警戒心の塊のようだった男が、長期休暇のあいだまで自分たちアルファと過ごすことを良しとしたことに、最初の夏は驚いたものだった。
 いくら実家の居心地が悪かろうが、そこにいれば秘密が露見することはないだろうに、と。
 あるいは、これも「自分は大丈夫」だというあの男の自信だったのかもしれないが。

「そういう感覚あったんだな、おまえにも」
「あるに決まってるだろ」

 半ば本気で驚いている篠原に、そう応じて成瀬は苦笑した。

「気にしても意味ないから、気にしてないだけで。四六時中監視されてるみたいなもんだろ。さすがに疲れる。そんなに見ても、べつにおもしろくないと思うんだけどな」
「まぁ、目の保養になってるんだと思って諦めるしかないな。お気の毒」
「……いいよな、おまえには無用の心配だから」
「どういう意味だよ、それ」
 
 おまえらが規格外なだけで、俺もふつうにモテてるんだよ、と篠原が不服そうに言い募っている。

「っつか、べつに学内でモテたくもねぇけど。面倒になるだけだから」
「俺だってそうだよ。いっそのこと、もっとはっきり恋愛禁止とか掲げてくれないかな」
「いや、無理だろ」
「まぁ、なぁ。抑え込み過ぎると、反発で暴走するからなぁ。うまくやらないと」
「え、おまえマジで会長選出るの?」

 問いかけに、成瀬がまた曖昧に首を傾げた。

「どうかな。でも、まだ先の話だし」

 生徒会選挙は初冬に行われることになっている。三年生の現会長が卒業するまでの間に引き継ぐのだ。成瀬は今も頼まれて生徒会の仕事を手伝っている。次の会長に選ばれるのはこの男なのだろう、と誰もが認識している空気が、学内にはすでに流れていた。

「先の話って言っても、十月くらいから準備始まるだろ。学校始まったら、忙しくなるんじゃねぇの? なんか、茅野がぶつぶつ言ってた気がするんだけど」
「あぁ」

 思い当たったらしく、成瀬が小さく笑った。一緒に長い時間を過ごすようになってから、たまに見せるようになった幼さのにじんだそれで。

「茅野、寮長の引継ぎが決定してから、めちゃくちゃひとり言増えてるらしいよ。あの柏木が、今からこの調子で大丈夫かって心配してたくらい」
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