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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドΦ ⑦
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*
「って、言ってたけど。成瀬」
生徒会室にふたりになったタイミングで聞かされた話に、「へぇ」と向原は気のない相槌を打った。
頭に浮かんでいたのは、先ほど出て行った男の顔だ。最近はあまり見なくなっていたはずの、余所行きの笑顔。あの夜以降、ずっとその顔をしている。
「馬鹿だな」
「いや、まぁ、……よくわかねんぇし、なんとも言えないけど。でも、なんからしくないこと言ってたから、一応おまえにも教えておいてやろうと思ったの」
「らしくない?」
繰り返すと、「だって、そうだろ」と篠原が苦笑まじりに言葉を継いだ。
「なんつうか、そういう自信なさげなこと言うの」
へぇ、と先ほどと同じ相槌を打って、目を向ける。言い方は軽いが、心配しているのは事実らしい。
――まぁ、たしかに、ぼろを出しかけたってのは、らしくはないな。
それとも、多少なりとも罪悪感を抱いているのだろうか。思い出すと、また苛々としそうで、おざなりに話を終わらせにかかる。
「そういう気分だっただけだろ」
「おまえがそれでいいなら、まぁ、いいんだけどさ。なんか、もしかして喧嘩してる? あいつと話してたときも、ちょっと思ったんだけど」
「べつに」
うかがうようなそれを、向原は一言で切り捨てた。実際に、そうだ。喧嘩をしているわけではない。
手元に視線を戻して、本のページを繰る。
「なら、いいけど。成瀬が、やたらおまえと本尾のこと気にしてたから。おまえに聞けばいいだろって言ったのに、そこは無視だし」
「へぇ」
「おまえが、あいつら退学に追い込んだの、気にしてんのかな、とも思ったんだけど」
その言葉に、視線を上げる。篠原は、先日の茅野と似たような表情をしていた。
自分の行為を正当だとは思っていないのだろう。思われたいわけでもないから、べつにそれはかまわないのだが。
「喧嘩の原因……、本尾とのじゃなくてな、成瀬との喧嘩、それが原因じゃないだろうな?」
「してないって言っただろ」
「俺もそう思いたいけど」
似非くさいんだよ、と嫌そうに吐き捨ててから、篠原は切り出した。
「成瀬のためだろ。退学に追い込んだの」
断言されて、失笑する。
「なんでだよ」
「なんでもなにも、そうとしか思えねぇから、そう言ってるんだよ。あいつら、前から成瀬にけっこうしつこく絡んでただろ」
「あいつは気にしてなかったと思うけどな」
「成瀬はな」
おまえは違うだろうと言わんばかりのそれに、向原はもう一度笑った。タイミングがよかったというだけのことだ。
答えずにいると、篠原が諦めた顔になった。
「まぁ、いいけど。おまえと本尾が仲悪いのなんて、本当に昔からだし。揉めた原因もあってないようなもんだし」
そうだな、と気のない相槌を繰り返して、ページを繰る。そのとおりだったからだ。あいつのように、しつこく「仲良くすればいいのに」と言ってくるほうだがおかしい。
自分も大概他人に対して一線を引いているくせに、なにを求めているのだが。
「そういえば、あの一年、気持ちはわかるけど、めちゃくちゃ成瀬に懐いてるらしいな」
すごい根性だよな、と笑う篠原はどこか楽しそうだった。
あこがれを持って遠巻きに眺める後輩はいても、あそこまで積極的に飛び込んでくる後輩はいなかった。そのことを純粋によかったと思っているふうでもあった。
「おまえもいるのに、部屋に入り浸ってんだろ。ふつうの一年なら、まずできないって」
「ふつうに迷惑だけどな」
「そう言ってやるなって」
嘘偽りのない本音だったのだが、たしなめられてしまった。
「皓太と同室なんだろ。べつにあれがなくても、いつかは懐いてただろうし。成瀬、年下かまうの好きだし」
それに、話聞く分には、そんな悪いやつじゃなさそうだし、と取り成すように、篠原が言う。
べつに、悪いやつだろうが、良いやつだろうが、そんなことはどうでもいいのだ。問題なのは、オメガだからだ。
――オメガが近くにいることで、おまえの調子が崩れる可能性もあるんじゃないのか。
伝えた懸念を、成瀬は大丈夫だと一笑していた。けれど、向原にはそうとはとても思えなかった。あのときも、今も。
そう思う焦燥のようなものを、成瀬は絶対に理解しない。妙なところで自分は大丈夫だと過信している、あの男は。
そうでもなければ、複数のアルファがオメガを襲おうとしている現場に、ひとりで踏み込むはずがない。
「って、言ってたけど。成瀬」
生徒会室にふたりになったタイミングで聞かされた話に、「へぇ」と向原は気のない相槌を打った。
頭に浮かんでいたのは、先ほど出て行った男の顔だ。最近はあまり見なくなっていたはずの、余所行きの笑顔。あの夜以降、ずっとその顔をしている。
「馬鹿だな」
「いや、まぁ、……よくわかねんぇし、なんとも言えないけど。でも、なんからしくないこと言ってたから、一応おまえにも教えておいてやろうと思ったの」
「らしくない?」
繰り返すと、「だって、そうだろ」と篠原が苦笑まじりに言葉を継いだ。
「なんつうか、そういう自信なさげなこと言うの」
へぇ、と先ほどと同じ相槌を打って、目を向ける。言い方は軽いが、心配しているのは事実らしい。
――まぁ、たしかに、ぼろを出しかけたってのは、らしくはないな。
それとも、多少なりとも罪悪感を抱いているのだろうか。思い出すと、また苛々としそうで、おざなりに話を終わらせにかかる。
「そういう気分だっただけだろ」
「おまえがそれでいいなら、まぁ、いいんだけどさ。なんか、もしかして喧嘩してる? あいつと話してたときも、ちょっと思ったんだけど」
「べつに」
うかがうようなそれを、向原は一言で切り捨てた。実際に、そうだ。喧嘩をしているわけではない。
手元に視線を戻して、本のページを繰る。
「なら、いいけど。成瀬が、やたらおまえと本尾のこと気にしてたから。おまえに聞けばいいだろって言ったのに、そこは無視だし」
「へぇ」
「おまえが、あいつら退学に追い込んだの、気にしてんのかな、とも思ったんだけど」
その言葉に、視線を上げる。篠原は、先日の茅野と似たような表情をしていた。
自分の行為を正当だとは思っていないのだろう。思われたいわけでもないから、べつにそれはかまわないのだが。
「喧嘩の原因……、本尾とのじゃなくてな、成瀬との喧嘩、それが原因じゃないだろうな?」
「してないって言っただろ」
「俺もそう思いたいけど」
似非くさいんだよ、と嫌そうに吐き捨ててから、篠原は切り出した。
「成瀬のためだろ。退学に追い込んだの」
断言されて、失笑する。
「なんでだよ」
「なんでもなにも、そうとしか思えねぇから、そう言ってるんだよ。あいつら、前から成瀬にけっこうしつこく絡んでただろ」
「あいつは気にしてなかったと思うけどな」
「成瀬はな」
おまえは違うだろうと言わんばかりのそれに、向原はもう一度笑った。タイミングがよかったというだけのことだ。
答えずにいると、篠原が諦めた顔になった。
「まぁ、いいけど。おまえと本尾が仲悪いのなんて、本当に昔からだし。揉めた原因もあってないようなもんだし」
そうだな、と気のない相槌を繰り返して、ページを繰る。そのとおりだったからだ。あいつのように、しつこく「仲良くすればいいのに」と言ってくるほうだがおかしい。
自分も大概他人に対して一線を引いているくせに、なにを求めているのだが。
「そういえば、あの一年、気持ちはわかるけど、めちゃくちゃ成瀬に懐いてるらしいな」
すごい根性だよな、と笑う篠原はどこか楽しそうだった。
あこがれを持って遠巻きに眺める後輩はいても、あそこまで積極的に飛び込んでくる後輩はいなかった。そのことを純粋によかったと思っているふうでもあった。
「おまえもいるのに、部屋に入り浸ってんだろ。ふつうの一年なら、まずできないって」
「ふつうに迷惑だけどな」
「そう言ってやるなって」
嘘偽りのない本音だったのだが、たしなめられてしまった。
「皓太と同室なんだろ。べつにあれがなくても、いつかは懐いてただろうし。成瀬、年下かまうの好きだし」
それに、話聞く分には、そんな悪いやつじゃなさそうだし、と取り成すように、篠原が言う。
べつに、悪いやつだろうが、良いやつだろうが、そんなことはどうでもいいのだ。問題なのは、オメガだからだ。
――オメガが近くにいることで、おまえの調子が崩れる可能性もあるんじゃないのか。
伝えた懸念を、成瀬は大丈夫だと一笑していた。けれど、向原にはそうとはとても思えなかった。あのときも、今も。
そう思う焦燥のようなものを、成瀬は絶対に理解しない。妙なところで自分は大丈夫だと過信している、あの男は。
そうでもなければ、複数のアルファがオメガを襲おうとしている現場に、ひとりで踏み込むはずがない。
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