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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド13 ③
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――つがいをつくればいいんだ。
無反応を決め込んでも、諭す調子は変わらなかった。
――それが自然な姿だよ。つがいがいれば、必要以上に発情期に振り回されることもなくなる。きみを大切にしてくれるつがいに面倒を見てもらえばいい。不特定多数のアルファに怯える必要はなくなるんだ。
いいことだろうと言わんばかりの態度を、そんなこと、と成瀬は笑った。
そんなことは、なにひとつ求めていない。そもそもとして怯えてなんていないし、アルファに負けるつもりもない。
このときの自分は、本心でそう思っていた。まだ知らなかったのだ。紛い物の自分よりもずっと優れた、本物のアルファの存在を。
――そうだね。今はまだ理解できなくてもいいよ。そういう選択があるのだということを、知ってさえいてくれたら。
主治医としてきみに伝えたいことのひとつだよ、とほほえんでから、とどめのように彼は言った。
――きみがそのままアルファでいたいのなら、恋をしてはいけないよ。
今のきみは、そんな感情を自分が持つなんて想像もしていないかもしれない。でも、だからこそ、これも知っておいてほしいんだ。
馬鹿らしい話だとは思ったが、その声が真摯だったから、笑い飛ばすことはやめた。その代わりに、いかにもらしい顔で頷いてみせる。
この話を黙って聞きさえすれば、陵学園への入学許可が下りるのだ。そう思えば、我慢することもできた。
――特別な感情を持つことができる相手に出会えることは、素晴らしいことだと僕は思うよ。けれどね、理性を上回るほど強い感情は、時として凶器にもなると思う。
まぁ、それはそうだろうな、とは思った。自分がそんな感情を持つようなことはないとも思っていたけれど。
表面上はどうとでも取り繕える。だから、誰も自分がそんなふうに思っているとは知らなかったはずだ。けれど、成瀬はアルファが嫌いだった。憎んでいると言ってもいいくらいに。
――そしてね、その感情は、人を強くもするし、弱くもする。
くだらなさに辟易としながらも、真面目な顔で頷いてみせた。アルファの見本のようだと評される、優等生然としたそれで。
アルファも嫌いだが、そのアルファに縋らないと生きていけない弱いオメガも、成瀬は嫌いだった。そのオメガの甘えを許すためだけに存在しているような、「つがい」というシステムも。
この世界を構築する第二の性のヒエラルキーも、大嫌いだった。
――少し前の話に戻るようだけど。つまるところ、そういった強い感情は、自分を律することを難しくさせるんだ。感情のコントロールがうまくできなくなってしまう。
誰かを好きだと思う心も、だから触れたいと願うことも、どちらも自然なものなのだけどね、と彼が言う。
――でも、だから、フェロモンバランスも大きく引きずられてしまう。
でしょうね、と相槌を打った自分の声には、なんの感情も乗っていなかった。馬鹿だな、としか思えなかったからだ。
恋だの、愛だの、そんな一時の感情に振り回されるなんて、くだらない。そう思っていた。
――オメガだと露見する確率が跳ね上がるわけだね。
じゃあ、気をつけないといけないですね。優等生らしい返事に、彼はまた困ったふうにほほえんだ。その顔から吐き出されるだろう台詞を、早く終われと念じながら成瀬は待っていた。
聞きたくなんて、なかったけれど。
――逆に、もし、きみが……。
無反応を決め込んでも、諭す調子は変わらなかった。
――それが自然な姿だよ。つがいがいれば、必要以上に発情期に振り回されることもなくなる。きみを大切にしてくれるつがいに面倒を見てもらえばいい。不特定多数のアルファに怯える必要はなくなるんだ。
いいことだろうと言わんばかりの態度を、そんなこと、と成瀬は笑った。
そんなことは、なにひとつ求めていない。そもそもとして怯えてなんていないし、アルファに負けるつもりもない。
このときの自分は、本心でそう思っていた。まだ知らなかったのだ。紛い物の自分よりもずっと優れた、本物のアルファの存在を。
――そうだね。今はまだ理解できなくてもいいよ。そういう選択があるのだということを、知ってさえいてくれたら。
主治医としてきみに伝えたいことのひとつだよ、とほほえんでから、とどめのように彼は言った。
――きみがそのままアルファでいたいのなら、恋をしてはいけないよ。
今のきみは、そんな感情を自分が持つなんて想像もしていないかもしれない。でも、だからこそ、これも知っておいてほしいんだ。
馬鹿らしい話だとは思ったが、その声が真摯だったから、笑い飛ばすことはやめた。その代わりに、いかにもらしい顔で頷いてみせる。
この話を黙って聞きさえすれば、陵学園への入学許可が下りるのだ。そう思えば、我慢することもできた。
――特別な感情を持つことができる相手に出会えることは、素晴らしいことだと僕は思うよ。けれどね、理性を上回るほど強い感情は、時として凶器にもなると思う。
まぁ、それはそうだろうな、とは思った。自分がそんな感情を持つようなことはないとも思っていたけれど。
表面上はどうとでも取り繕える。だから、誰も自分がそんなふうに思っているとは知らなかったはずだ。けれど、成瀬はアルファが嫌いだった。憎んでいると言ってもいいくらいに。
――そしてね、その感情は、人を強くもするし、弱くもする。
くだらなさに辟易としながらも、真面目な顔で頷いてみせた。アルファの見本のようだと評される、優等生然としたそれで。
アルファも嫌いだが、そのアルファに縋らないと生きていけない弱いオメガも、成瀬は嫌いだった。そのオメガの甘えを許すためだけに存在しているような、「つがい」というシステムも。
この世界を構築する第二の性のヒエラルキーも、大嫌いだった。
――少し前の話に戻るようだけど。つまるところ、そういった強い感情は、自分を律することを難しくさせるんだ。感情のコントロールがうまくできなくなってしまう。
誰かを好きだと思う心も、だから触れたいと願うことも、どちらも自然なものなのだけどね、と彼が言う。
――でも、だから、フェロモンバランスも大きく引きずられてしまう。
でしょうね、と相槌を打った自分の声には、なんの感情も乗っていなかった。馬鹿だな、としか思えなかったからだ。
恋だの、愛だの、そんな一時の感情に振り回されるなんて、くだらない。そう思っていた。
――オメガだと露見する確率が跳ね上がるわけだね。
じゃあ、気をつけないといけないですね。優等生らしい返事に、彼はまた困ったふうにほほえんだ。その顔から吐き出されるだろう台詞を、早く終われと念じながら成瀬は待っていた。
聞きたくなんて、なかったけれど。
――逆に、もし、きみが……。
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