パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンド14 ③

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「車なら、表に待たせてるわ」
「じゃあ、そこまでお送りしますよ。このままあいつを待っていると、遅くなりますから」
「あら、優しいのね」

 まんざらでもない様子でほほえんで、立ち上がる。ごく自然とエスコートして歩き出した向原が頷いた。いかにも優しげな調子で。

「あなたは祥平の母親ですから」

 寮の扉が閉まったところで、茅野の手が肩から離れた。あの、と問いかけようとしたタイミングで、遠巻きにしていた寮生に茅野が声をかけた。

「ほら。いつまでもたむろしてないで部屋に戻った、戻った。――それから、時期が時期なんだ。頼むから、うちを妙な噂の発生源にしてくれるなよ」

 軽い口調の下ににじむ威圧感に、みんなそそくさと階段を上っていく。一年生がほとんどだったことが幸いしたのかもしれない。ふたりになったのを確認して、もう一度皓太は問いかけた。

「あの、外出って」
「知らん」

 一蹴してから、取ってつけたように茅野が言い足す。

「届出に記入されている以上のことは、寮長だからと言って知る権利はないからな」
「それは、まぁ……そうでしょうけど」
「まぁ、外泊にするかと言ったら、外出でいいと言ったんだ。それまでには戻ってくるだろう」

 そう言って、閉まったばかりのドアに目を向ける。どこかうんざりとした表情で、ぼそりと呟く。

「向原たちとバッティングしないといいんだがな」

 時間が時間だ。ありえない話じゃない。そうならないといいけど、と心の底から願いながら、皓太は同意を示した。


「あ、下、どうだった?」

 部屋のドアを開けるなり、そう問いかけられて、皓太は用意していた答えを口にした。

「ぜんぜん。大丈夫だった。ちょっと揉めてたみたいだけど、すぐに茅野さんが来てくれたから」

 それでおさまったよ、と続ければ、榛名は安心した顔で頷いた。成瀬にはもちろんだが、茅野にも懐いているのだ。その茅野が出てきておさめたと言えば納得するだろうと踏んでいたが、そのとおりだった。
 自分に対する信用度の差と比べてカチンとくるものがないわけでないのだが、気にしないように努めて椅子を引く。結局、読書どころではなくなってしまった。

「あのさ、話変わるんだけど、知ってる?」
「知ってるって、なにが」

 話を変えるという前置きはあったが、それにしても脈絡がなさすぎる。問い返すと、榛名は少しだけ迷うようなそぶりを見せた。
 自分で聞いておいて、なにをいまさら、と少し呆れながらも、先を促す。

「なに? 言いにくい話なの?」
「言いにくい話っていうか、その……あれ。秘密の薔薇結社ってやつ」
「あぁ」

 なんだ、と苦笑がもれる。噂話に疎い榛名の口から聞くとは思わなかったが、一年生のあいだで頻繁に話題に上がっている名称だ。

「なかなかすごい名前だよね、それ。大正感があるっていうか」
「いや、そこをディスりたいわけじゃないんだけど。っつか、水城だよな? それつくったの」
「まぁ、そうだけど」

 それもいまさらな話で、知っている人間のほうが多いだろう話だ。誤魔化す必要性も感じなかったから、正直に首肯する。

「でも、榛名はどこで聞いたの、それ。おまえ、そういう噂話できるだけ聞かないようにしてるだろ」

 昔から、そうなのだ。噂話はろくでもないと判じているからなのか、頑ななまでに榛名は加わろうとしないし、耳に入れようともしない。そういったとりとめもないことを話す友人がいなかったから、という理由もあったかもしれないが、とにかくそうだった。
 尋ねると、榛名がぶすっとした顔になる。

「普通に耳に入ってきた」
「普通に、か。そうか。まぁ、けっこう話題になってるもんな」
「でも、その、……あんまりはっきりとは知らないんだけど」

 つまり、詳しい話を俺から聞きたいということか。不本意そうな表情のまま手慰みにペンを触っている様子を一瞥してから、「そうだな」と呟く。
 べつに、これも隠す必要はない話だ。自分から積極的に話そうとは思っていなかった、というだけで。

「ちゃんと生徒会の申請を通った同好会だよ。だから、そういう意味ではあやしい組織じゃない。名称はちょっとあれだけどね」

 公式的にはそうなっているし、生徒会の見解としても、そうだ。少なくとも、表面上は。
 事実としてのことを、皓太はなんでもない顔で説明してみせた。

「それで、急な立ち上げだったから部室が用意できなかったとかで、風紀委員会室を間借りしてるって話」
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