パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンド14 ⑤

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「俺がこんなこと言うのも、変かもしれないけど。心配っていうか……、なんか、あいつ思わないのかな。自分が逆に食われたらどうしよう、とか」
「ないんじゃないかな」

 本当に、妙なところでお人好しだ。あるいは、榛名にとってアルファは怖いものだから、そういった危惧を持つのかもしれない。
 けれど、水城はそうではないと皓太は思う。第二の性が同じだとしても、このふたりは考え方も向いている方向も、なにもかもが違う。

「水城は榛名と違って、そんな心配してないと思う。たぶんだけどね」
「え?」
「どうしよう、じゃなくて、食わせてやってる、くらいにしか思ってないんだよ」

 水城と同じ楓寮に所属している寮生から漏れ聞く話は、例外なくそうなっている。権力を持つアルファにだけ、水城は自分を与えている、と。そうして、自分の権利を増やしている、と。

「餌に釣られたアルファを、好きなように操ろうとしてるんじゃないかな」

 すごい自信だよな、とも思う。本当にうまくいくのか、とも思っていたけれど、現状を鑑みれば一定の成功を収めているのだ。
 アルファなんて、フェロモンひとつで操れるのだという思想を、馬鹿馬鹿しいとはもう誰も言えないだろう。
 少なくとも、水城に手を伸ばしたアルファは。

「アルファを?」
「うん。まぁ、想像だけどね」

 天使のほほえみと評される笑みを浮かべて、アルファを取り込み、そのアルファを使って、学園に波紋を広げる。傍から見ていると、オメガによる復讐なのかもしれないと感じる瞬間があった。
 下剋上と評してもいいのかもしれないが、水城がごくまれに見せるすべてを見下しているような雰囲気は、復讐というほうがしっくりとくるように思う。
 おそらく水城は、ここの生徒の大半を嫌っているのだ。

「なんか、それ……すげぇむなしくね?」

 結局、やってること同じじゃん、と榛名は言った。アルファに勝てないって思うのは癪だし、アルファが上位の世界だっていうこともわかる。それが不条理だと思うこともわかるけど、でも、それは、と。
 困惑を隠せていない、というよりは、理解できないというふうだった。理解できなくてもいいと思ったから、それ以上説くことはしなかった。
 どちらの考えが健全かと問われたら、少なくとも皓太は榛名のほうだと答える。理解できないままで過ごせるなら、そのほうがずっといい。

「おまえは違うよな?」
「え?」

 妙に真剣な顔で尋ねられて、目を瞬かせる。

「違うって、なにが」
「だから、おまえは違うよな。おまえは、乗せられたりしないよな」

 おまえ、今の俺の話聞いてたのかよ。うんざりとしたものの、最終的には安心させてやりたいという感情が勝った。いつもの顔で苦笑する。

「あいにく。俺は生徒会の人間だし、そもそもとして誘われてもないよ」
「そっか」

 ほっとしたふうに榛名の声から険が抜けた。

「そうだよな」
「そう、そう。教室でもそんなに喋らないしね」

 ときたま話しかけられることはあるが、その程度だ。
 おそらく来年も、再来年も自分たちは同じクラスだ。付き合いが長くなる可能性のあるアルファとは親しくしておいたほうがいいと考えて、そうしているだけだろうと皓太は踏んでいる。
 水城が欲しているアルファは、自分ではない。

 ――知ってるのかな、そっちのほうは。

 勉強の続きに着手し始めた横顔を一瞥してから、皓太も時間つぶしに途中だった本を開いた。
 耳にしていたらそちらの真意も尋ねてきていただろうから、知らなかったのかもしれない。
 知らないのなら知らないほうがいいと思うから、言うつもりもない。ただ――。
 そこまで考えたところで、そっと溜息を吐く。
 生徒会の人間だから、自分は表立った勧誘は受けていない。それは事実だ。けれどアルファの多くが、その勧誘を受けている。声をかけられたアルファ全員が入会しているわけではないが、面白半分で顔を出してみたことのあるアルファは多いはずだ。
 なにしろ、「秘密の薔薇結社」はアルファのなかでも選ばれたアルファしか入会を許されないという箔が付いているのだから。
 なぜそんなふうな箔が付いているのかも、皓太は理解している。この学園に数多在籍するアルファのなかでも、特別に目立つアルファが出入りしているからだ。

 ――これ以上、面倒なことにならないといいんだけど、本当。

 見えるわけもないのに、杞憂が視線を窓のほうへと向けた。茅野が言っていたとおり外出だというのなら、そろそろ帰ってくるころだろう。
 こんな部屋の中から見えるわけがないし、そもそもとして、あのふたりのことなんてわかったためしはないのだけれど。

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