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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド15 ③
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「成瀬、おまえな。こんなに遅くなるなら家に戻れ」
「悪かったって。でも、ほら、門限内には帰ってきたし」
だから大目に見ろと言って苦笑している横顔は、寸分の狂いもなくいつもどおりだった。
――いい性格してるよ、本当。
どちらかと言うと、この白々しい態度を突き通そうと固執する側面のほうを、より一層馬鹿馬鹿しく思ってはいる。
「お、なんだ。向原も戻ったのか」
軽く頷いて、談話室を横切ろうとしたところで、また声がかかった。
「どうだ? 無事お帰りいただけたか」
談話室には茅野以外の寮生の姿はなかった。適当に言い含めて解散させたのだろう。どう箝口令を敷いたところで、明日には噂になっているとは思うが。答えるのも面倒になって、向原はちらりと視線を成瀬のほうに向けた。
「そいつに聞けよ」
「なんだ、タイミングの悪いやつらだな」
自分たちの顔を見やったあと、茅野はそう言って肩をすくめた。
「本当におまえたちは間が良いというか、悪いというか。バッティングしないに越したことはないと思っていたが、思いきりしたみたいだな」
高藤も気にしていたぞ、と続いた台詞に、成瀬が申し訳なさそうに手を合わせる。
「ごめんな、うちの親が」
「いや、……まぁ、それはいいんだが。少し騒ぎにはなっていた。階が近い分、一年生のほうが来訪に早く気づいたみたいでな」
「いいよ、それは。迷惑かけたのこっちなんだし」
まぁ、ただの気まぐれだったんだろうけど、と成瀬が言う。
「その気まぐれを実現させるために、自分の権力を湯水のように使うからどうしようもないっていうか」
「おまえ、実の親にさすがに辛辣すぎるだろう、それは」
「そうかな。俺と似てるから、つい」
なにも気にしていないのだと体現するような会話に嫌気が差して、向原は無言でその場を離れた。いないあいだのできごとを説明してやっているらしい声を背に、階段に足をかける。
馬鹿馬鹿しいと感じていることは、いくらでもあった。
たとえば、この世界の基盤となっているバース性のこと。
生まれ落ちた瞬間に、人間はバース性によってランク付けされているということ。
より優れたアルファが権力を掌握することは必然だということ。
それが不変とされる世界で、根底を覆そうとしている人間がいること。
けれど、誰よりもバース性の呪縛から逃れられていなかったのは、その人間だったということ。
そのしがらみを取っ払ってやれば、多少は息がしやすくなるのではないかと思ってしまったこと。
「悪かったって。でも、ほら、門限内には帰ってきたし」
だから大目に見ろと言って苦笑している横顔は、寸分の狂いもなくいつもどおりだった。
――いい性格してるよ、本当。
どちらかと言うと、この白々しい態度を突き通そうと固執する側面のほうを、より一層馬鹿馬鹿しく思ってはいる。
「お、なんだ。向原も戻ったのか」
軽く頷いて、談話室を横切ろうとしたところで、また声がかかった。
「どうだ? 無事お帰りいただけたか」
談話室には茅野以外の寮生の姿はなかった。適当に言い含めて解散させたのだろう。どう箝口令を敷いたところで、明日には噂になっているとは思うが。答えるのも面倒になって、向原はちらりと視線を成瀬のほうに向けた。
「そいつに聞けよ」
「なんだ、タイミングの悪いやつらだな」
自分たちの顔を見やったあと、茅野はそう言って肩をすくめた。
「本当におまえたちは間が良いというか、悪いというか。バッティングしないに越したことはないと思っていたが、思いきりしたみたいだな」
高藤も気にしていたぞ、と続いた台詞に、成瀬が申し訳なさそうに手を合わせる。
「ごめんな、うちの親が」
「いや、……まぁ、それはいいんだが。少し騒ぎにはなっていた。階が近い分、一年生のほうが来訪に早く気づいたみたいでな」
「いいよ、それは。迷惑かけたのこっちなんだし」
まぁ、ただの気まぐれだったんだろうけど、と成瀬が言う。
「その気まぐれを実現させるために、自分の権力を湯水のように使うからどうしようもないっていうか」
「おまえ、実の親にさすがに辛辣すぎるだろう、それは」
「そうかな。俺と似てるから、つい」
なにも気にしていないのだと体現するような会話に嫌気が差して、向原は無言でその場を離れた。いないあいだのできごとを説明してやっているらしい声を背に、階段に足をかける。
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そのしがらみを取っ払ってやれば、多少は息がしやすくなるのではないかと思ってしまったこと。
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