パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
192 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンド15 ③

しおりを挟む
「成瀬、おまえな。こんなに遅くなるなら家に戻れ」
「悪かったって。でも、ほら、門限内には帰ってきたし」

 だから大目に見ろと言って苦笑している横顔は、寸分の狂いもなくいつもどおりだった。

 ――いい性格してるよ、本当。

 どちらかと言うと、この白々しい態度を突き通そうと固執する側面のほうを、より一層馬鹿馬鹿しく思ってはいる。

「お、なんだ。向原も戻ったのか」

 軽く頷いて、談話室を横切ろうとしたところで、また声がかかった。

「どうだ? 無事お帰りいただけたか」

 談話室には茅野以外の寮生の姿はなかった。適当に言い含めて解散させたのだろう。どう箝口令を敷いたところで、明日には噂になっているとは思うが。答えるのも面倒になって、向原はちらりと視線を成瀬のほうに向けた。

「そいつに聞けよ」
「なんだ、タイミングの悪いやつらだな」

 自分たちの顔を見やったあと、茅野はそう言って肩をすくめた。

「本当におまえたちは間が良いというか、悪いというか。バッティングしないに越したことはないと思っていたが、思いきりしたみたいだな」

 高藤も気にしていたぞ、と続いた台詞に、成瀬が申し訳なさそうに手を合わせる。

「ごめんな、うちの親が」
「いや、……まぁ、それはいいんだが。少し騒ぎにはなっていた。階が近い分、一年生のほうが来訪に早く気づいたみたいでな」
「いいよ、それは。迷惑かけたのこっちなんだし」

 まぁ、ただの気まぐれだったんだろうけど、と成瀬が言う。

「その気まぐれを実現させるために、自分の権力を湯水のように使うからどうしようもないっていうか」
「おまえ、実の親にさすがに辛辣すぎるだろう、それは」
「そうかな。俺と似てるから、つい」

 なにも気にしていないのだと体現するような会話に嫌気が差して、向原は無言でその場を離れた。いないあいだのできごとを説明してやっているらしい声を背に、階段に足をかける。
 馬鹿馬鹿しいと感じていることは、いくらでもあった。
 たとえば、この世界の基盤となっているバース性のこと。
 生まれ落ちた瞬間に、人間はバース性によってランク付けされているということ。
 より優れたアルファが権力を掌握することは必然だということ。
 それが不変とされる世界で、根底を覆そうとしている人間がいること。
 けれど、誰よりもバース性の呪縛から逃れられていなかったのは、その人間だったということ。
 そのしがらみを取っ払ってやれば、多少は息がしやすくなるのではないかと思ってしまったこと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

【創作BLオメガバース】優しくしないで

万里
BL
壮士(そうし)は男のΩ。幼馴染の雅人(まさと)にずっと恋をしていた。雅人は太陽のように眩しくて、壮士の世界を変えてくれた存在。彼の影を追うように、同じスポーツを始め、同じ高校に進学し、ずっと傍にいた。 しかし、壮士のヒートのせいで、雅人も充てられて発情してしまう。壮士は必死に項を守り、番になることを拒む。好きだからこそ、こんな形では結ばれたくなかった。壮士は彼の幸せを願って別の大学へ進学する。 新しい環境で出会ったのは、α・晴臣(はるおみ)。彼もまた、忘れられない人がいるという。 互いに“好きな人”を抱えたまま始まる関係。心の隙間を埋め合うふたり。けれど、偽りのはずだったその関係に、いつしか本物の感情が芽生えていく?

処理中です...