194 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンド16 ①
しおりを挟む
[16]
おそらく自分は、過信をしていたのだと思う。この学園の平穏を。あるいは、この学園における王者の絶対を。
「朝の食堂もどうかとは思ったけどさぁ。学校に来てもぜんぜん変わんないね」
いかにもうんざりといった調子でぼやきながら、四谷が空いていた行人の前の席を引いた。
「っていうか、寮よりひどいとか。どんだけ早く噂になってんのって話だよね。箝口令の意味」
「箝口令?」
話が読めなくて、首を傾げる。たしかに、寮の食堂も妙な雰囲気だった気はするが、あの一件以来、興味本位の視線を向けられる回数は増えていたので、いつものことと気に留めていなかったのだ。
そう言われてみると、始業前の教室もいつもよりざわめいているかもしれない。
「あれ、榛名知らないの? 金曜の夜のこと」
高藤も現場にいたから聞いてるものだと思っていたと、弁明するように四谷が言う。
「ヤバい。俺も言っちゃったよ。言うなって言われてたのに」
「金曜の夜……、茅野さんがすぐにおさめたから大丈夫って聞いたんだけど。違うのか?」
そう、言っていたはずだ。だから気にしなくていいよ、と。そのあとすぐに違う話題に流れたこともあって、今の今まで忘れていたのだけれど。
うーん、と悩むように唸ったあとで、まぁいいか、と四谷は種を明かした。
「どうせ噂になってるもんね。どこから聞くのが先かっていうレベルの話だと思うし。あのね、来てたんだよ、成瀬璃子。会長のお母さん」
「え……」
予想していなかった事態に、小さな声を漏らしたきり絶句する。
そんなこと高藤はなにひとつ言っていなかったし、そもそもとして、保護者とは言え、そう簡単に学内の――それも寮の中にまで入ってくることなんてできないはずなのに。
「気持ちはわかるけど、そういう無理難題を押し通せるのがあの家なんだ、で納得したほうが平和だよ、たぶん」
そう苦笑してから、それで、と四谷は話を続けた。
「まぁ、茅野先輩がおさめたっていうのも事実で、そのあとに、居合わせた寮生に『時期が時期なんだから、うちから妙な噂を出すなよ』って言ってたんだけど」
ちらりと四谷の視線が、固まって話しているクラスメイトたちのほうに向く。
「あんまり意味なかったのかなって。まぁ、うちの寮からじゃなくて、ほかから漏れたのかもしれないけど。この学校で部外者が歩いてたら目立つだろうし、それが大女優じゃねぇ」
「茅野さん、その……成瀬さんのお母さんが来てたっていう話を口外するなって言ってたのか?」
たしかに言いふらすような話ではないと思う。けれど、茅野が言ったような「妙な噂」に発展するようなものだとは思えなかった。
むしろ、中途半端に隠したほうが変な憶測を呼びそうな気がするのだが。
混乱から立ち直ってきた頭で尋ねると、「まぁねぇ」と四谷が曖昧な笑みを浮かべた。
「それだけならよかったんだけど。なんていうか、意味深なことを言って帰っていったんだよね、そのお母さんが」
周囲を気にするようにして、さらに声が小さくなる。その声を聞きもらさないように、行人も耳を澄ませた。
「向原先輩に、……あ、その場に向原先輩もいたんだけどさ。うちの子もらってくれないかしらって、そう言ったんだよ」
「――え?」
「いや、うん、その気持ちもわかる。意味わかんないよね。俺も意味わかんなかったもん」
まぁ、会長も冗談なのか本気なのかよくわからないこと笑顔で言うタイプだけどさ、と四谷が言う。
「その上を行く意味のわからなさだったよ、本当。言われた向原先輩は、『冗談ばっかり』みたいな感じだったし、向こうも、それに合わせる感じで笑ってたんだけど」
どうにか頷く。その反応がせいいっぱいだった。戸惑いを通りすぎると、腹の中には憤りが溜まり始めていた。
なんで、そんなことをわざわざ言う必要があったのか。行人にはまったく意味がわからなかった。
おそらく自分は、過信をしていたのだと思う。この学園の平穏を。あるいは、この学園における王者の絶対を。
「朝の食堂もどうかとは思ったけどさぁ。学校に来てもぜんぜん変わんないね」
いかにもうんざりといった調子でぼやきながら、四谷が空いていた行人の前の席を引いた。
「っていうか、寮よりひどいとか。どんだけ早く噂になってんのって話だよね。箝口令の意味」
「箝口令?」
話が読めなくて、首を傾げる。たしかに、寮の食堂も妙な雰囲気だった気はするが、あの一件以来、興味本位の視線を向けられる回数は増えていたので、いつものことと気に留めていなかったのだ。
そう言われてみると、始業前の教室もいつもよりざわめいているかもしれない。
「あれ、榛名知らないの? 金曜の夜のこと」
高藤も現場にいたから聞いてるものだと思っていたと、弁明するように四谷が言う。
「ヤバい。俺も言っちゃったよ。言うなって言われてたのに」
「金曜の夜……、茅野さんがすぐにおさめたから大丈夫って聞いたんだけど。違うのか?」
そう、言っていたはずだ。だから気にしなくていいよ、と。そのあとすぐに違う話題に流れたこともあって、今の今まで忘れていたのだけれど。
うーん、と悩むように唸ったあとで、まぁいいか、と四谷は種を明かした。
「どうせ噂になってるもんね。どこから聞くのが先かっていうレベルの話だと思うし。あのね、来てたんだよ、成瀬璃子。会長のお母さん」
「え……」
予想していなかった事態に、小さな声を漏らしたきり絶句する。
そんなこと高藤はなにひとつ言っていなかったし、そもそもとして、保護者とは言え、そう簡単に学内の――それも寮の中にまで入ってくることなんてできないはずなのに。
「気持ちはわかるけど、そういう無理難題を押し通せるのがあの家なんだ、で納得したほうが平和だよ、たぶん」
そう苦笑してから、それで、と四谷は話を続けた。
「まぁ、茅野先輩がおさめたっていうのも事実で、そのあとに、居合わせた寮生に『時期が時期なんだから、うちから妙な噂を出すなよ』って言ってたんだけど」
ちらりと四谷の視線が、固まって話しているクラスメイトたちのほうに向く。
「あんまり意味なかったのかなって。まぁ、うちの寮からじゃなくて、ほかから漏れたのかもしれないけど。この学校で部外者が歩いてたら目立つだろうし、それが大女優じゃねぇ」
「茅野さん、その……成瀬さんのお母さんが来てたっていう話を口外するなって言ってたのか?」
たしかに言いふらすような話ではないと思う。けれど、茅野が言ったような「妙な噂」に発展するようなものだとは思えなかった。
むしろ、中途半端に隠したほうが変な憶測を呼びそうな気がするのだが。
混乱から立ち直ってきた頭で尋ねると、「まぁねぇ」と四谷が曖昧な笑みを浮かべた。
「それだけならよかったんだけど。なんていうか、意味深なことを言って帰っていったんだよね、そのお母さんが」
周囲を気にするようにして、さらに声が小さくなる。その声を聞きもらさないように、行人も耳を澄ませた。
「向原先輩に、……あ、その場に向原先輩もいたんだけどさ。うちの子もらってくれないかしらって、そう言ったんだよ」
「――え?」
「いや、うん、その気持ちもわかる。意味わかんないよね。俺も意味わかんなかったもん」
まぁ、会長も冗談なのか本気なのかよくわからないこと笑顔で言うタイプだけどさ、と四谷が言う。
「その上を行く意味のわからなさだったよ、本当。言われた向原先輩は、『冗談ばっかり』みたいな感じだったし、向こうも、それに合わせる感じで笑ってたんだけど」
どうにか頷く。その反応がせいいっぱいだった。戸惑いを通りすぎると、腹の中には憤りが溜まり始めていた。
なんで、そんなことをわざわざ言う必要があったのか。行人にはまったく意味がわからなかった。
13
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる