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第三部
パーフェクト・ワールド・エンド19 ⑤
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まだ中等部にいたころ、篠原に呆れ顔で指摘されたことがある。おまえらの服がやたら入れ替わったりしてるのって、マーキングかなんかのつもりなの、と。
半分以上無意識だった、というのが正直な感想だったのだが、そのとおりかもしれない、とも思った。
本人は完全に隠しているつもりで、実際に周囲のアルファも誰も気がつかない。けれど、たしかに甘い匂いはしているのだ。
だったら、より強いもので隠してやらないとしかたがないだろう。アルファがオメガに惹かれることも本能だが、アルファがより強大なアルファに畏怖を抱くことも、また本能なのだ。
それに――どちらにせよ、気に食わなく思っていたことも事実ではあった。オメガだと気づいていないにも関わらず、そういった目であの男を見る人間がいることが。
そうして、自分がそういう目で見られていることを知っていても、気がつかないふりでやり過ごそうとする、あの男の傲慢な鈍さも。
そのどちらもが、向原はずっと気に食わなかった。
*
必要とあらば、他人の秘密を暴くことに罪悪感は覚えない。部屋の主のいない寮の部屋で探り当てたものを前に、向原は小さく溜息を吐いた。
――効かないって言ってたな。
おまけに、ついこのあいだ、病院に行ったという話も聞いている。あの病院嫌いがわざわざ赴いたということは、その時点でかなり調子は悪かったのだろうが。
そういう場合の最適解は、適当な理由をつくっての一時帰宅だと、榛名の一件で学ばなかったのだろうか。呆れ半分でそう思ってみたものの、学ばなかっただろうな、という答えはすぐに出た。
なにせ、なにがあっても自分は大丈夫だと思い込んでいる馬鹿なのだ。
「向原」
ノックの音とほぼ同時に入ってきた茅野が、机のほうに近づいてくるなり、呆れた顔になった。
「いつまでも番犬みたいな真似をしてないで、ちょっと付き合えと言いにきたんだが、すごい量だな」
「まぁな」
「知ってたのか? 見ているこっちの心臓に悪い。あんなに多量に飲むものでもないだろう。適量がどのくらいかは知らんが」
何種類も併用はしないだろうから、二錠がいいところじゃないか、とは口に出さないまま、成瀬の部屋にいた理由を告げる。
「部屋貸してやったからな」
「よかったな、壁が薄くて」
まったく信じていない調子でそう言って、茅野が壁に目を向けた。
「隣の部屋だとだいたいわかるだろう。在室しているとか、また抜け出したな、だとか。おまえがわかるのと同じで、あいつも把握してる。だから、気にしてたぞ。おまえがまったく帰ってこないってな」
「まったくってことはないだろ」
まぁ、たしかに、気にしているようなことを言っていた覚えはあるけれど。「それで?」と向原は話を促した。用件がなければ、わざわざこちらに足を運びはしないだろう。
「なんだったんだ?」
「榛名も知っていたらしいな」
そうだろうな、と思っていたことだった。最近の態度から察するに、榛名だけに留まらず、皓太も知っている気はするが。
「それで、その榛名が話をしたいと言っているんだが」
どうする、と問われて、向原はうんざりとした一瞥を返した。
「好きにすればいいだろ、俺には関係ない」
「ここまで来て、それか。関係がないわけはないだろう。諦めて最後まで付き合え。……それに、知ってたんだろう、おまえは」
答えなかったが、茅野も答えを求めていたふうでもなかった。知っていたところで、いまさらだったからだ。
半分以上無意識だった、というのが正直な感想だったのだが、そのとおりかもしれない、とも思った。
本人は完全に隠しているつもりで、実際に周囲のアルファも誰も気がつかない。けれど、たしかに甘い匂いはしているのだ。
だったら、より強いもので隠してやらないとしかたがないだろう。アルファがオメガに惹かれることも本能だが、アルファがより強大なアルファに畏怖を抱くことも、また本能なのだ。
それに――どちらにせよ、気に食わなく思っていたことも事実ではあった。オメガだと気づいていないにも関わらず、そういった目であの男を見る人間がいることが。
そうして、自分がそういう目で見られていることを知っていても、気がつかないふりでやり過ごそうとする、あの男の傲慢な鈍さも。
そのどちらもが、向原はずっと気に食わなかった。
*
必要とあらば、他人の秘密を暴くことに罪悪感は覚えない。部屋の主のいない寮の部屋で探り当てたものを前に、向原は小さく溜息を吐いた。
――効かないって言ってたな。
おまけに、ついこのあいだ、病院に行ったという話も聞いている。あの病院嫌いがわざわざ赴いたということは、その時点でかなり調子は悪かったのだろうが。
そういう場合の最適解は、適当な理由をつくっての一時帰宅だと、榛名の一件で学ばなかったのだろうか。呆れ半分でそう思ってみたものの、学ばなかっただろうな、という答えはすぐに出た。
なにせ、なにがあっても自分は大丈夫だと思い込んでいる馬鹿なのだ。
「向原」
ノックの音とほぼ同時に入ってきた茅野が、机のほうに近づいてくるなり、呆れた顔になった。
「いつまでも番犬みたいな真似をしてないで、ちょっと付き合えと言いにきたんだが、すごい量だな」
「まぁな」
「知ってたのか? 見ているこっちの心臓に悪い。あんなに多量に飲むものでもないだろう。適量がどのくらいかは知らんが」
何種類も併用はしないだろうから、二錠がいいところじゃないか、とは口に出さないまま、成瀬の部屋にいた理由を告げる。
「部屋貸してやったからな」
「よかったな、壁が薄くて」
まったく信じていない調子でそう言って、茅野が壁に目を向けた。
「隣の部屋だとだいたいわかるだろう。在室しているとか、また抜け出したな、だとか。おまえがわかるのと同じで、あいつも把握してる。だから、気にしてたぞ。おまえがまったく帰ってこないってな」
「まったくってことはないだろ」
まぁ、たしかに、気にしているようなことを言っていた覚えはあるけれど。「それで?」と向原は話を促した。用件がなければ、わざわざこちらに足を運びはしないだろう。
「なんだったんだ?」
「榛名も知っていたらしいな」
そうだろうな、と思っていたことだった。最近の態度から察するに、榛名だけに留まらず、皓太も知っている気はするが。
「それで、その榛名が話をしたいと言っているんだが」
どうする、と問われて、向原はうんざりとした一瞥を返した。
「好きにすればいいだろ、俺には関係ない」
「ここまで来て、それか。関係がないわけはないだろう。諦めて最後まで付き合え。……それに、知ってたんだろう、おまえは」
答えなかったが、茅野も答えを求めていたふうでもなかった。知っていたところで、いまさらだったからだ。
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