パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 3 ②

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「うん、そうしようかな。もういい時間だし……」
「そろそろ部屋に戻らないと、点呼とっちゃうよ」

 談話室を出ようとしたタイミングで、ひょいと荻原が顔を覗かせた。

「よっちゃんたちに、高藤に、……なんだ、谷戸たちもいたんだ」

 場に残る空気のぎこちなさに気づいているのかいないのか、点呼簿をひらひらと振りながら、奥にいたクラスメイトにも荻原は声をかけている。

「寮則はきちんと守りましょうねっていう話も出たばかりだからね。今破ると、寮長直々にお説教あるかもよ」
「え、タイミング悪すぎない?」

 思わず、というふうな四谷の呟きに、荻原は悪気のない顔で首を傾げている。ぎこちなさにはまったく気がついていなかったらしい。

「なに? タイミング悪いって、俺が? ごめん、なんか盛り上がってたところだった?」
「いや、盛り上がってたわけじゃないんだけど。っていうか、いいよ、もう。それこそ本当にタイミング悪いな、拾わなくていいから」
「おまえら寮生委員の緊急総会の話だよ」
「え、……あぁ、そういう」

 険しかない谷戸の返答に、ちらと視線を送られてくる。「俺、やらかした?」という目配せに苦笑いで首を振ると、荻原が苦いものを呑み込んだふうに愛想笑いをつくった。

「あー……、緊急総会ね。このあいだも言ったけどさ、張り出してあった以上のことは話せないからね?」

 機密ってやつです、とあえて軽い調子で言ってみせてから、荻原が続ける。

「一寮生委員の意見としては、妥当な処分だったと思ってるけど。度重なる風紀の乱れを適正に対処しなかったっていうのは、解任理由としては十分だよ。是正しろっていう勧告を何度も出した上でのことだったみたいだし」

 言い諭す言葉はいつもの荻原らしい穏やかさだったが、うんざりとした心境が節々からにじんでいた。
 日中も一部の生徒に絡まれていたことを知っている身としては、気の毒に、という感想しかない。

 ――正直、なんでそこまで信じたいのか、俺にはよくわからないけど。

 わかりはしないけれど、皓太の周囲で「ハルちゃんの意外な行動」に対する見解が割れていることは事実なのだった。
 あの会長に宣戦布告するなんて面白い、とハルちゃんをトップに祀り上げようと盛り上がっている派閥。もうひとつが、あの現場を直接見ておらず、ハルちゃんがそんなことを言うはずがない、すべてデマで生徒会や寮生委員会による陰謀だ、と決めつけている派閥。
 彼らが後者に属しているのは、「寮生委員会と生徒会がそうやって結託して証拠をでっちあげているのだろう」「だから、寮生委員会の決定は信用できない」という恨み言からも明らかで。
 そこまで盲信している相手になにを言っても無駄だと皓太は思っているが、荻原も同じ思いらしい。

「そんなこと言われてもなぁ。言っても信じてくれないと思うけど、べつにうちは噂なんて流してないし、客観的な証拠があるから処分も下りてるわけで」
「だったら、なんだよ。その客観的な証拠って」
「えー……、そこは知らないほうがいいと思うけどなぁ。まぁ、客観的な、というか、言い逃れのできない証拠があるっていう事実で納得してほしいんだけど」

 その一方的な「証拠」が信じられないんだという主張が繰り返されているが、まぁ、聞かないほうがいいだろうなぁ、と個人的には思っている。たぶん夢がつぶれる。
 ループするやりとりを荻原に丸投げしたまま見守っていると、四谷がひっそりと話しかけてきた。
 この現状を放置して部屋に戻るのは気が咎めたらしく、居残ってくれていたのだ。

「そんなにすごいの? その『証拠』」
「まぁ、うん。谷戸たちは聞かないほうがいいと思うよ、俺も」

 荻原が言葉を濁しているのは関係者外秘ということもあるだろうが、一種のやさしさでもあると思う。
 聞かないで済むなら聞きたくなかった、というのが、聞き終えたときの感想のすべてだったし、そのあとに覚えたのは、「茅野さんえげつないもん隠し持ってたな」という恐ろしさだった。

 ――実際に録ってきたのは向原さんな気もするけど。あの人、一時期楓寮に入り浸ってたから。

 具体的な方法については、精神衛生上よろしくないので、想像したくはないのだが。本当にあの人たちは用意周到だというか、これだから敵に回したくないというか。
 あいかわらずだというか。

 ――だから、簡単に負ける人たちじゃないって言っただろ。

 最後のひとつは、心配性の同室者への苦言だ。このあいだも、制止を振り切って向原を追いかけていっていた。自分がなにをしたところでどうにもならないと、本人もわかっているだろうに。
 それを認められないのが「恋」なのだと言うのなら、大概にしてほしいと思ってしまう。口に出したら嫉妬のように響きそうだから、言わないけれど。
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