パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 3 ⑤

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「まぁ、たしかに」

 応じたのは美岡だった。

「ちょっとすごかったね。寮長もいつもと雰囲気違ったし、余計にっていうのもあるかも。でも、谷戸たちに問題あったわけだし」
「それもそうだけど、それだけじゃなくて、なんていうか、あの言い方だと、この寮で会長を悪く言えば追い出すって言われたようなもんだったでしょ」

 そこまではっきり言われたら、もうなにも言えないよ、俺ら一年には、と四谷が言う。そのとおりだな、と皓太は思った。
 茅野の意図は、まちがいなくそこにあったはずだ。弾圧をする気はないと口では言っていたけれど。

「これで静かになるんだったら、俺は、まぁ、べつにいいけど」
「べつにいいって……」
「だって、俺もハルちゃんは好きじゃないからね」
「それは、四谷が高藤のこと大好きだからだろ」

 即答に、思わずというふうに廊下にいた生徒から突っ込みが入る。だから、好意的な捉え方をするのだという指摘に、四谷が廊下を振り返った。「それが、なに?」

「たしかにそうだけど、それ以上に、俺は、会長たちがつくってきたこの学園で不利益を感じてないからね。だから、今のままで十分だってだけの話だよ。オメガだとかアルファだとか、ベータの俺には遠い世界の話過ぎるし」
「それはそうかも」

 四谷のとなりで黙って話を聞いていた朝比奈が、そこで小さく笑った。

「僕も、困ったことないし。だって、会長も寮長も、オメガだから、アルファだから、とか、ベータだから、もそうか。そういう第二の性に関すること、基本的に言わないし。そういうのって、なんだかんだ言って一番ありがたい気がする」

 だよね、と場違いなほど明るく四谷が頷く。同調する声がぱらぱらと続いたのは、必然だったのだろうと思う。そのほとんどが四谷たちと同じベータの寮生だった。
 アルファの巣窟だと思っていたからこそ、中等部の入学式のとき、会長の式辞で安心できたのだと、懐かしんでいる。

 ――俺だって、そうだ。

 言葉にこそしなかったが、強くそう思った。あの人がいて一番安心したのは自分だったのだろう、とも。
 昔から、なんでもできる人だった。それでいて、誰かを悪く言うことも、見下すことも絶対にしない公平な人だった。
 そんなあの人がトップに立つ場所なのだから、ここは安全なのだと信じて疑いもしなかった。ぬるま湯の中でただ恩恵にあずかっていた。
 でも。

「ごめん、そろそろ点呼取るから、部屋に戻って。今ならもうぜんぶセーフにするから」

 努めていつもと同じように、話したりなさそうな面々に声をかける。さすがにもういい時間だ。
 ばらばらと各自の寮室に戻っていく背を見送ってひとりになると、溜息がこぼれてしまった。
 それにしても、本当に榛名が顔を出さなくてよかった。あの調子なら、茅野がきっちり絞ってくれそうだし、そうれすれば、多少は――……。

「おもしろいほうに付く、か」

 少し前に、生徒会室で篠原が言っていたことだ。身も蓋もないことを言ってやろうか、という前置きのもとで、そう。
 あのときは焦燥が勝って反発してしまったけれど、篠原の言っていたことはよくわかる。
 代わり映えのない現状よりも、新勢力に加担するほうがおもしろい、ということだ。
 勝って当然のアルファに、弱者であるオメガが歯向かうほうがおもしろい。だから、そちらに肩入れをする。
 その流れが主になりつつあったことを踏まえた上で、あの人は、自分の噂を目立つ場所で存分に利用した。つまり、そういうことだった。

 ――本当、転んでもただでは起きないよな。

 そういう人だと知っていたから、榛名にもそう言ったのだけれど。どちらにしても、水城のことはともかく、三年生のことについては、自分が介入できることはない。
 どれだけ馬鹿らしかろうが、猿芝居であろうが、自分にできることは知らないふりを貫き通すことだけだ。そう皓太は思っていた。たぶん、そうであるうちは、あの人はあの人のままでいることができるから。

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