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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4 ②
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「つまり、辞めてなかった……ってことですよね」
「まぁ、手続き上は」
そういうことになるかな、と頷いてみせた顔には、罪悪感のかけらも浮かんでいなかった。
「な? 人の噂って怖いよな。まったくの嘘なのに真実みたいに広がることもあるし、その逆もあるし」
「……そうだね」
「あんまり気にすんなって」
笑顔で言いくるめられている状態を見かねたらしく、篠原が苦笑いで会話に割って入った。
「気にするなって」
呆れと疲れが入り混じったふうに、皓太が溜息を吐いた。
「じゃあ、俺の補選って、なんだったんですか、本当に」
「あー……、ここ、もともと正規の人数にぜんぜん足りてないから」
人手が足りないって前から言ってただろ、と言い訳のような言葉が続く。
「だから、どっかで補選はしたかったの。成瀬と向原のえり好みが激しいから、ずっと少数精鋭だったってだけで、俺は迷惑してたんだよ。何回言ってもこいつら聞く耳持たなかったし」
「じゃあ、なんで、俺が副会長職……」
「そりゃ、ふたりまで置けるポジションだから。中等部でもそうだっただろ?」
「いや、……それは、まぁ、そうだったけど」
心配して損した、だとか、騙された気しかしない、だとか、ぐずぐずと訴える声を無視し切れなかったらしい。篠原に相手を任せて事務仕事を再開していたはずの成瀬は、珍しく柔らかい表情をしていた。
――甘いよな、本当。
嫌になるくらい、「子ども」に、――自分が守るべきだと思ったものに対して、甘い。それも、本当にいまさらで、昔からのことではあるけれど。
その横顔を一瞥したのを最後に、外に出る。人気のない廊下は、梅雨特有の重い湿度をはらんでいた。
「向原」
追いかけてくる声が背に届いて、振り返る。ほんの少し申し訳なさそうな表情で成瀬が立っていた。
「ごめんな。おまえが戻ってくるって高を括ってたってわけじゃなかったんだけど」
「知ってる」
戻ってくると高を括っていたというよりは、言明しないほうが都合が良かっただけだろうとわかってはいたが、そうとだけ向原は応じた。
ついでに言えば、自分があえて否定して回らないだろうと踏んでもいたのだろうけれど。
生徒会室から漏れ聞こえる篠原たちの話し声が場違いなほど明るく響いていた。
「そうだよな。でも、ありがと」
背後の扉をちらりと見やってから、成瀬がほほえんだ。
「向原が戻ってきて、篠原もだけど、皓太も安心したみたいだし。俺もここにいるみんなは好きだし。やっぱり安心できる場所じゃないとな」
「そういう白々しいことは茅野に言ってやれよ。喜ぶだろ」
「白々しいって。嘘じゃないつもりなんだけど、半分くらいは」
思いきり場所を選んで呼び止めておいて、よく言えた台詞だな、とは思ったが、指摘はしなかった。
揉めたときに止めることができる相手が近くにいる、密室ではない空間。そういう場所を選ぶだけの警戒心は持つべきだと思っていたからだ。
「まぁ、手続き上は」
そういうことになるかな、と頷いてみせた顔には、罪悪感のかけらも浮かんでいなかった。
「な? 人の噂って怖いよな。まったくの嘘なのに真実みたいに広がることもあるし、その逆もあるし」
「……そうだね」
「あんまり気にすんなって」
笑顔で言いくるめられている状態を見かねたらしく、篠原が苦笑いで会話に割って入った。
「気にするなって」
呆れと疲れが入り混じったふうに、皓太が溜息を吐いた。
「じゃあ、俺の補選って、なんだったんですか、本当に」
「あー……、ここ、もともと正規の人数にぜんぜん足りてないから」
人手が足りないって前から言ってただろ、と言い訳のような言葉が続く。
「だから、どっかで補選はしたかったの。成瀬と向原のえり好みが激しいから、ずっと少数精鋭だったってだけで、俺は迷惑してたんだよ。何回言ってもこいつら聞く耳持たなかったし」
「じゃあ、なんで、俺が副会長職……」
「そりゃ、ふたりまで置けるポジションだから。中等部でもそうだっただろ?」
「いや、……それは、まぁ、そうだったけど」
心配して損した、だとか、騙された気しかしない、だとか、ぐずぐずと訴える声を無視し切れなかったらしい。篠原に相手を任せて事務仕事を再開していたはずの成瀬は、珍しく柔らかい表情をしていた。
――甘いよな、本当。
嫌になるくらい、「子ども」に、――自分が守るべきだと思ったものに対して、甘い。それも、本当にいまさらで、昔からのことではあるけれど。
その横顔を一瞥したのを最後に、外に出る。人気のない廊下は、梅雨特有の重い湿度をはらんでいた。
「向原」
追いかけてくる声が背に届いて、振り返る。ほんの少し申し訳なさそうな表情で成瀬が立っていた。
「ごめんな。おまえが戻ってくるって高を括ってたってわけじゃなかったんだけど」
「知ってる」
戻ってくると高を括っていたというよりは、言明しないほうが都合が良かっただけだろうとわかってはいたが、そうとだけ向原は応じた。
ついでに言えば、自分があえて否定して回らないだろうと踏んでもいたのだろうけれど。
生徒会室から漏れ聞こえる篠原たちの話し声が場違いなほど明るく響いていた。
「そうだよな。でも、ありがと」
背後の扉をちらりと見やってから、成瀬がほほえんだ。
「向原が戻ってきて、篠原もだけど、皓太も安心したみたいだし。俺もここにいるみんなは好きだし。やっぱり安心できる場所じゃないとな」
「そういう白々しいことは茅野に言ってやれよ。喜ぶだろ」
「白々しいって。嘘じゃないつもりなんだけど、半分くらいは」
思いきり場所を選んで呼び止めておいて、よく言えた台詞だな、とは思ったが、指摘はしなかった。
揉めたときに止めることができる相手が近くにいる、密室ではない空間。そういう場所を選ぶだけの警戒心は持つべきだと思っていたからだ。
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