240 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4 ①
しおりを挟む
[4]
「それにしても、本当、向原が戻ってきてくれて助かった」
おかげで仕事が一気に減った、と気の抜けた顔で篠原は頬杖をついている。その姿を一瞥して、向原は呆れた声を出した。
「おまえが今までサボってだけだろ」
「どっかの誰かみたいなこと言うなよ。おまえが抜けたら大変になるの目に見えてただろ」
それなのに、という非難は無視して、手元に視線を戻す。
多忙を極めている要因は、自分が抜けた、抜けないではなく、もともとの人数不足だろうと思っているからだ。
「篠原さん、最近、一日一回はその台詞言ってますね」
場の空気を取り繕うように、そう皓太が口を挟んだ。
律義に相手をしてくれる後輩がひとりいるだけで、空気はこんなに変わるんだなぁ、というのは、少し前に聞いた篠原の弁である。
たしかに、一時期のことを思えば、生徒会室の空気は変わったのかもしれない。
「皓太、おまえももっと文句言っていいんだぞ? ある意味一番割食ってたの、おまえなんだから」
「いや、俺はべつに……」
「もっと恩恵受けてるやつもいるけどな。なにも言わないけど」
「まぁ、そうですね、はい」
ちら、と篠原が向けた視線の先を見ようともしないまま、皓太はさっと話を終わらせている。
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりの調子が少々気の毒で、向原は切り上げにかかった。ちょうど切りも良かったのだ。
「おまえの持ち分はおまえがやれよ」
代わりにはしないと釘を刺しがてら、机を片づけて席を立つ。そのまま出て行くつもりだった向原を引き留めたのは、「あ」という小さな声だった。
「なに」
「すみません、わからないことがあったわけじゃなかったんですけど」
ふと気になっちゃって、と皓太が言う。
「俺が言うのもなんだと思いますし、すごく助かってるのも事実なんで、本当にいまさらな話なんですけど」
「だからなんだよ」
「その……、なんで、向原さんあたりまえの顔でここにいるのかなって、ちょっと思っちゃって。辞めたんですよね?」
「そのつもりだったんだけどな」
俺はな、というように視線を巡らせると、篠原がぎょっと首を振った。
「違う。違う。俺はちゃんと言ったからな、そこの会長様に」
「え?」
不思議そうな皓太の声に、素知らぬ顔で決裁を続けていた成瀬がようやく顔を上げた。そうして、しかたなさそうにほほえむ。
「聞いたけど」
「……けど?」
「辞めたなんて、俺、一言も公式には言ってないと思うんだけど。掲示もしてないし」
無言になった皓太に、成瀬が駄目押した。
「逆に聞くけど、見た? そういう掲示。一回でも」
「見てない、かも」
根拠のないものを信じるな、という忠告に覚えはあったらしい。なんとも言えない顔で再び黙り込んでいる。
多少の罪悪感はあるのか、篠原は書類に目を落とすかたちで視線をそらしていたが。
「それにしても、本当、向原が戻ってきてくれて助かった」
おかげで仕事が一気に減った、と気の抜けた顔で篠原は頬杖をついている。その姿を一瞥して、向原は呆れた声を出した。
「おまえが今までサボってだけだろ」
「どっかの誰かみたいなこと言うなよ。おまえが抜けたら大変になるの目に見えてただろ」
それなのに、という非難は無視して、手元に視線を戻す。
多忙を極めている要因は、自分が抜けた、抜けないではなく、もともとの人数不足だろうと思っているからだ。
「篠原さん、最近、一日一回はその台詞言ってますね」
場の空気を取り繕うように、そう皓太が口を挟んだ。
律義に相手をしてくれる後輩がひとりいるだけで、空気はこんなに変わるんだなぁ、というのは、少し前に聞いた篠原の弁である。
たしかに、一時期のことを思えば、生徒会室の空気は変わったのかもしれない。
「皓太、おまえももっと文句言っていいんだぞ? ある意味一番割食ってたの、おまえなんだから」
「いや、俺はべつに……」
「もっと恩恵受けてるやつもいるけどな。なにも言わないけど」
「まぁ、そうですね、はい」
ちら、と篠原が向けた視線の先を見ようともしないまま、皓太はさっと話を終わらせている。
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりの調子が少々気の毒で、向原は切り上げにかかった。ちょうど切りも良かったのだ。
「おまえの持ち分はおまえがやれよ」
代わりにはしないと釘を刺しがてら、机を片づけて席を立つ。そのまま出て行くつもりだった向原を引き留めたのは、「あ」という小さな声だった。
「なに」
「すみません、わからないことがあったわけじゃなかったんですけど」
ふと気になっちゃって、と皓太が言う。
「俺が言うのもなんだと思いますし、すごく助かってるのも事実なんで、本当にいまさらな話なんですけど」
「だからなんだよ」
「その……、なんで、向原さんあたりまえの顔でここにいるのかなって、ちょっと思っちゃって。辞めたんですよね?」
「そのつもりだったんだけどな」
俺はな、というように視線を巡らせると、篠原がぎょっと首を振った。
「違う。違う。俺はちゃんと言ったからな、そこの会長様に」
「え?」
不思議そうな皓太の声に、素知らぬ顔で決裁を続けていた成瀬がようやく顔を上げた。そうして、しかたなさそうにほほえむ。
「聞いたけど」
「……けど?」
「辞めたなんて、俺、一言も公式には言ってないと思うんだけど。掲示もしてないし」
無言になった皓太に、成瀬が駄目押した。
「逆に聞くけど、見た? そういう掲示。一回でも」
「見てない、かも」
根拠のないものを信じるな、という忠告に覚えはあったらしい。なんとも言えない顔で再び黙り込んでいる。
多少の罪悪感はあるのか、篠原は書類に目を落とすかたちで視線をそらしていたが。
12
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる