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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 3 ⑦
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「祥くんは強いから、やろうと思えばなんでもひとりでできるんだろうけど」
実際に、そうだった過去を自分は知っている。けれど、だからこそ、これからはそうでなくなればいいのに、と願ってもいた。
強いのも、ひとりでなんでもできるのも、そうであろうとこの人自身が望んで努力してきたからだとわかっている。小さいころから、ずっと、すごい人だった。
家が厳しかったということも一因だろうけれど、それ以上に、そういう性分なのだろうと思っていた。秘密を知るまでは。
そして、ぞっとした。自分が今まで純粋に「すごい」と感じていたこの人はなんだったのだろうと思ってしまったからだ。
アルファであれと言われ、そのとおりを歩んできた道順に、この人の意志はあったのだろうか、と。それはこの人の人生だったのだろうか、と。
向原の考えていることがわかった気がする、と口走りそうになるくらいに。
「でも、べつに、そこまで強くなくてもいいんじゃないかなって今は思うよ。榛名を見てると、特に」
「行人を?」
「うん。あいつ、本当意地っ張りだし、できないくせになんでも自分でやろうとするし、面倒だなぁって最初のころはよく思ってたんだけど」
「そういや、よく言ってたな」
「困ってたからね、あれは結構。――でも、最近はちゃんと話してくれるんだ」
秘密を打ち明けてくれたこともそうだ。驚いたし、知りたくなかったとも正直感じたけれど、それでも共有して一緒に対策を考えたいのだという姿勢を打ち出してくれたことが、うれしかった。
「祥くんみたいな強さはなくても、きっと大丈夫」
そうやって補い合って生きていくのでいいのではないかと思う。アルファだとか、オメガだとか、そういった違いの前に、ただ同じ場所で生きている人間なのだから。
言葉にはしなかったけれど、伝わったはずだ。聞き入れてくれるかどうかは、また別の問題になってしまうのだろうけれど、それでも。じっと黙って話を聞いていた成瀬が、ふっとほほえんだ。
「いい子だな、皓太は」
「そうかな」
いい子って、俺ももう高一なんだけどな。そう思ったものの、苦笑で留める。しかたないな、というふうなのに、それでいて優しさしかないような目を向けてくるから悪い。おかげで、彼の言うところのいい子を脱却する気がいつも最後でなくなってしまう。
「でも、だから、気にしなくていいよ。似たようなことは、最近よく言われるんだけどな。誰とは言わないけど」
「茅野さんでしょ」
「正解」
軽い調子で合わせると、成瀬もまたあっさりと笑った。
「あと、篠原もか」
本当、お節介だから、と鬱陶しく思っているのかそうでないのかわからない調子で苦笑して、だから、と続ける。まるで言い諭すみたいに。
「皓太は行人を気にかけてたら、それでいい」
ちょうど三年前にも似た台詞を言われたんだったな。そんなことを思い返しながら、「うん」と請け負う。
あのときはちゃんとしてやれなかったけれど、だからこそ今度があるならちゃんとしたいと願ってもいるし、それで、この人の心配事が少しでも減るならいいと思っている。
「大丈夫。俺が見るよ」
「皓太がそう言ってくれたら、安心できる」
「うん」
どこまで行っても保護者でしかない表情を崩さないから、しかたなく皓太も笑顔で頷いてみせた。
「なら、よかった」
にこ、とほほえんで話を終わらせた成瀬が、また背を向けた。消灯の時間は過ぎているはずなのに、どんどんと階下に向かっていく。
「どこ行くの?」
「皓太が気にするとじゃないよ。寮長に怒られる前に戻ってくるし」
振り返って応じた成瀬が、ふっと目を細めた。
「だから、秘密な」
昔懐かしい言い方に、苦笑ひとつで「わかった」と了承する。これ以上引き留めることは難しいだろうと思わざるを得なかったからだ。
階段を下りる静かな足音が次第に遠のいていく。行先はきっと寮の外なんだろうな。どこかまではわからないけれど。
――俺が心配することじゃないんだろうけど。
何度目になるのかわからないことを、言い聞かせるように胸中で呟く。心配して、どうにかなることではないと、頭ではわかっている。
けれど、心情の問題としては割り切れないものもたしかにあった。
実際に、そうだった過去を自分は知っている。けれど、だからこそ、これからはそうでなくなればいいのに、と願ってもいた。
強いのも、ひとりでなんでもできるのも、そうであろうとこの人自身が望んで努力してきたからだとわかっている。小さいころから、ずっと、すごい人だった。
家が厳しかったということも一因だろうけれど、それ以上に、そういう性分なのだろうと思っていた。秘密を知るまでは。
そして、ぞっとした。自分が今まで純粋に「すごい」と感じていたこの人はなんだったのだろうと思ってしまったからだ。
アルファであれと言われ、そのとおりを歩んできた道順に、この人の意志はあったのだろうか、と。それはこの人の人生だったのだろうか、と。
向原の考えていることがわかった気がする、と口走りそうになるくらいに。
「でも、べつに、そこまで強くなくてもいいんじゃないかなって今は思うよ。榛名を見てると、特に」
「行人を?」
「うん。あいつ、本当意地っ張りだし、できないくせになんでも自分でやろうとするし、面倒だなぁって最初のころはよく思ってたんだけど」
「そういや、よく言ってたな」
「困ってたからね、あれは結構。――でも、最近はちゃんと話してくれるんだ」
秘密を打ち明けてくれたこともそうだ。驚いたし、知りたくなかったとも正直感じたけれど、それでも共有して一緒に対策を考えたいのだという姿勢を打ち出してくれたことが、うれしかった。
「祥くんみたいな強さはなくても、きっと大丈夫」
そうやって補い合って生きていくのでいいのではないかと思う。アルファだとか、オメガだとか、そういった違いの前に、ただ同じ場所で生きている人間なのだから。
言葉にはしなかったけれど、伝わったはずだ。聞き入れてくれるかどうかは、また別の問題になってしまうのだろうけれど、それでも。じっと黙って話を聞いていた成瀬が、ふっとほほえんだ。
「いい子だな、皓太は」
「そうかな」
いい子って、俺ももう高一なんだけどな。そう思ったものの、苦笑で留める。しかたないな、というふうなのに、それでいて優しさしかないような目を向けてくるから悪い。おかげで、彼の言うところのいい子を脱却する気がいつも最後でなくなってしまう。
「でも、だから、気にしなくていいよ。似たようなことは、最近よく言われるんだけどな。誰とは言わないけど」
「茅野さんでしょ」
「正解」
軽い調子で合わせると、成瀬もまたあっさりと笑った。
「あと、篠原もか」
本当、お節介だから、と鬱陶しく思っているのかそうでないのかわからない調子で苦笑して、だから、と続ける。まるで言い諭すみたいに。
「皓太は行人を気にかけてたら、それでいい」
ちょうど三年前にも似た台詞を言われたんだったな。そんなことを思い返しながら、「うん」と請け負う。
あのときはちゃんとしてやれなかったけれど、だからこそ今度があるならちゃんとしたいと願ってもいるし、それで、この人の心配事が少しでも減るならいいと思っている。
「大丈夫。俺が見るよ」
「皓太がそう言ってくれたら、安心できる」
「うん」
どこまで行っても保護者でしかない表情を崩さないから、しかたなく皓太も笑顔で頷いてみせた。
「なら、よかった」
にこ、とほほえんで話を終わらせた成瀬が、また背を向けた。消灯の時間は過ぎているはずなのに、どんどんと階下に向かっていく。
「どこ行くの?」
「皓太が気にするとじゃないよ。寮長に怒られる前に戻ってくるし」
振り返って応じた成瀬が、ふっと目を細めた。
「だから、秘密な」
昔懐かしい言い方に、苦笑ひとつで「わかった」と了承する。これ以上引き留めることは難しいだろうと思わざるを得なかったからだ。
階段を下りる静かな足音が次第に遠のいていく。行先はきっと寮の外なんだろうな。どこかまではわからないけれど。
――俺が心配することじゃないんだろうけど。
何度目になるのかわからないことを、言い聞かせるように胸中で呟く。心配して、どうにかなることではないと、頭ではわかっている。
けれど、心情の問題としては割り切れないものもたしかにあった。
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