パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
243 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4 ④

しおりを挟む
「簡単な話だろ。それができないなら、今すぐ手ぇ引け。俺がぜんぶ潰してやる」

 妙に気にしたふうに篠原が、「あいつは、なにをいまさら焦っているのか」と口にしていたが、理由なんてひとつに決まっていた。
 再び流れた沈黙に、向原は奥の生徒会室に視線を向ける。これ以上ここでやり合って、無用な世話を焼かれるのは避けたかった。
 成瀬もそう思っているのだろうが、こちらも目立つところで揉めるつもりはないのだ。

「どうなんだよ」
「手は引かない。このあいだ言ったとおりで、もう決めてる」

 ――あの、折れるわけにはいかないってやつか。

 それは、いかにも「らしい」理由だった。くだらないとも思ったけれど。言わなかったのは、くだらないと感じる部分も含めて認めたからではない。なにを言っても聞かないとわかっていたからだ。それに――。

「おまえが気にしてた本尾な。俺がこういう性格でよかったな、って言ってたけど?」

 あのあとの、夜の話だ。成瀬がどう思っているのかは知らないが、覚えた苛立ちも腹立ちも、なにも消化できてはいない。
 協力してやるとは言ったが、それだけだ。それだけで、なにも変わっていない。

「どういう意味かも、そうでなかったらどうなってたのかも、おまえならわかるよな」

 簡単な話だろ、と向原は繰り返した。簡単な話のはずで、何度も思い知っているはずのことだった。
 もし思い知ることもできていないというのなら、本当にどうかしているし、思い上がっているにもほどがある。

「安心しろよ。俺はおまえと違って、約束は守る。それも、知ってるだろ?」

 だから、こうなっている。そのことも、よくわかっているはずだ。

「そうだよな」

 ふっと苦笑まじりの顔で成瀬が頷いた。

「うん、おまえはそうだ」
「……」
「なに?」

 なにもねぇよ、と言い捨てて、そのまま背を向ける。さすがにもう話はないだろうと思ったし、なにより見ていたくなかったのだ。
 引き留める声は、もうかからなかった。
 本当に、なんでこういうときにばかり、傷ついたような、諦めたような表情を見せるのか。演技だというのなら、それはそれでいいのに、そうではないとわかってしまう。
 昔から、そうだった。ふとしたときに、本人も自覚していない甘えを、こうしてのぞかせることがある。望んでいたことも、たしかにあった。けれど、今となっては億劫だった。
 そうでなければ、成瀬の言うとおり、もっと早くに見限ることもできたかもしれないのに。
 そういうところが、本当に嫌だ。

 おまえが見てないところで手ぇ出しても、おもしろくもなんともねぇだろ。
 そう笑った、あの男の声が耳に残っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...