パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6 ②

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「いきなりもなにも、もともとそう呼んでたと思うけど」
「一年の夏くらいまでの話だろうが。何年前のこと持ち出してんだ」

 うんざりと吐き捨てた篠原が、埒が明かないとばかりに切り出した。

「このあいだの、あれか」

 ひさしぶりに寮であった、大騒動。応えないでいると、今度は溜息に舌打ちまでついてきた。柄が悪い。

「こんなこと、言いたくもないし、本当に知りたくもないんだけど」
「だから、なんだよ。その前置き。鬱陶しいな」
「じゃあ、はっきり言ってやるけど。おまえ、なんかやらかしただろ。どう考えても、あいつらの処分が重すぎる。なんだ退学って。ありえねぇだろ」

 そりゃ、まぁ、いろいろと問題のあるやつらだったけど、と言ってはいるものの、その表情は不服そうだった。

 ――こういうところ、アルファだよな、こいつも。結局。

 問題があるのは、襲われた弱い存在で、強者の自分たちが正しいと、本能のようなところで思っている。

「重すぎるもなにも、問題を起こしたから、処分が下った。それだけのことだと思うけど」
「って言っても、未遂だったんだろ? それが退学って。処分の内容が重すぎるだろって話で」
「未遂でもなんでも、されたほうの心に傷は残るだろ」
「……って、どっかで主張してきたわけ、それ」

 知らず強まった語気に、篠原が呆れた顔で首を傾げる。

「べつに……」

 誤魔化すように、成瀬は手元の書類を一枚繰った。そんなことはしていないし、家の力を借りようとも思っていない。そもそもとして、貸してはくれなかっただろうが。
 篠原よりももっとあからさまに「弱いほうが悪いじゃないの」と笑って一蹴するのが関の山だ。

「俺は、なにもしてない」
「あいつにも?」

 窺うようなそれには、答えなかった。黙ったまま、もう一枚紙面を捲る。

「なにもしてないし、なにも言ってないって?」

 続いた問いかけに、しかたなく視線を向ける。呆れた、でも、嫌そう、でもない、言葉選びに悩んでいるような弱った表情。
 先ほどよりもよほど感情を逆なでるものはあったが、顔には出さなかった。そのまま言葉を待つ。
 頭に過ったのは、あの夜に見た、らしくなかったあの男の感情的な言動だった。今は見る影もない、静かな目をしているけれど。

「なんていうか、ほら、あいつ、あからさまだから」
「……あからさま、か」
「そう。まぁ、それで、おまえが、それがうれしいっていうタイプなら、問題はないだろうけど」

 そうじゃないだろ、と宥めるように、篠原が言う。

「だったら、ちゃんと話したほうがいいと思うけど。そうやって膠着状態続けてるより、よっぽど有意義だろ」

 有意義、と、成瀬は小さく繰り返した。それは、まぁ、話して解消されるのならば、たしかにそうだろう。でも、そうはならないことを自分は知っているし、向原もまちがいなく知っている。

「最初に言ったとおりで、喧嘩したつもりは、俺にはないよ」
「あのな」
「だから、そのうち元に戻るんじゃない? 適当に、時間が経てば」
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