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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10 ②
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「いいよ、事実だし。でも、榛名ってデリカシーないよね」
「ごめん」
「だから、べつにいいって」
諦めたような苦笑ひとつで、四谷は口をつぐんだ。
遠くのグラウンドから運動部の声がかすかに響いている。いっそのこと、怒ってくれたらいいのに。
四谷の声に苛立ちや怒りがないことが余計に居たたまれなくて、行人は外に意識を向けてやりすごそうとしていた。
だから、四谷が思い切るような顔をしていたことには、まったく気がついていなかった。
「すごい勝手なこと聞いていい?」
「え?」
慌てて顔を上げる。行人と目が合うと、四谷はぎこちない笑みを浮かべた。
「勝手っていうか、踏み込んだっていうか。なんて言ったらいいのかわかんないだけど。……なんか、こういう言い方するとまた気持ち悪いかもしれないけど、俺、高藤のこと好きだったからずっと見てたんだよ。それで、その近くにいた榛名のことも、ずっと見てた」
「見てた……」
「だって、視界に入ってくるんだからしょうがないでしょ。榛名たち、なんだかんだ言って、よく一緒にいたもん」
そう言われるほど行動を共にしていた記憶はなかったのだが、否定はせずに曖昧に頷く。
「そうかな」
四谷の中で記憶が書き換えられていそうだなという疑惑のほうが強かったが、これ以上、余計な地雷を踏みたくなかったのだ。
「そうなんだって。それで、まぁ、……なんというか、勝手に苛々してたの。八つ当たりしてたことは、悪かったと思ってる」
「いや、……それはいいんだけど。俺も態度良くはなかったと思うし」
「まぁね」
なかなかだったよね、と苦笑してみせた四谷が、机の上で指を組み替えた。迷うようにその指先を見つめていた視線が、ふいと上がる。
「だから、実は、ちょっと違和感があって」
「違和感?」
「うん。高藤は榛名のこと好きだと思ってたよ。でも、恋愛感情なのかなぁって言うと、どうなのかなぁって思ってた。榛名はさ、高藤のこと好きだった?」
「……」
「それで、今は好き?」
その問いかけに答えることは、行人にはできなかった。沈黙を気にしたふうでもなく、四谷が言葉を続ける。
「俺、榛名は成瀬会長のことが好きなんだと思ってた」
「それは……」
そうだったと答えたらいいのか、それとも、今もそうだと答えるべきなのか。あるいは、そんなことはなくてただの憧れだったと言うべきなのか。わからなくて言い淀む。
いつか話すことができるようになったら聞いてほしいと成瀬に告げたときから、自分の感情はなにも変わっていない。なにひとつ納得のいく答えは見つかっていないままだ。
特別に思っていた時間は、もうずっと長かったから。
「それで、高藤は……なんていうか、いいやつでしょ。で、会長とも寮長とも親しいでしょ。だから、なんていうのかな、場を収めるために、榛名とつがいの契約をしたのかなって思ったんだけど」
無意識のうちに、手をぎゅっと握りこむ。四谷の言うことは、すべて根拠のない推測でしかない。そう言い切ってしまえば、四谷はきっとそれ以上は言わない。そのこともわかっていたけれど、でも。
「よく考えたら、そんな大切なこと、そんな理由ではしないよね。だから、もしかして、そういう協定を結んだのかな、とか思ったりもして」
否定できなかった。たまらずうつむいて、四谷から目を逸らす。四谷が、高藤のことを好きだということは、知っていた。でも、その好きがどこまでのものなのか、たぶん行人はわかっていなかった。
黙り込んだ行人に向かって、四谷が笑った。
「もしそうだとしたら、それって、ここを卒業したら終わりにするの」
「それは……」
やはり、そこから先が続かなかった。握りしめた指先をただただ見つめていると、ふっと吐息のような笑みが空気を震わせた。
「俺に望みってあるの」
泣いているようにも響いたそれに、はっとして顔を上げる。声とは裏腹に、四谷は気丈な表情を崩してはいなかった。
「もしないなら、早めに言ってよ。好きなのに叶わないのも、諦めらきれないのも苦しいからさ。いいよね、榛名はオメガで」
「ごめん」
「だから、べつにいいって」
諦めたような苦笑ひとつで、四谷は口をつぐんだ。
遠くのグラウンドから運動部の声がかすかに響いている。いっそのこと、怒ってくれたらいいのに。
四谷の声に苛立ちや怒りがないことが余計に居たたまれなくて、行人は外に意識を向けてやりすごそうとしていた。
だから、四谷が思い切るような顔をしていたことには、まったく気がついていなかった。
「すごい勝手なこと聞いていい?」
「え?」
慌てて顔を上げる。行人と目が合うと、四谷はぎこちない笑みを浮かべた。
「勝手っていうか、踏み込んだっていうか。なんて言ったらいいのかわかんないだけど。……なんか、こういう言い方するとまた気持ち悪いかもしれないけど、俺、高藤のこと好きだったからずっと見てたんだよ。それで、その近くにいた榛名のことも、ずっと見てた」
「見てた……」
「だって、視界に入ってくるんだからしょうがないでしょ。榛名たち、なんだかんだ言って、よく一緒にいたもん」
そう言われるほど行動を共にしていた記憶はなかったのだが、否定はせずに曖昧に頷く。
「そうかな」
四谷の中で記憶が書き換えられていそうだなという疑惑のほうが強かったが、これ以上、余計な地雷を踏みたくなかったのだ。
「そうなんだって。それで、まぁ、……なんというか、勝手に苛々してたの。八つ当たりしてたことは、悪かったと思ってる」
「いや、……それはいいんだけど。俺も態度良くはなかったと思うし」
「まぁね」
なかなかだったよね、と苦笑してみせた四谷が、机の上で指を組み替えた。迷うようにその指先を見つめていた視線が、ふいと上がる。
「だから、実は、ちょっと違和感があって」
「違和感?」
「うん。高藤は榛名のこと好きだと思ってたよ。でも、恋愛感情なのかなぁって言うと、どうなのかなぁって思ってた。榛名はさ、高藤のこと好きだった?」
「……」
「それで、今は好き?」
その問いかけに答えることは、行人にはできなかった。沈黙を気にしたふうでもなく、四谷が言葉を続ける。
「俺、榛名は成瀬会長のことが好きなんだと思ってた」
「それは……」
そうだったと答えたらいいのか、それとも、今もそうだと答えるべきなのか。あるいは、そんなことはなくてただの憧れだったと言うべきなのか。わからなくて言い淀む。
いつか話すことができるようになったら聞いてほしいと成瀬に告げたときから、自分の感情はなにも変わっていない。なにひとつ納得のいく答えは見つかっていないままだ。
特別に思っていた時間は、もうずっと長かったから。
「それで、高藤は……なんていうか、いいやつでしょ。で、会長とも寮長とも親しいでしょ。だから、なんていうのかな、場を収めるために、榛名とつがいの契約をしたのかなって思ったんだけど」
無意識のうちに、手をぎゅっと握りこむ。四谷の言うことは、すべて根拠のない推測でしかない。そう言い切ってしまえば、四谷はきっとそれ以上は言わない。そのこともわかっていたけれど、でも。
「よく考えたら、そんな大切なこと、そんな理由ではしないよね。だから、もしかして、そういう協定を結んだのかな、とか思ったりもして」
否定できなかった。たまらずうつむいて、四谷から目を逸らす。四谷が、高藤のことを好きだということは、知っていた。でも、その好きがどこまでのものなのか、たぶん行人はわかっていなかった。
黙り込んだ行人に向かって、四谷が笑った。
「もしそうだとしたら、それって、ここを卒業したら終わりにするの」
「それは……」
やはり、そこから先が続かなかった。握りしめた指先をただただ見つめていると、ふっと吐息のような笑みが空気を震わせた。
「俺に望みってあるの」
泣いているようにも響いたそれに、はっとして顔を上げる。声とは裏腹に、四谷は気丈な表情を崩してはいなかった。
「もしないなら、早めに言ってよ。好きなのに叶わないのも、諦めらきれないのも苦しいからさ。いいよね、榛名はオメガで」
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