280 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10 ③
しおりを挟む
「いいよねって」
「だって、俺にはどうやったって無理だし、うまくいったところで祝福もされないけど、榛名だったら、祝福されるじゃんか。同じ男なのに。本当、第二の性ってなんなんだろう」
気色ばみかけていたことも忘れて、呆然と四谷を見つめる。そんなふうに思われているなんて、考えたこともなかったのだ。
「ずるいよ、オメガっていうだけで」
「……」
「俺も祝福されたかった」
ははっと乾いた声で笑ったのを最後に、四谷の視線が下を向く。なにも言えないでいると、目元を隠すように前髪を引っ張りながら、ごめん、と四谷が謝罪を口にした。
「榛名はそれでつらいのに、これも八つ当たりだ」
八つ当たりなんて言葉でおさめてしまっていいものなのかもわからなかった。かける言葉に悩んでいると、四谷が自嘲するように呟いた。
「本当、性格悪い。だから、高藤も俺のこと嫌いなんだろうな」
「そんなことない」
その否定は、半ば反射だった。強い口調に、驚いたように四谷が顔を上げる。その目をまっすぐに見つめたまま、行人は言い切った。
「今もちゃんと言葉選んでただろ。それに、謝ってもくれたし。だから、性格悪いとは思わない。……思ったことがないとは、言わないけど」
「なに、それ」
呆れたように四谷が苦笑する。どこか泣き笑いのようなそれで。覚悟を決めて、行人は頭を下げた。
「ごめん」
「ごめんって、なんで榛名が謝るの」
「四谷の言うとおりだから」
だから、これ以上、誤魔化したくないと思ったのだ。
四谷のためを思って打ち明けようとしたのか、嘘を吐く罪悪感に負けたからなのか。どちらが本当の理由なのかは、自分でもわからなかった。
ただ、伝えたかった。
「ちょっと話を戻すけど、四谷に望みがあるのかどうかは、俺にはわからない。決めるのは高藤だし。……その、俺たちは、そういう取り決めをしただけで、本当のつがいってわけじゃないから。そこは考慮する必要はないんだけど」
四谷が言ったように、高藤が自分のことをそういう意味で好きだとは思えなかったけれど、そのことは理由に含まなかった。含まないまま、話を続ける。
「これも、四谷の言うとおりで、あいついいやつだからさ、引き受けてくれて、でも」
そこで、また詰まってしまった。
「っ、……でも」
「でも?」
しかたなさそうに繰り返されても、言葉が出ない。しばらくの沈黙のあとで、諦めたように「いいよ」と四谷が首を振った。
「言わなくても、知ってるから」
「……なんで?」
「だって、わかるもん」
ぽろりとこぼれた疑問に、四谷が笑った。さも当然という調子に、もう一度、「なんで」と問い直す。けれど返ってきた答えは同じだった。
「わかるんだよ、見てたから」
最初と同じ台詞で、四谷が話を終わらせる。
「ありがとね、俺の愚痴聞いてくれて」
行人の告白には触れずに席を立った四谷が、暗くなり始めた窓の外に目を向けた。
「帰ろうか。これ以上遅くなると、ちょっとね。変な感じ。前は、寮までの道を危ないなんてまったく思わなかったのに」
最近は、なんだかね、と続いた台詞に、小さく頷く。
そんなふうに思いたくはなかったけれど、あまり遅くならないほうがいいとは高藤にも一度言われていた。春に高等部に上がったばかりのころは、なにひとつ心配なんてしていなかったのに。
まだそこまで暗くなってはいないのに、寮までの道は人気がなく閑散としていた。日が落ちるのが早くなる前に落ち着けばいいのにな、と思ったところで、一抹の寂しさを覚える。
――あたりまえだけど、冬にはもう成瀬さんは「会長」じゃないんだよな。
それどころか、次の春には三年生はみんないないのだ。
「高藤、生徒会のほうはちゃんと行ったのかなぁ」
いつもの調子で呟いた四谷は、生徒会室のある棟に心配そうな視線を送っていた。つられて目を向けてみたものの、中の様子が見えるはずもない。
明かりは灯っていたから、誰かしらは残っているのだろうけれど。
「なぁ」
ふと思いついて、行人は問いかけた。
「ん、なに」
「四谷は、高藤と成瀬さんって似てると思う?」
「あー……、それ、よく言う人いるよね。でも、俺、あんまり思ったことないんだ」
「だって、俺にはどうやったって無理だし、うまくいったところで祝福もされないけど、榛名だったら、祝福されるじゃんか。同じ男なのに。本当、第二の性ってなんなんだろう」
気色ばみかけていたことも忘れて、呆然と四谷を見つめる。そんなふうに思われているなんて、考えたこともなかったのだ。
「ずるいよ、オメガっていうだけで」
「……」
「俺も祝福されたかった」
ははっと乾いた声で笑ったのを最後に、四谷の視線が下を向く。なにも言えないでいると、目元を隠すように前髪を引っ張りながら、ごめん、と四谷が謝罪を口にした。
「榛名はそれでつらいのに、これも八つ当たりだ」
八つ当たりなんて言葉でおさめてしまっていいものなのかもわからなかった。かける言葉に悩んでいると、四谷が自嘲するように呟いた。
「本当、性格悪い。だから、高藤も俺のこと嫌いなんだろうな」
「そんなことない」
その否定は、半ば反射だった。強い口調に、驚いたように四谷が顔を上げる。その目をまっすぐに見つめたまま、行人は言い切った。
「今もちゃんと言葉選んでただろ。それに、謝ってもくれたし。だから、性格悪いとは思わない。……思ったことがないとは、言わないけど」
「なに、それ」
呆れたように四谷が苦笑する。どこか泣き笑いのようなそれで。覚悟を決めて、行人は頭を下げた。
「ごめん」
「ごめんって、なんで榛名が謝るの」
「四谷の言うとおりだから」
だから、これ以上、誤魔化したくないと思ったのだ。
四谷のためを思って打ち明けようとしたのか、嘘を吐く罪悪感に負けたからなのか。どちらが本当の理由なのかは、自分でもわからなかった。
ただ、伝えたかった。
「ちょっと話を戻すけど、四谷に望みがあるのかどうかは、俺にはわからない。決めるのは高藤だし。……その、俺たちは、そういう取り決めをしただけで、本当のつがいってわけじゃないから。そこは考慮する必要はないんだけど」
四谷が言ったように、高藤が自分のことをそういう意味で好きだとは思えなかったけれど、そのことは理由に含まなかった。含まないまま、話を続ける。
「これも、四谷の言うとおりで、あいついいやつだからさ、引き受けてくれて、でも」
そこで、また詰まってしまった。
「っ、……でも」
「でも?」
しかたなさそうに繰り返されても、言葉が出ない。しばらくの沈黙のあとで、諦めたように「いいよ」と四谷が首を振った。
「言わなくても、知ってるから」
「……なんで?」
「だって、わかるもん」
ぽろりとこぼれた疑問に、四谷が笑った。さも当然という調子に、もう一度、「なんで」と問い直す。けれど返ってきた答えは同じだった。
「わかるんだよ、見てたから」
最初と同じ台詞で、四谷が話を終わらせる。
「ありがとね、俺の愚痴聞いてくれて」
行人の告白には触れずに席を立った四谷が、暗くなり始めた窓の外に目を向けた。
「帰ろうか。これ以上遅くなると、ちょっとね。変な感じ。前は、寮までの道を危ないなんてまったく思わなかったのに」
最近は、なんだかね、と続いた台詞に、小さく頷く。
そんなふうに思いたくはなかったけれど、あまり遅くならないほうがいいとは高藤にも一度言われていた。春に高等部に上がったばかりのころは、なにひとつ心配なんてしていなかったのに。
まだそこまで暗くなってはいないのに、寮までの道は人気がなく閑散としていた。日が落ちるのが早くなる前に落ち着けばいいのにな、と思ったところで、一抹の寂しさを覚える。
――あたりまえだけど、冬にはもう成瀬さんは「会長」じゃないんだよな。
それどころか、次の春には三年生はみんないないのだ。
「高藤、生徒会のほうはちゃんと行ったのかなぁ」
いつもの調子で呟いた四谷は、生徒会室のある棟に心配そうな視線を送っていた。つられて目を向けてみたものの、中の様子が見えるはずもない。
明かりは灯っていたから、誰かしらは残っているのだろうけれど。
「なぁ」
ふと思いついて、行人は問いかけた。
「ん、なに」
「四谷は、高藤と成瀬さんって似てると思う?」
「あー……、それ、よく言う人いるよね。でも、俺、あんまり思ったことないんだ」
12
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる