パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
283 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10 ⑥

しおりを挟む
 心配されることは見下されていることだと、どこかで思ってしまっていたのだ。
 卑屈な思考だと今ならわかるが、アルファの多い学園で生きていくために、必要以上に警戒していた自分にとっては、それがただひとつの真実だった。
 頑なになっていた心をほぐしてくれたのは、成瀬を筆頭にした面倒見が良くやさしい三年生だったし、高藤だったり、荻原や四谷だったりしたのだと思う。

「でも、だから、俺、ちゃんと友達できてるのか、わからなくて」
「あー……、うん、そうだな」

 困惑のにじんだ声に、幼稚なことを言ってしまったという後悔に行人は苛まれた。まとまっていなくていいと言われたものの、あまりにも漠然としすぎている。

「そもそもとして、俺があんまり友達多いほうじゃないんだけど」

 おまけに、絶対にそうじゃないだろうことまで言わせてしまった。

「あ、あの……」
「でも、そうやって悩んでる時点で、行人はその友達をちゃんと大事にできてるんだなとは思うよ」
「そうなんでしょうか」

 それは、自分では思いつきもしなかったことだった。縋るように問い返した行人に、「うん」と成瀬は優しくほほえんだ。

「少なくとも、俺はあんまりそういうことまで考えないし。比べる相手が俺で申し訳ないけど、それに比べたら、十分大事にできてると思うよ」
「いや、そんなことは」

 慰めてもらっているにしても、さすがに申し訳がなくなってきて、頭を振る。だって、なんでもできる人で、常に周囲に誰かがいるような人なのだ。そのはずなのに、「どうかな」と曖昧に苦笑されてしまった。

「俺、本当にそっち方面あんまり人間できてないから。――俺のことはどうでもいいんだけど、喧嘩でもしたの、その友達と。言いたくないなら、言わなくてもいいけど」
「えっと……」

 喧嘩ではない、と思うのだけれど。こちらを気遣って笑った四谷のぎこちない笑顔が頭に浮かぶ。
 昔のように八つ当たりしてくれたら、自分もその態度に対して怒ることができて、喧嘩になって、楽だったのかもしれない。
 そんなことをまた考えたまま、行人は吐き出した。

「喧嘩っていうか、なんか、自分がすごい卑怯なことしてる気がして」

 自分ひとりで抱えきれずに、成瀬に相談している現状もそうだ。思い至って、ぎゅっと手を握りしめる。
 だって、自分は、四谷が高藤のことを好きなことは知っていたのだ。それなのに、あのとき、――あの提案を受けたとき、そんなことはなにひとつ思い浮かばなかった。
 自分のことで精いっぱいで、他人のことを思いやれない。交友関係なんて無意味だと切って捨てていた報いなのだろうか。
 大事にしてもらっても、大事にし返すことができない。

 ――それも、本当に、今に始まった話じゃないんだろうけど。

 その証拠に、高藤のことをもう少し考えてやればどうかと四谷に苦言を呈されたのは、今回がはじめてではないのだ。
 四谷の目には、行人が高藤を大事にしているようには、ずっと映っていなかったのだろう。そのことを、行人は否定できない。

「卑怯なこと? なにか言われたの」
「あ、……いや、嫌なこと言われたとか、そういうんじゃ本当にないんです。ただ、俺がすごく駄目だなって思い知ったっていうだけで」

 それで、と言葉を絞り出す。

「なんか、合わせる顔ないなって。……だから、飛び出したのかも」
「合わせる顔って、皓太に?」

 静かに問い返されて、行人は「あ」と固まった。これは、まちがいなく、なにがあったか気づかれている。
 自分の数少ない友達が誰かということを、成瀬は知っているはずだ。その友達に「卑怯なことをした」結果、「高藤に合わせる顔がない」とくれば、答えはひとつしかないだろう。
 罪悪感に負けて、この人たちが与えてくれた隠れ蓑を脱いだことも、気づかれているかもしれない。
 けれど、成瀬は怒るようなそぶりは見せなかった。「そっか」とほんの少しだけ弱ったふうにほほえむ。

「まぁ、行人の気持ちもわからなくはないけど」
「はい。……あの」
「でも、俺としてはちょっとほっとしたかな」
「ほっとですか?」

 予想外の言葉を、行人は繰り返した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

処理中です...