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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10 ⑥
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心配されることは見下されていることだと、どこかで思ってしまっていたのだ。
卑屈な思考だと今ならわかるが、アルファの多い学園で生きていくために、必要以上に警戒していた自分にとっては、それがただひとつの真実だった。
頑なになっていた心をほぐしてくれたのは、成瀬を筆頭にした面倒見が良くやさしい三年生だったし、高藤だったり、荻原や四谷だったりしたのだと思う。
「でも、だから、俺、ちゃんと友達できてるのか、わからなくて」
「あー……、うん、そうだな」
困惑のにじんだ声に、幼稚なことを言ってしまったという後悔に行人は苛まれた。まとまっていなくていいと言われたものの、あまりにも漠然としすぎている。
「そもそもとして、俺があんまり友達多いほうじゃないんだけど」
おまけに、絶対にそうじゃないだろうことまで言わせてしまった。
「あ、あの……」
「でも、そうやって悩んでる時点で、行人はその友達をちゃんと大事にできてるんだなとは思うよ」
「そうなんでしょうか」
それは、自分では思いつきもしなかったことだった。縋るように問い返した行人に、「うん」と成瀬は優しくほほえんだ。
「少なくとも、俺はあんまりそういうことまで考えないし。比べる相手が俺で申し訳ないけど、それに比べたら、十分大事にできてると思うよ」
「いや、そんなことは」
慰めてもらっているにしても、さすがに申し訳がなくなってきて、頭を振る。だって、なんでもできる人で、常に周囲に誰かがいるような人なのだ。そのはずなのに、「どうかな」と曖昧に苦笑されてしまった。
「俺、本当にそっち方面あんまり人間できてないから。――俺のことはどうでもいいんだけど、喧嘩でもしたの、その友達と。言いたくないなら、言わなくてもいいけど」
「えっと……」
喧嘩ではない、と思うのだけれど。こちらを気遣って笑った四谷のぎこちない笑顔が頭に浮かぶ。
昔のように八つ当たりしてくれたら、自分もその態度に対して怒ることができて、喧嘩になって、楽だったのかもしれない。
そんなことをまた考えたまま、行人は吐き出した。
「喧嘩っていうか、なんか、自分がすごい卑怯なことしてる気がして」
自分ひとりで抱えきれずに、成瀬に相談している現状もそうだ。思い至って、ぎゅっと手を握りしめる。
だって、自分は、四谷が高藤のことを好きなことは知っていたのだ。それなのに、あのとき、――あの提案を受けたとき、そんなことはなにひとつ思い浮かばなかった。
自分のことで精いっぱいで、他人のことを思いやれない。交友関係なんて無意味だと切って捨てていた報いなのだろうか。
大事にしてもらっても、大事にし返すことができない。
――それも、本当に、今に始まった話じゃないんだろうけど。
その証拠に、高藤のことをもう少し考えてやればどうかと四谷に苦言を呈されたのは、今回がはじめてではないのだ。
四谷の目には、行人が高藤を大事にしているようには、ずっと映っていなかったのだろう。そのことを、行人は否定できない。
「卑怯なこと? なにか言われたの」
「あ、……いや、嫌なこと言われたとか、そういうんじゃ本当にないんです。ただ、俺がすごく駄目だなって思い知ったっていうだけで」
それで、と言葉を絞り出す。
「なんか、合わせる顔ないなって。……だから、飛び出したのかも」
「合わせる顔って、皓太に?」
静かに問い返されて、行人は「あ」と固まった。これは、まちがいなく、なにがあったか気づかれている。
自分の数少ない友達が誰かということを、成瀬は知っているはずだ。その友達に「卑怯なことをした」結果、「高藤に合わせる顔がない」とくれば、答えはひとつしかないだろう。
罪悪感に負けて、この人たちが与えてくれた隠れ蓑を脱いだことも、気づかれているかもしれない。
けれど、成瀬は怒るようなそぶりは見せなかった。「そっか」とほんの少しだけ弱ったふうにほほえむ。
「まぁ、行人の気持ちもわからなくはないけど」
「はい。……あの」
「でも、俺としてはちょっとほっとしたかな」
「ほっとですか?」
予想外の言葉を、行人は繰り返した。
卑屈な思考だと今ならわかるが、アルファの多い学園で生きていくために、必要以上に警戒していた自分にとっては、それがただひとつの真実だった。
頑なになっていた心をほぐしてくれたのは、成瀬を筆頭にした面倒見が良くやさしい三年生だったし、高藤だったり、荻原や四谷だったりしたのだと思う。
「でも、だから、俺、ちゃんと友達できてるのか、わからなくて」
「あー……、うん、そうだな」
困惑のにじんだ声に、幼稚なことを言ってしまったという後悔に行人は苛まれた。まとまっていなくていいと言われたものの、あまりにも漠然としすぎている。
「そもそもとして、俺があんまり友達多いほうじゃないんだけど」
おまけに、絶対にそうじゃないだろうことまで言わせてしまった。
「あ、あの……」
「でも、そうやって悩んでる時点で、行人はその友達をちゃんと大事にできてるんだなとは思うよ」
「そうなんでしょうか」
それは、自分では思いつきもしなかったことだった。縋るように問い返した行人に、「うん」と成瀬は優しくほほえんだ。
「少なくとも、俺はあんまりそういうことまで考えないし。比べる相手が俺で申し訳ないけど、それに比べたら、十分大事にできてると思うよ」
「いや、そんなことは」
慰めてもらっているにしても、さすがに申し訳がなくなってきて、頭を振る。だって、なんでもできる人で、常に周囲に誰かがいるような人なのだ。そのはずなのに、「どうかな」と曖昧に苦笑されてしまった。
「俺、本当にそっち方面あんまり人間できてないから。――俺のことはどうでもいいんだけど、喧嘩でもしたの、その友達と。言いたくないなら、言わなくてもいいけど」
「えっと……」
喧嘩ではない、と思うのだけれど。こちらを気遣って笑った四谷のぎこちない笑顔が頭に浮かぶ。
昔のように八つ当たりしてくれたら、自分もその態度に対して怒ることができて、喧嘩になって、楽だったのかもしれない。
そんなことをまた考えたまま、行人は吐き出した。
「喧嘩っていうか、なんか、自分がすごい卑怯なことしてる気がして」
自分ひとりで抱えきれずに、成瀬に相談している現状もそうだ。思い至って、ぎゅっと手を握りしめる。
だって、自分は、四谷が高藤のことを好きなことは知っていたのだ。それなのに、あのとき、――あの提案を受けたとき、そんなことはなにひとつ思い浮かばなかった。
自分のことで精いっぱいで、他人のことを思いやれない。交友関係なんて無意味だと切って捨てていた報いなのだろうか。
大事にしてもらっても、大事にし返すことができない。
――それも、本当に、今に始まった話じゃないんだろうけど。
その証拠に、高藤のことをもう少し考えてやればどうかと四谷に苦言を呈されたのは、今回がはじめてではないのだ。
四谷の目には、行人が高藤を大事にしているようには、ずっと映っていなかったのだろう。そのことを、行人は否定できない。
「卑怯なこと? なにか言われたの」
「あ、……いや、嫌なこと言われたとか、そういうんじゃ本当にないんです。ただ、俺がすごく駄目だなって思い知ったっていうだけで」
それで、と言葉を絞り出す。
「なんか、合わせる顔ないなって。……だから、飛び出したのかも」
「合わせる顔って、皓太に?」
静かに問い返されて、行人は「あ」と固まった。これは、まちがいなく、なにがあったか気づかれている。
自分の数少ない友達が誰かということを、成瀬は知っているはずだ。その友達に「卑怯なことをした」結果、「高藤に合わせる顔がない」とくれば、答えはひとつしかないだろう。
罪悪感に負けて、この人たちが与えてくれた隠れ蓑を脱いだことも、気づかれているかもしれない。
けれど、成瀬は怒るようなそぶりは見せなかった。「そっか」とほんの少しだけ弱ったふうにほほえむ。
「まぁ、行人の気持ちもわからなくはないけど」
「はい。……あの」
「でも、俺としてはちょっとほっとしたかな」
「ほっとですか?」
予想外の言葉を、行人は繰り返した。
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