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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ①
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[11]
自分が大事にしたいものを守るためには、どうするべきなのか。
という問いに対する向原の返答は、身も蓋もないものだったけれど、いかにもあの人らしいものだった。
――らしいはらしいし、そうだよなぁとも思うけど。でも、じゃあ実践したいかって言われると、それはちょっと違う気がするし。
あの瞬間は完全に頭に血が上っていたけれど、自分で言うのもなんだが、基本的には平和主義のつもりだ。
だから、余計な喧嘩を買うつもりも、いっさいなかったはずなのに。人気のない放課後の廊下を教室に向かって歩きながら、皓太は小さく溜息を吐いた。次なんてないに越したことはないけれど、もしあったとしても、絶対にもっと冷静に対応しようと思う。
自分がそんなことを繰り返していたら、榛名に「喧嘩をするな」なんてことも言えなくなってしまう。おまけに、五時間目どころか六時間目までまとめてサボってしまった。
後者については、荻原が適当な言い訳をしてくれていることを期待するしかない。
――でも、俺、本当、どっちかって言わなくても、祥くん寄りの思考回路なんだって。
だから、向原の言うことはわからなくはないのだけれど、いざ自分がとなると躊躇を覚えるというか。どちらが正しということではなく、あくまで感覚的に成瀬のほうが近いというだけの話ではあるのだけれど。
でも、そうとばかりも言ってられないのかなぁ、と悩みながら教室のドアを引いたところで、皓太は「あれ」と目を瞬かせた。
「荻原、まだいたんだ……って、もしかして待ってくれたりした?」
誰もいないだろうと思っていた教室に、ひとり残っていた荻原は、勉強で時間を潰していたらしかった。顔を上げた荻原が、人当たりのいい笑みを浮かべる。
「待ってたっていうか、鞄とかもぜんぶ置きっぱなしだったから、置いて帰るのもなーって」
「あ」
「六限目には戻ってくるって言ってたのに戻ってこないし」
鞄の存在なんてすっかり忘れていたものの、逆の立場だったら、自分も放って帰ることはできなかった気がする。
荻原が「面倒だった」という表情をしていないことが、よりいっそう申し訳ない。
「ごめん、ちょっと戻りそびれて」
「いいよ、なんか事情があったんでしょ。俺も勉強してただけだし。それに寮に戻っても、よっちゃんあたりに絡まれそうだったからっていうのもあったし」
深入りすることなく、さらりと流してから、「俺もひとつごめんなんだけど」と荻原が切り出した。
「もしかして生徒会室にいるのかなと思って、鞄持って顔出しちゃったんだよね」
「あ、……そうなんだ」
「会長しかいなかったんだけどさ。どうしたのって聞かれたから、ちょっと余計なこと答えちゃったかも。べつに怒ってなかったと思うんだけど」
「ぜんぜんいいよ、それは。むしろ手間かけてごめん」
というか、あの人、俺のことを怒れるような品行方正な生活態度じゃないし、という事実は呑み込で苦笑する。
遅かれ早かれ伝わっていただろうし、本当に気にしていない。あの人たちは、ちょっとどうかと思うくらい、この学園の情報を把握しているのだ。
情報源を自分に言わないあたり、ろくでもない方法が混ざっているのだろうと皓太は踏んでいる。
「それで、それは本当にいいんだけど。その、……どうだった?」
あの状況でひとりさっさと消えておいて聞ける台詞でないことは重々承知しているが、明日の自分のために聞いておきたい。
恐る恐るの雰囲気が面白かったのか、軽く笑ってから荻原が教室を見渡した。その視線が水城の席で止まる。
「まぁ、ざわついてたはざわついてたけどね。タイミングよく先生が来て授業も始まったし、ハルちゃんもいつものすまし顔に戻ってたから」
それ以上は特になかったよ、という報告にほっと安堵したのも束の間、ずばりと言われてしまった。
「どっちかっていうと、高藤にビビっちゃった子のほうが多かったかもね」
「やめて。反省してるから。本当やめて」
「そんな嫌そうな顔しなくても。でも、しかたないと思うよ? ほら、普段怒らない人が怒ると怖いから」
「……」
「ハルちゃんはハルちゃんで別の意味で怖かったけど、同じ寮の子は知ってる子も多かったみたいだし。このあいだ、会長とやり合ってたときも、なかなかだったしねぇ」
はは、と乾いた笑いが出てしまった。たしかに、あれはなかなかだったなぁ、とは思う。自分と同学年の人間が、はっきりとあの人に楯突いているところを見たのは、はじめてだったかもしれない。
広げていた参考書やらを片づけながら、止めのように荻原が続ける。
「そういう意味で、高藤のほうがインパクトあったんだよ。諦めなって」
自分が大事にしたいものを守るためには、どうするべきなのか。
という問いに対する向原の返答は、身も蓋もないものだったけれど、いかにもあの人らしいものだった。
――らしいはらしいし、そうだよなぁとも思うけど。でも、じゃあ実践したいかって言われると、それはちょっと違う気がするし。
あの瞬間は完全に頭に血が上っていたけれど、自分で言うのもなんだが、基本的には平和主義のつもりだ。
だから、余計な喧嘩を買うつもりも、いっさいなかったはずなのに。人気のない放課後の廊下を教室に向かって歩きながら、皓太は小さく溜息を吐いた。次なんてないに越したことはないけれど、もしあったとしても、絶対にもっと冷静に対応しようと思う。
自分がそんなことを繰り返していたら、榛名に「喧嘩をするな」なんてことも言えなくなってしまう。おまけに、五時間目どころか六時間目までまとめてサボってしまった。
後者については、荻原が適当な言い訳をしてくれていることを期待するしかない。
――でも、俺、本当、どっちかって言わなくても、祥くん寄りの思考回路なんだって。
だから、向原の言うことはわからなくはないのだけれど、いざ自分がとなると躊躇を覚えるというか。どちらが正しということではなく、あくまで感覚的に成瀬のほうが近いというだけの話ではあるのだけれど。
でも、そうとばかりも言ってられないのかなぁ、と悩みながら教室のドアを引いたところで、皓太は「あれ」と目を瞬かせた。
「荻原、まだいたんだ……って、もしかして待ってくれたりした?」
誰もいないだろうと思っていた教室に、ひとり残っていた荻原は、勉強で時間を潰していたらしかった。顔を上げた荻原が、人当たりのいい笑みを浮かべる。
「待ってたっていうか、鞄とかもぜんぶ置きっぱなしだったから、置いて帰るのもなーって」
「あ」
「六限目には戻ってくるって言ってたのに戻ってこないし」
鞄の存在なんてすっかり忘れていたものの、逆の立場だったら、自分も放って帰ることはできなかった気がする。
荻原が「面倒だった」という表情をしていないことが、よりいっそう申し訳ない。
「ごめん、ちょっと戻りそびれて」
「いいよ、なんか事情があったんでしょ。俺も勉強してただけだし。それに寮に戻っても、よっちゃんあたりに絡まれそうだったからっていうのもあったし」
深入りすることなく、さらりと流してから、「俺もひとつごめんなんだけど」と荻原が切り出した。
「もしかして生徒会室にいるのかなと思って、鞄持って顔出しちゃったんだよね」
「あ、……そうなんだ」
「会長しかいなかったんだけどさ。どうしたのって聞かれたから、ちょっと余計なこと答えちゃったかも。べつに怒ってなかったと思うんだけど」
「ぜんぜんいいよ、それは。むしろ手間かけてごめん」
というか、あの人、俺のことを怒れるような品行方正な生活態度じゃないし、という事実は呑み込で苦笑する。
遅かれ早かれ伝わっていただろうし、本当に気にしていない。あの人たちは、ちょっとどうかと思うくらい、この学園の情報を把握しているのだ。
情報源を自分に言わないあたり、ろくでもない方法が混ざっているのだろうと皓太は踏んでいる。
「それで、それは本当にいいんだけど。その、……どうだった?」
あの状況でひとりさっさと消えておいて聞ける台詞でないことは重々承知しているが、明日の自分のために聞いておきたい。
恐る恐るの雰囲気が面白かったのか、軽く笑ってから荻原が教室を見渡した。その視線が水城の席で止まる。
「まぁ、ざわついてたはざわついてたけどね。タイミングよく先生が来て授業も始まったし、ハルちゃんもいつものすまし顔に戻ってたから」
それ以上は特になかったよ、という報告にほっと安堵したのも束の間、ずばりと言われてしまった。
「どっちかっていうと、高藤にビビっちゃった子のほうが多かったかもね」
「やめて。反省してるから。本当やめて」
「そんな嫌そうな顔しなくても。でも、しかたないと思うよ? ほら、普段怒らない人が怒ると怖いから」
「……」
「ハルちゃんはハルちゃんで別の意味で怖かったけど、同じ寮の子は知ってる子も多かったみたいだし。このあいだ、会長とやり合ってたときも、なかなかだったしねぇ」
はは、と乾いた笑いが出てしまった。たしかに、あれはなかなかだったなぁ、とは思う。自分と同学年の人間が、はっきりとあの人に楯突いているところを見たのは、はじめてだったかもしれない。
広げていた参考書やらを片づけながら、止めのように荻原が続ける。
「そういう意味で、高藤のほうがインパクトあったんだよ。諦めなって」
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