パーフェクトワールド

木原あざみ

文字の大きさ
292 / 484
第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 11 ⑧

しおりを挟む
「自分とは真逆とまでは言わなくても、中道寄りの人が通るようにした。試したんだよね、違う?」

 尋ねながらも、違わないだろうことを皓太は確信していた。だから、聞いたのだ。あの当時は気がついていなかったが、今ならわかる。そういうことだったのだと。

「この学園が本当に成瀬さんの思う方向に進むのか、どうか。その一年を試金石にしたんだよね」

 余計な口のひとつも挟まず、成瀬は黙って話を聞いていた。負けてしまわないように、「それで」と声に力を込めて続ける。

「俺が会長になって、自分の路線に戻って、それが受け入れられていることに、ほっとした」

 あの日。生徒会長の職に就くことになったと報告したとき、この人はうれしそうにほほえんでいた。年下の幼馴染みの成長を喜んでいたのだと思っていた。でも、それだけではなかったのかもしれない。

「違うかな」

 目を見たまま、そう皓太は繰り返した。
 もし本当に違うというのなら、先だっての補選で候補に挙がっていたのは、その人だったはずだ。自分が選ばれた時点で、順番をひとつ抜かしている。
 すべて、今になって思えば、であるけれど、中等部に入学してすぐ「遊びにおいで」と部外者の自分を生徒会室に招き入れていたことも、きっとそうだったのだろう。
 だから皓太は、自身が会長になったとき、自然と成瀬のやり方をまねた。それが唯一の手本だったからだ。

「そんな言い方したら、あの子がかわいそうだろ。ちゃんと一期務め上げてくれたんだから」

 ふっと困ったように成瀬が笑みを浮かべた。幼いころから見慣れた、優しげな顔で。

「でも、呉宮先輩、言ってたよ。俺に引き継ぐとき。成瀬先輩は、『俺の色を引き継ぐことはない。自分のやりたいようにやればいい』って言うだけで、基本的なことしか教えてくれなかった、って」

 非難するような言葉を選んでも、その表情は変わらなかった。その顔に向かって、淡々と続ける。

「あの人の色が抜け切ってない場所で、無茶なこと言うよなぁって」
「そうかな」
「そうだよ」
「じゃあ、そうなのかもな」

 あっさりと前言を撤回してから、でも、と成瀬は言い足した。

「厳しい言い方をするなら、俺の色を抜き切ることができなかったのは、あの子の力不足だ。俺は、俺で変えた。ここを」
「……」
「あの子にはそれができなかったっていうなら、そこまでだったってことだ。違うかな」

 そこまでの人を選んでおいて、よく言うよ。心の中でそう吐き捨ててから、「成瀬さん」と皓太は呼びかけた。その先輩は、「いい人」だった。
 引継ぎのときも親身に面倒を見てくれたし、先輩として自分のことをかわいがってもくれた。でも、良くも悪くも、あくのない人だった。
 成瀬たちの学年と違い、二年生は昔から落ち着いていた。だから、癖もなく真面目で優秀なあの人がちょうどいいと判断した。そう成瀬が説明すれば、大半の生徒は納得するのだろうと思う。でも、それだけではきっとなかった。

「なに?」
「俺は……、今のここが好きだよ。俺や榛名にとって過ごしやすい場所だから。だから、俺をここを守るために、――成瀬さんの言うところの信頼できる仲間と協力してやっていきたいと思ってる。そう決めた」

 でも、と静かに問い重ねる。

「成瀬さんは、ここをどうしたかったの?」

 誰になにを言われなくても、わかっていた。自分はこの人を信用していたし、この人の言う理想は尊ばれるべきものだと思っていた。
 今もそう思っている。
 でも、ここは、普通じゃない。水城の言うことも、本当はわからなくはないのだ。
 それに――、この人は、オメガもアルファもベータも平等だとする世界を本当に望んでいたのだろうか。だとしたら、なんのために望んでいたのだろうか。
 信用している、ということも、この人がつくった学園の土壌が尊ばれるものだと思っているということも、本当に本当だ。けれど、彼がそれを成した理由が、道義心からだけだとは、もう思えなかった。
 にこ、と成瀬はほほえんだ。いつもどおりの、優しげな表情で。

「どうしたいもなにも、ここにいるみんなが、少しでも楽しく学園生活を送ってくれたらいいなって、そう思ってるだけだよ」
「本当に?」
「あたりまえだろ。自分の私利私欲で学園を動かしたりなんてしない」

 皓太が抱いた疑惑を払拭するように、もう一度成瀬はほほえんだ。

「ここは、みんなの学園なんだから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

処理中です...