パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 4 ①

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[4]


 かすかに聞こえた不安そうな声に、向原は足を止めた。
 違うんです、やめてください、と必死に訴えている調子のそれには聞き覚えがあった。同じ寮の一年生のものだ。
 姿は見えないが、声の感じからいって相手はふたり。この先にあるのは、人の出入りの少ない文書庫だ。
 とは言っても、まだまだ日の高い時間で、ついでに言えば、まだ授業が終わってさえいない時間ではあるのだが。

 ――違うんです、ね。

 連れ込まれるほうにも問題はあるとしか自分には思えないのだが、その理論で納得したがらない人間がいる。
 面倒だが、貸しを増やしておくにはちょうどいい。そう割り切って、ふらりと声の聞こえたほうに足を向ける。
 それなりに落ち着いていた学内が不安定になり始めた最初のきっかけは、堂々とオメガと宣言して編入してきた人間の存在だろうが、ここから先は、また少し次元が変わる。
 それを、本当に理解しているのだろうか。大局を見ているような顔をして、壊滅的に視野の狭い、あの男は。
 あまり考えると、必要以上に乱暴な仲裁をしてしまいそうだ。切り替えたところで、予想どおりの顔ぶれが視界に入った。三年がふたりに、その背に隠れてほとんど見えないが小柄な一年がひとり。
 呑気なことに、第三者が現れたことに気がついていないらしい。その背中におざなりに声をかける。

「やめとけ」

 連れ込まれる隙を見せるほうも悪いと思っていることも事実は事実だが、同時に、よくこんな面倒なことをやるな、とも思っていた。
 やりたいだけなら、適当にやらせてくれる相手を見繕ったほうが、お互い合理的だろうに。

「なんだよ」

 振り返った三年のうちのひとりが、邪魔をされたという感情を隠さないままに、そう告げてくる。

「こんなことに首突っ込んでこねぇくせに。成瀬になんか言われたんだろ」

 おまえ、あいつの言うことは聞くからな、と吐き捨てられて、向原は薄く笑った。

「たしかに、うちの会長は、もめごとも暴力沙汰も嫌ってはいるけどな」

 自分でやる分には好き放題しているような気はするが、それはそれだということにしておいてやるしかない。そのこと自体は、べつにどうでもいいのだが。自分はそうではないと匂わせたまま、淡々と言い切る。

「その意に沿ってやってるうちに、やめとけって言ってんだよ」

 勝てない喧嘩を買う人間は、そう多くない。案の定、かたちばかりの捨て台詞を残して、ふたりが立ち去っていく。

 ――まぁ、勝てる勝てない以前に、逃げたら負けだって思い込んでる馬鹿もいるけどな。

 そういった高すぎるプライドは、自滅を呼ぶだけだと思うのだが。
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