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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5 ①
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[5]
謝る必要なんて、なにひとつないはずだったのに。奇妙な罪悪感で、なにをどう言えばいいのか、わからなくなってしまった。
「二十四日だから、――って、そうか、もう明後日の朝には張り出されるんだよね、これ」
公印を押した書面をしげしげと見つめている幼馴染みに向かって、成瀬はそっとほほえんだ。
「緊張する?」
「どっちかって言うと、あっというまだなって思ってた。届出期間が終わったら、選挙活動が本格的に解禁になって、それでもう来月末には演説会でしょ。気づいたときには当日になってそうだな」
そう苦笑して、生徒会選挙を公示する文書をもとの場所に皓太が戻した。強がっているふうでもない調子で、さらりと続ける。
「このあいだはいろいろ言ったけど、やれることをやるしかないしね、結局」
「それはそうかもな」
「成瀬さんにもだけど、向原さんにもだいぶ助けてもらってる手前、俺ひとりの問題でもないし。ありがたく借りれる力は引き続き借りて、がんばるよ」
飛び出したもうひとつの名前に手を止める。そこまでじっと見ていたつもりはなかったのだが、もとの場所に戻したついでに、文書棚を片づけていた皓太が振り返った。
「ん、なに?」
「いや……」
あと十分は、誰も戻ってこない。なにの含みもなさそうな顔を見つめ返して、成瀬は問いかけた。
「皓太、向原になんか言ったりした?」
「え?」
その反応で十分だった。なんでもないと告げる代わりに、にこりとほほえむ。
「選挙のこと、なにか個別で頼んだりしてたかなって。それだけ」
「いや、俺からはなにも言ってないけど……」
そこまで言ったところで、探るようだった表情を皓太がゆるめた。いつのまにか大人びた表情で、気にしてるんだ、と呟く。
思い当たるかもしれないという予想はしていたものの、言及はしないだろうと踏んでいたのだが。
「意外だな」
続いた台詞に、曖昧な苦笑を刻んで、首を傾げる。たしかにそのとおりだと思ったからだ。
茅野に勘づかれたときは、面倒だという感情が九割だった。皓太がやってきたときは、余計なものを見せたという罪悪感を抱きはした。けれど、これとはまったく種類の違うものだ。
「まぁ、でも、そうだな」
悩むように手元に視線を落としたまま、皓太が口を開く。
「なんか、俺が言ったことにしたほうが良かったかなって気がしてきたんだけど」
「なに?」
含みしかない言い方に、笑って続きを促せば、可能性の話だけど、ともう一度前置いてから顔を上げた。
「俺の家から見えたってことは、祥くんの家からも見えてたんじゃないかな」
「……それは、あるかもな」
立地を考えれば、あたりまえの話だった。考慮したくなかったがために、半ば無意識でその選択肢を排除していたのかもしれない。
「うん。その、本当に『かも』な話でしかないんだけどね。璃子さん、向原さんのこと気に入ってるから。個人的に連絡取ったりしてても、おかしくないかなーって」
思っちゃって、と取り成すように皓太が苦笑する。その態度に合わせて、成瀬も苦く笑った。
いかにもあり得そうなことだった。
――ところで、あなたはいつまでアルファの顔をしているつもりなの?
――ちょうどいい相手もいるじゃない。
記憶から排除していた台詞が、頭の中で回り始める。 記憶から排除していた台詞が、頭の中で回り始める。それこそ、いまさらだ。いまさらすぎて、言われるいわれもないことだと、そう思う。けれど――。
「あの、祥くん?」
「ん?」
戸惑いがちな呼びかけに、視線を向ける。自分のところの親子関係が健全ではないと見聞きしてしまっているせいか、幼馴染みは心配そうな顔を隠そうともしていなかった。
「俺が口出すことじゃないけど、もしかして、おばさんになにか言われたりしてた?」
「いや」
そういうことじゃないよ、と柔らかくほほえむ。いつもどおり、心配をさせないように。
「むしろ、ちょっと頭が冷えたかな」
謝る必要なんて、なにひとつないはずだったのに。奇妙な罪悪感で、なにをどう言えばいいのか、わからなくなってしまった。
「二十四日だから、――って、そうか、もう明後日の朝には張り出されるんだよね、これ」
公印を押した書面をしげしげと見つめている幼馴染みに向かって、成瀬はそっとほほえんだ。
「緊張する?」
「どっちかって言うと、あっというまだなって思ってた。届出期間が終わったら、選挙活動が本格的に解禁になって、それでもう来月末には演説会でしょ。気づいたときには当日になってそうだな」
そう苦笑して、生徒会選挙を公示する文書をもとの場所に皓太が戻した。強がっているふうでもない調子で、さらりと続ける。
「このあいだはいろいろ言ったけど、やれることをやるしかないしね、結局」
「それはそうかもな」
「成瀬さんにもだけど、向原さんにもだいぶ助けてもらってる手前、俺ひとりの問題でもないし。ありがたく借りれる力は引き続き借りて、がんばるよ」
飛び出したもうひとつの名前に手を止める。そこまでじっと見ていたつもりはなかったのだが、もとの場所に戻したついでに、文書棚を片づけていた皓太が振り返った。
「ん、なに?」
「いや……」
あと十分は、誰も戻ってこない。なにの含みもなさそうな顔を見つめ返して、成瀬は問いかけた。
「皓太、向原になんか言ったりした?」
「え?」
その反応で十分だった。なんでもないと告げる代わりに、にこりとほほえむ。
「選挙のこと、なにか個別で頼んだりしてたかなって。それだけ」
「いや、俺からはなにも言ってないけど……」
そこまで言ったところで、探るようだった表情を皓太がゆるめた。いつのまにか大人びた表情で、気にしてるんだ、と呟く。
思い当たるかもしれないという予想はしていたものの、言及はしないだろうと踏んでいたのだが。
「意外だな」
続いた台詞に、曖昧な苦笑を刻んで、首を傾げる。たしかにそのとおりだと思ったからだ。
茅野に勘づかれたときは、面倒だという感情が九割だった。皓太がやってきたときは、余計なものを見せたという罪悪感を抱きはした。けれど、これとはまったく種類の違うものだ。
「まぁ、でも、そうだな」
悩むように手元に視線を落としたまま、皓太が口を開く。
「なんか、俺が言ったことにしたほうが良かったかなって気がしてきたんだけど」
「なに?」
含みしかない言い方に、笑って続きを促せば、可能性の話だけど、ともう一度前置いてから顔を上げた。
「俺の家から見えたってことは、祥くんの家からも見えてたんじゃないかな」
「……それは、あるかもな」
立地を考えれば、あたりまえの話だった。考慮したくなかったがために、半ば無意識でその選択肢を排除していたのかもしれない。
「うん。その、本当に『かも』な話でしかないんだけどね。璃子さん、向原さんのこと気に入ってるから。個人的に連絡取ったりしてても、おかしくないかなーって」
思っちゃって、と取り成すように皓太が苦笑する。その態度に合わせて、成瀬も苦く笑った。
いかにもあり得そうなことだった。
――ところで、あなたはいつまでアルファの顔をしているつもりなの?
――ちょうどいい相手もいるじゃない。
記憶から排除していた台詞が、頭の中で回り始める。 記憶から排除していた台詞が、頭の中で回り始める。それこそ、いまさらだ。いまさらすぎて、言われるいわれもないことだと、そう思う。けれど――。
「あの、祥くん?」
「ん?」
戸惑いがちな呼びかけに、視線を向ける。自分のところの親子関係が健全ではないと見聞きしてしまっているせいか、幼馴染みは心配そうな顔を隠そうともしていなかった。
「俺が口出すことじゃないけど、もしかして、おばさんになにか言われたりしてた?」
「いや」
そういうことじゃないよ、と柔らかくほほえむ。いつもどおり、心配をさせないように。
「むしろ、ちょっと頭が冷えたかな」
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