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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5 ⑤
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「ついでに言うと、好きな理由は話聞いてもわからなかったけど、行動原理ならわかるよ」
「行動原理? 長峰のか?」
「そう。まぁ、わかるって言っても推測だけど。ああいうやつって、自分が好きな相手は守ってやりたいんだろ? 風紀とつるみ始めた理由もそれっぽいし」
「ああいうやつもなにも、たいていの人間は、好きな相手は守りたいものだと思うが」
「それがめちゃくちゃ傲慢ににじんでるって話」
アルファってそうだよな、と軽く言えば、おまえは自分のことを棚に上げすぎだという、うんざりとした返事。
もう一度笑ってから、成瀬は話を続けた。
「その前提で。自分の手から離れていったっていうショックもあって、でも、プライドが高いから本人には当たれない」
「それで、その当たりどころが原因の――まぁ、大本の原因はあいつらだとは思うが、俺とおまえになっていると」
「そういうこと」
にこりとほほえんで、茅野を見上げる。
「だから、わからなくはないよ。共感はまったくできなっていうだけで。でも」
「でも?」
静かに続きを促す声に、視線をまた外に向ける。休日であるせいか、窓から見る風景はいやに穏やかだった。
「怖すぎないか? あんな感情に振り回されるなんて。なにがいいのか、俺にはさっぱりわからない」
水城が入ってくる前、関係をつくった前後、そうして今。長峰の言動は著しく変わっているように、成瀬には見える。
良い方向にではなく、良くない方向へ。悪感情にまみれることが「人を好きになること」の顛末だというのなら、絶対にごめんだ。
「おまえの口から『怖い』という表現が出たことに若干驚きはしたが、そうだな」
窓の外を一瞥してから、茅野がぽつりと問いかけてきた。
「おまえ、さすがに高藤のことは好きだよな」
「好きだよ。念のために言っておくけど、弟みたいなものとしてだからな? でも、そうだな。皓太のためなら、なんでもしてもいい」
「……聞いておいてなんだが、おまえの好きは重いな」
「そう? 行人のためにもできるよ。かわいいから。守ってあげないといけないって思うし」
「だから棚に上げすぎだと言ったんだ」
いかにもしかたなさそうに笑ってから、ふと思いついたように問い重ねてくる。
「興味本位で聞きたいんだが、俺のことはどう思ってるんだ、おまえ」
「嫌いじゃないよ。嫌いだったら、こんな話してないし、ある程度以上信用してる」
「じゃあ、篠原は」
「うん、嫌いじゃないよ。裏表ないし、俺のこと特別視しないからそういう意味で信用もしてるかな。あいつの価値観まともだし。良い指針にさせてもらってる」
「じゃあ、向原は」
どうなんだ、と問われて、成瀬は一瞬黙り込んだ。そうしてから、「嫌いじゃないよ」と同じ調子で言葉を紡ぐ。
「世話になったしな。俺がここでこうしていられるのも、半分はあいつのおかげだし」
過去に何度か口にしたこともあることで、事実だった。
向原がどう思っているのかは知らないが、十分すぎる借りだと思っている。返すあてもないけれど。
「世話になった、な」
「なんだよ」
「恋愛が厄介だということには同意する。寮の部屋割りでも、一番気を回している部分だしな」
険のある受け答えをものともせず、茅野は淡々と持論を展開した。
「まぁ、なにせ、対人間の問題だ。傷つくこともあるし、傷つけることもあるだろう。すべてがわかり合えるわけでもないしな。――が、厄介なだけではないと思うぞ。というか、そうであってほしいと思う」
「……」
「おまえは、そうは思わないのか? それとも、そんなに怖いのか。感情に振り回されることが」
あたりまえだろ、と吐き捨てる代わりに、どうとでも取れる調子でほほえむ。
頭を過ったのは、自信と確信に満ちた母の声だった。皓太と話して以来、思い出すようになってしまったもの。
思いどおりになんて、絶対にさせたくない。そう、自分の中の幼い自分が叫んでいる気がして、よけいにわからなくなりそうだった。
誰かに振り回されることは嫌いだ。自分が自分でなくなりそうで、だから、すべて自分で選びたい。そう思っているし、願っている。
なにも変わりたくはない。
その態度に、呆れと諦めが混ざったふうな顔で茅野が苦笑をこぼした。
「こちらがいくら言ったところで、おまえが認めて納得しないことには、どうにもならないんだろうな」
それもあたりまえのことだろう、おそらくは、誰にとっても。けれど、これもべつにわざわざ言うつもりはない。
先ほどと同じ調子で、成瀬は笑った。なんでもないことだと告げるように。
「行動原理? 長峰のか?」
「そう。まぁ、わかるって言っても推測だけど。ああいうやつって、自分が好きな相手は守ってやりたいんだろ? 風紀とつるみ始めた理由もそれっぽいし」
「ああいうやつもなにも、たいていの人間は、好きな相手は守りたいものだと思うが」
「それがめちゃくちゃ傲慢ににじんでるって話」
アルファってそうだよな、と軽く言えば、おまえは自分のことを棚に上げすぎだという、うんざりとした返事。
もう一度笑ってから、成瀬は話を続けた。
「その前提で。自分の手から離れていったっていうショックもあって、でも、プライドが高いから本人には当たれない」
「それで、その当たりどころが原因の――まぁ、大本の原因はあいつらだとは思うが、俺とおまえになっていると」
「そういうこと」
にこりとほほえんで、茅野を見上げる。
「だから、わからなくはないよ。共感はまったくできなっていうだけで。でも」
「でも?」
静かに続きを促す声に、視線をまた外に向ける。休日であるせいか、窓から見る風景はいやに穏やかだった。
「怖すぎないか? あんな感情に振り回されるなんて。なにがいいのか、俺にはさっぱりわからない」
水城が入ってくる前、関係をつくった前後、そうして今。長峰の言動は著しく変わっているように、成瀬には見える。
良い方向にではなく、良くない方向へ。悪感情にまみれることが「人を好きになること」の顛末だというのなら、絶対にごめんだ。
「おまえの口から『怖い』という表現が出たことに若干驚きはしたが、そうだな」
窓の外を一瞥してから、茅野がぽつりと問いかけてきた。
「おまえ、さすがに高藤のことは好きだよな」
「好きだよ。念のために言っておくけど、弟みたいなものとしてだからな? でも、そうだな。皓太のためなら、なんでもしてもいい」
「……聞いておいてなんだが、おまえの好きは重いな」
「そう? 行人のためにもできるよ。かわいいから。守ってあげないといけないって思うし」
「だから棚に上げすぎだと言ったんだ」
いかにもしかたなさそうに笑ってから、ふと思いついたように問い重ねてくる。
「興味本位で聞きたいんだが、俺のことはどう思ってるんだ、おまえ」
「嫌いじゃないよ。嫌いだったら、こんな話してないし、ある程度以上信用してる」
「じゃあ、篠原は」
「うん、嫌いじゃないよ。裏表ないし、俺のこと特別視しないからそういう意味で信用もしてるかな。あいつの価値観まともだし。良い指針にさせてもらってる」
「じゃあ、向原は」
どうなんだ、と問われて、成瀬は一瞬黙り込んだ。そうしてから、「嫌いじゃないよ」と同じ調子で言葉を紡ぐ。
「世話になったしな。俺がここでこうしていられるのも、半分はあいつのおかげだし」
過去に何度か口にしたこともあることで、事実だった。
向原がどう思っているのかは知らないが、十分すぎる借りだと思っている。返すあてもないけれど。
「世話になった、な」
「なんだよ」
「恋愛が厄介だということには同意する。寮の部屋割りでも、一番気を回している部分だしな」
険のある受け答えをものともせず、茅野は淡々と持論を展開した。
「まぁ、なにせ、対人間の問題だ。傷つくこともあるし、傷つけることもあるだろう。すべてがわかり合えるわけでもないしな。――が、厄介なだけではないと思うぞ。というか、そうであってほしいと思う」
「……」
「おまえは、そうは思わないのか? それとも、そんなに怖いのか。感情に振り回されることが」
あたりまえだろ、と吐き捨てる代わりに、どうとでも取れる調子でほほえむ。
頭を過ったのは、自信と確信に満ちた母の声だった。皓太と話して以来、思い出すようになってしまったもの。
思いどおりになんて、絶対にさせたくない。そう、自分の中の幼い自分が叫んでいる気がして、よけいにわからなくなりそうだった。
誰かに振り回されることは嫌いだ。自分が自分でなくなりそうで、だから、すべて自分で選びたい。そう思っているし、願っている。
なにも変わりたくはない。
その態度に、呆れと諦めが混ざったふうな顔で茅野が苦笑をこぼした。
「こちらがいくら言ったところで、おまえが認めて納得しないことには、どうにもならないんだろうな」
それもあたりまえのことだろう、おそらくは、誰にとっても。けれど、これもべつにわざわざ言うつもりはない。
先ほどと同じ調子で、成瀬は笑った。なんでもないことだと告げるように。
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